第20話 蟻塚から出てきたもの
叩き潰して散らかった蟻の残骸。俺は、その最後の一つを生ゴミ処理器に突っ込む。
そうして片付けが、ようやく終わる。
「ああ、疲れた。もうダメ。蟻、見たくない」
「お疲れ様です、ユウト」
「クロも片付け手伝ってくれて、ありがと。本当に助かったよ。前回、この量の残骸を一人で片付けて、軽く心折れたから」
俺はアームで片付けを手伝ってくれたクロに心からお礼を伝える。死骸を運ぶ量でいえば、ドローンについたアームでの運搬だ。そこまで効率は良くない。
それでも、あの量の虫の死骸に一人で向き合わなくて良い、というのは精神的な支えが非常に大きかった。
もう、蟻の事は考えたくもないとばかりに俺はブルブルと頭を振る。
「そういえば、さっきよく聞こえなかったセキュリティの話って、大丈夫そう?」
「はい。社会的安全性の向上が望めると思われます」
「……それは何より」
──社会的安全性? 変わった言い回しだけど。まあ、セキュリティアプリなら、そうか。
「また、こちらを頂いてもよろしいですか?」
「あー。進化律だっけ? 全然いいけど……」
相変わらず残骸の一部を欲しがるクロを不思議に思いながら俺は再びその続きを訊くタイミングを逃してしまう。
「うそ、だろ」
処理するのやだなーと目をそらしていたものが実はもう一つある。蟻塚だ。
小さく山になったそれが、突然、わさわさとうごめくように振動しはじめたのだ。
──もしかしなくても、また、蟻が出てくるのか? 勘弁してくれよ……
俺は涙目になりながらも覚悟をきめると、新聞紙ソードを握りしめる。
しかし幸いなことに、俺のその最悪の予想は見事に外れた。
蟻塚から蟻が這い出して来ることはなく、逆にさらさらとその小山が端から崩れていく。
不思議に思いながら、見つめる先。蟻塚が崩れた部分に何かきらりと光るものが見える。
「何か、ある?」
「そうみたいですね」
クロのホログラムも不思議そうな表情だ。
俺は慎重に蟻塚に近づくと手にした新聞紙ソードでその崩れた部分を突っついてみる。
さらに崩れていく蟻塚。そして、ぽろっと何かが落ちる。
「これは、懐中時計? 実物は、はじめて見るかも」
「そのようですね」
銀色の鎖に、金色の本体をした懐中時計だ。傷もなく綺麗だ。少し高価な品にも見える。
俺は軍手をしたままそっとそれを持ち上げてみる。
「うーん。何で懐中時計がこんなところに? あ、もしかして家の前の持ち主の人のだったりするのかな」
俺は懐中時計の蓋を開けてみる。
中も大きな傷も見あたらない。
「さすがに、動いてないよな。どうしよう、これ。たしか家の前の持ち主は死んでしまって、とかうちの父親が言ってたんだよ」
「であれば、持っていても問題ないのでは?」
「うーん。そうなのか? まあ、預かっといて、父親が帰ってきたら相談するよ」
俺はとりあえずツナギのポケットに懐中時計をしまう。
この黄金の懐中時計が、黒1ダンジョンで初の出土となるダンジョン産の
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