第44話 帝国式ガントレット
~
「おい、あったのか」
「はい! 無事見つかりました」
客室から大きなバッグを抱えて降りてくる僕に対し、ご主人は心配そうに声を掛けてくれる。ビーナさんの部屋はご主人に開けてもらった。荷物は全部まとめて置いてあったので時間はそれほど掛からなかった。
「ボウズ。お前さんのその連れ、勇者ギント、なんだな……?」
ユーシャはいま身バレ防止にフードを深くかぶっているが、ご主人には顔が割れている。誤魔化し通すことは出来ないだろうから、その問いには沈黙で返した。
「……そうか。ならこれを持ってけ」
全てを察したご主人に渡されたのは小さくて綺麗な白い箱──。男性がプロポーズに使うようなその箱の中には、見たことないほど真っ赤な宝石の玉が一つ詰まっていた。
「レートS+。最高純度のスタールビーだ」
「え、S+……。も、貰えませんよこんなの!」
ウワサでしか聞いた事ない伝説級の名前とその輝きにドギマギした。当然、タダ同然で貰えるような何かをした覚えはない。
「こいつはな、うちで代々伝わる家宝でな。生活に困った時とかどうしようもねえ時に使えって親父にはよく言われたもんさ。俺にとっちゃあ、今がその時だ。だから頼む! こいつを貰ってくれ」
「なら尚更……」
そうやって
まったくなんだってそう決断が早いのか。でも今はそれがありがたいと思えた。
「街のあちこちで不届きな連中が暴れ回ってるらしい。理由は察しがつく、気をつけろよな」
「ご主人は逃げないんですか?」
「ここには俺の全てが詰まってる。宝石なんかよりも大事な全てが。それに、他に行く宛てもねえ」
「アテがなければ、避難所まで僕たちが送りますよ!」
親切で言ったつもりがご主人は吹き出したように笑った。
「だれが好き好んで台風と移動するかよ……。仲間だと思われたらたまったもんじゃねぇ、さっさと消えな」
ご主人があえて僕たちに冷たく当たると、近くで爆発音が響いた。悠長に話してる時間はない。しっかりと頭を下げる。
「何から何までお世話になりました。急ごうユーシャ」
「おい、勇者」
走り出した僕たちの背中に声がかかる。ユーシャが先に足を止め、僕も振り返る。
「世界を救ってくれて、ありがとな」
そんな風に笑うんだなと、どっちの顔も見て思った。
☆
~街中のガレキ下~
レンガ調の建物がドミノ倒しになってできた隙間にて、僕たちは座って情報整理を始めた。今出来ることは何なのかを確認するために。と言っても話せるのは僕だけなのだが……。
「財宝魔法は……まだ無理か?」
「……。」
ユーシャは残念そうに目を瞑る。どうやら道中でも練習はしていたらしい。手を握ったり開いたりしながらため息をついている。
「最強をイメージするんだ。絵本や物語に登場する伝説の武器とか防具を杖とか、そういうの」
「……。」
いつになく真剣に額を押さえて考えを巡らすユーシャ。彼女がイメージに時間を費やしてる間、僕は使えそうな道具をビーナさんのバッグから漁って探してみる。かなりの重さがあるので中身に期待が持てるが、やはり女性の持ち物を漁る行為には抵抗感があった。
「な、んだ?」
バッグの中から出てきた際どいパンティーに意識を持っていかれそうになりながら、異物に手をかける。それは僕の手に丁度収まるサイズの小手だった。
「お、おお、おう!?」
「……!?」
物は試しと装着してみれば、小手が光りだして肩まで覆う
「……?」
「アニキから聞いたことがある。これはアニキの魔法を元に作ったっていう、帝国の可変式ガントレットだ」
過去にアニキは帝国に技術提供したことがあると語っていた。そのとき造られたのが可変式シリーズ。とどのつまり、財宝魔法の技術が一部応用された武器であり防具なんだとか。なら元に戻らないってことも……ないはず。
──どうして帝国の武器がこの中に?
いや、それは本人聞けば済むこと。それよりも今は、使い方が知りたい。
「確か、はめ込む宝石の種類によって用途が異なるはず。今は……射撃モードってとこかな?」
ふと興味が湧いたので、路肩に全身をさらけ出す。獲物を探してしばらく歩く。大砲は不思議と重さを感じなかった。
「なーおい、そこのガキ。勇者知らね?」
分かりやすくチンピラが近寄って来た。まずは、こいつで試す。
「知っているが、教える義理はないと言ったら?」
「じゃあ、力づくで吐かせてやるよ!」
仕掛けてきたソイツ目掛けて砲口を構える。ぶれる銃身は息を止めて調整する。
ウィン──。
すると、僕とソイツの間に謎の障壁が出現した。オレンジ色の小さな障壁は、どうやら肩付近から現れていて、僕の視界をサポートしてくれている。ピピピピという音が鳴って男に照準が合わせる。今狙えと言ってるみたいだ。
「ちょ待て、なんだそれは!」
「ファイヤー!!」
僕の腕から出るはずのない砲弾が射出され、頭部に着弾後に爆発して男が倒れた。頭だけが黒焦げになっている。
「ぐほ……」
「す、すごい……。これなら戦えるぞ!」
一度日陰に戻ってユーシャに自慢する。
「見たか今の!? 俺の手からバビューンって! これなら逃げも隠れもしないで全員返り討ちに出来るぞ!」
そう思ったのも束の間、ガントレットは元のチンプな小手に戻った。
「え、なんで? ……あっつ!」
小手の中から宝石がせり上がってきたので掴むと、ものすごく熱くてビックリした。
パギ──。
「もしかして、一回使ったらダメなのか……?」
足元に落としたその宝石が二つに割れている。宝石は変化の源であると同時に動力源なのかも。それを証明するように小手は動かないしズッシリ重みを感じる。
「……え? これを?」
ユーシャがおもむろにスタールビーを渡してきた。小手にハメて欲しそうだ。
「ありがと。いざという時に、ね」
一発放っただけで壊れるようじゃ、超貴重なスタールビーが勿体ない。それに、使い方を誤っている可能性もあるので今は懐にしまっておく。
「ユーシャ、これで僕たちには三つの選択肢が生まれた。キミならどうする?」
国を出るか、ビーナさんを助けに向かうか、はたまた王様に助けを求めるのか。
優柔不断な僕にはこの先どうしたらいいか分からない。だからユーシャに三つの提案をした上で決断を託してみた。
「どう思う?」
「……。」
彼女の意思は既に決まっているようで、僕に迫ってくると小手とバッグを指さした。
何となくだけど、彼女ならそう言うと思ってた。
「分かった……じゃあ行くぞ。ビーナさんを助けに!」
ユーシャは力強く頷いた。
「イタボォオオ!」
地響きみたいな怒号が響き、僕たちの隠れていた場所が爆ぜるように鈍器で粉砕された。
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