語順は〇〇を見て並べ替える
さて、語順は〇〇を見て並べ替える。これについて語ろう。
クリックベイトみたいなタイトルが続いて申し訳ない。
〇〇に入るのは「長さ」だ。
「語順は長さをみて並べ替える」
これがここで書きたい内容になる。
しかし、校正で語順を並び替えるとはどういうことだろう?
そんなことで本当に校正といえるの?
いえるのだ。
まず以下の2つの文を比較してみて欲しい。
🅰彼は銃を持って、狩りにふさわしい獲物を探すために、廃墟を探索している。
🅱狩りにふさわしい獲物を探すために、銃を持って、彼は廃墟を探索している。
句読点がくどいのは、あとの説明を明示的にするためだ。
さて、日本語の語順に関係する文法は下記の2つだ。
① 述語が文末に置かれる。
② 修飾語は被修飾語の前に来る。
並べ替えの対象になるのは、節だ。
意味的にまとまっている部分は、それを動かして語順を操作することができる。
「廃墟を」「狩りに」「銃」だけを切り出して動かすことは出来ない。
必ず「狩りにふさわしい」「廃墟を探索」という塊で語順を動かす。
このセンテンスで問題にしたいのは、この塊、文節の順番だ。
両者を比較すると、読みやすいのは後者🅱のはずだ。
前後の文脈が必要となるが、「彼は」を消せばさらに読みやすくなる。
やってみよう。
🅱狩りにふさわしい獲物を探すために、銃を持って廃墟を探索している。
日本語の主語は主題が明示されている場合、省略可能なのだ。
(実は英語でも、日記のように私が明らかな場合は省略される)
日本語の文章の意味、主役となるのは述語、文末にある。
英語は主語である文章の先頭にある名詞を飾り立てるが、日本語は逆で、末尾を飾り立てようとする。先の文章は、主語、述語だけでも成り立つのだ。
だからこそ、文中の文節の大きさを見て文章を並べ替え、最後の述語の周りを主語、目的語、述語でつなげて軽くするのは、理にかなっている。
なぜかというと、「彼は」の主語を先頭にもってくると、長文になればなるほど、述語を直接修飾しない文節で主語と述語の間が埋め尽くされることになる。
これは読み手にかなりのストレスを与える。
そればかりか、これって何の話なの? となりがちだ。
逆に術語を先頭に持ってくる場合はどうなるのだろう?
それも可能だ。それを倒置法という。
例:銃を持った彼は廃墟を探索している、狩りにふさわしい獲物を探すためだ。
なお、倒置法は短文のほうが勢いが出る。
いったいどこに行くんだ、君は?
いいかげん起きろよ、朝だぞ。
川端康成の『雨傘』では多少イレギュラーなやり方だが、文を切ってそれをやっているので、これも引用しよう。
「写真屋へ来る道とはちがって、ふたりはきゅうに大人になり、夫婦のような気持ちで帰っていくのだった。傘についてのただこれだけのことで――」
倒置しないとこうなる。
「傘についてのただこれだけのことで、写真屋へ来る道とはちがって、ふたりはきゅうに大人になり、夫婦のような気持ちで帰っていくのだった。」
さすがの美文だ。
少し話が脇道にいったので、本題に戻ろう。
かつては古英語もこの種の柔軟性を格変化で持っていた。しかし、11世紀に始まったノルマン・コンクエストを始まりとして、異民族や異文化と接触することで、そうした柔軟性は失われて「固く」なった。
現代英語の語順は、主語>動詞>目的語>場所・時勢となる。
英語の語順に準拠するとこうなるだろう。
彼は探索している、廃墟を。猟銃を持って、狩りにふさわしい獲物を探すため。
[He explores the ruins with his gun to find worthy prey.]
「狩りにふさわしい獲物」は若干意訳して「価値ある獲物」とした。
見ての通り、現代英語は最初の情報「彼は」に情報を後から追加していく形になっている。これは全て最初に登場した『彼』についての話なのだ。
そのために、文の主語と動詞が絶対に外せない。主語によって動詞の活用が決まる。逆に言えば主語がないと動詞を書くことができない。
文のつながりを図にするとこうなる。
彼は―探索している―廃墟を―銃を持って―価値ある獲物を探すため
この語順から動かすことはできない。さて、日本語の場合はどうだろう?
[ 探索している ]
丨 丨 丨 丨
彼は 銃を持って 廃墟を 狩りにふさわしい獲物を探すため
[ 探索している ]
丨 丨 丨 丨
狩りにふさわしい獲物を探すため 銃を持って 廃墟を 彼は
少しややこしい図解だが、図の意図を説明させて欲しい。
この図は日本語が「文脈」によって語順を変化できることを示している。
術語の「探索している」は文末から動かせないが、逆を言えばこれだけあれば成立する。惹かれた線は、述語にどの言葉でもつながることを示している。
「彼は探索している」「銃を持って探索している」「廃墟を探索している」
どれでも成り立つのが、日本語の柔軟性だ。意味が腑に落ちただろうか。
勘のいい人はここで、ん? と感じるだろう。
短い語が前にたくさん並んでいると、短い時間で色んな意味が並ぶことになる。文章の意味が噛み砕きづらくなるのだ。
🅰の書き方をどうしてもやりたい場合、読み手に理解の時間を与えるため、多くの句読点が必要になる。
語順の長さを見て、長い順に並べ替えると、日本語は理解しやすくなる。
例文が短かったので、まだ効果を感じられないかもしれない。文章が長くなるとこれは如実に効果が出てくる。
~~~~~~
❌塗装が剥げ、あちこちへこんだボロボロのキッチンカーが走っている。車体の側面には、陽気なピエロのイラストが描かれているのだが、そのイラストは車の赤錆で汚され、血まみれになっているようだった。
まるでテキサスの猟奇殺人者という具合だ。
~~~~~~
これは私の2作目の小説、『死人たちのアガルタ』から抜粋した。
自分で書いておいてなんだが、素晴らしい悪文だ。さっそく校正してみよう。
✅あちこちへこんでボロボロの、塗装が剥げたキッチンカーが走っている。それには陽気に手を振るピエロのイラストが側面に描かれているのだが、赤錆でひどく汚されて、ピエロというより、テキサスの猟奇殺人者という具合になっていた。
校正するとこうなるだろう。
文章はできるだけ読者に心理的負担をかけないほうが良い。
わかり易い文章を書く上でもっとも気をつけるべきは「読み手の気持ち」だ。
気配り、もてなしの心だ。
文筆には読み手というお客さんが居る以上、やっていることは接客業と同じだ。
どんな
まとめよう。
・語順は文章の長さを見て並べ替える。
・文節は長いものから先に出す。(倒置法を除く)
以上だ。
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