第5話 仲間と楽しい時間


〜〜ひとえ視点〜〜


「あ、あのね。実は西園寺さんに頼みたいことがあったの」


「わ、わたくしにですか?」


「う、うん」


「でも迷惑だと思ったから」


「ええええ!?」


 だってめっちゃ睨んでくるんもん。


「迷惑だなんてありえませんわ!」


「そうなの? 怒ってなかった?」


 西園寺さんはプルプルと顔を横に振った。


 ああ、なんか良かった。誤解だったのか。


プルプルプルプル。


 さ、西園寺さん?

 そ、そんなに強く否定しなくても……。


プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル!


「取れる! 首が取れるってぇえ! ストーーーーップ!!」


「うう、首が痛いですわ」


「気持ちは伝わったから」


「良かったですわ♡ それで頼みごととはなんでしょうか?」


「えーーとね──」


 私は、一緒にダンジョンに潜って撮影をしてもらいたいことを伝えた。


「い、市御さんと?」


「う、うん……。やっぱダメかな?」


「ふ、2人……きりで?」


「……そうなるけど?」


 女子2人はちょっと不安かな?

 ダンジョンには危険がいっぱいだからな。

 でも、私にはバゴーザーが、って。


プシュウウウウ……。


 はい!?


「ちょ、西園寺さん!? 湯気湯気! 体が熱ってるってーー!」


「濡れますわ」


「どこがーー!?」


 風邪なのかな?


「西園寺さん、体の具合でも悪いの?」


「絶好調ですわ♡ 16年生きてきて、こんなに元気な状態はありませんわ」


 そ、そうなんだ。

 そりゃ汗もかいて濡れるか。


「ぜひ、やらせていただきますわ!」


「やったーー! 嬉しいよ! ありがとう!!」


 私は彼女の手を握った。


「ダンジョンにはね。バゴーザーっていう馬顔の可変ゴーレムと一緒に入るんだけどね。それがバイクに変形して……」


プシュゥウウウウ……。


 ええええ!?


「さ、西園寺さん!? やっぱり熱があるんじゃ!?」


「て、て、て、手が……。市御さんの手がわたくしの手と……。ぬ、濡れますわ……」


「大丈夫!? タオル持ってこようか?」


「い、いえ。結構です。わたくし、幸せを実感しておりますの」


 そ、そんなにダンジョン探索がやりたかったのかな?

 それともバゴーザーの話に萌えちゃったとか?

 どちらにせよ、乗り気みたいだから良かったや。



 放課後。


 私は彼女を家に連れて行った。


「こ、こ、ここが……。市御さんの……。お住まい……」


「うん。まぁ、そう緊張せずに入ってよ」


「申しわけありません! わたくし、手持ち無沙汰ですわ! それに制服のままだなんて! せめて着物に着替えさせてくださいまし!」


「いやいや。私ん家に来るのに土産もんはいらないよぉ。それになんで着物に着替える必要があるの?」


「西園寺家の正装ですわ」


「私ん家に正装して入るつもり!? 大袈裟な!」


「し、しかしぃ……」


「いいよいいよ。んなの気にしないでぇ。ささ、入って入ってぇえ」


「は、はい! お、お邪魔いたします!」


 私は彼女を部屋に案内した。


「こ、こ、こ、ここが市御さんのお部屋……」


「散らかってるけどね。ちょっとゆっくりしてて」


「ふはぁああ……」


 まずは、親交を深めないとね。

 一応、これは仕事のお願いなんだから。

 んじゃあ、テンションの上がることをしないとだよね。


「ジャーーン! お菓子をたっぷり持ってきましたーー!」


「お、お気遣いありがとうございます」


「ふふふ。ポテチにチョコレート! 10円で買えるうめぇ棒はもちろんのこと。レタス太郎もあるよぉお!!」


「す、すごいですわね。食べたことのないお菓子ばかりです」


 西園寺さんはお嬢様みたいだからな。庶民のお菓子はわからないのか。


「まぁまぁ、食べてみてよ美味しいからさ。あとね。飲み物はジャーーン! コーラとファンダグレープです!!」


「まぁ。飲んだことのない飲み物が」


「ええ? まさか、コーラも知らないの?」


「はい。わたくしの家では飲料といえば紅茶か冷たいレモネードですから」


「あはは……」


 お嬢様だなぁ。


「んじゃさ。コーラで乾杯しよっか」


「は、はい」


カチン!


「乾杯ーー!」


ゴクゴクゴク。


「ぷはーー! うめぇえ!!」


「お、美味しいですわ! 甘くてシュワっとして! わたくし、てっきりお醤油の味がするものかと思っておりました」


「醤油?」


「だって、黒いですから」


「あはは! そんなわけないじゃん! てか、そんなもの出さないよぉ」


「え、ええ。もちろん、信頼しております。……ですから、意を決して飲んでみたのでございます」


「コーラ飲むのに意を決するとかウケるーー」


「ふふふ。それにしてもこのコーラは、とても美味しい飲み物ですね」


「でしょでしょ。お菓子も食べようよ」


 西園寺さんはレタス太郎を食べた。

 緑色の袋に入った丸い麩菓子である。カエルのキャラクターが描いてあるので、カエル味じゃないことは事前に伝えるようにした。


「カリ……。ん!? こ、これは……!! お、美味しいですわ!!」


「でしょでしょ! これを3個食べるとさ。もう口の中がね」


「うう。水分が奪われてカラカラですわ」


「そう! そこにコーラを流し込む!」


「は、はい。コーラを……。ゴクゴク」


「プハーー! 最高ぉ」


「ふはぁああ! 口の中が潤いましたわぁあ! 例えるならば、砂漠の中に現れた清らからな湧き水のようです。乾いた地面に吸い込まれるようにジンワリと浸透いたしますわ」


「あはは。的確な例えだね。流石は文学少女」


「恐縮です」


「レタス太郎、コーラ。レタス太郎、コーラ。これは最強コンボなのよ!」


「コンボ?」


「連続技よ! ときにはポテチ! こちらも水分が奪われる! よってコーラをかっ込むの! コーラがなくなればファンダに味変よ! レタス太郎とポテチを一緒に食べる荒技も忘れてはいけない!」


「んまぁ! 素晴らしい組み合わせですわぁ! 飲み物を変えることで飽きが来ない! 荒技も有りですわ!! 市御さんは世界に誇る美食家ですわね!」


「あはは」


 それはないけどね。


 さて、


「んーーとさ。撮影の話なんだけどね」


「はい」


「苗字で呼び合うのも何かなって」


「は、はい……」


「良かったらだけど下の名前で呼び合わない?」


 うう。こういうの照れるんだよな。

 なにせボッチだから。


「濡れます」


「どこが? ジュース溢したの?」


わたくしは市御さんのいうことならばなんでも聞くつもりです」


「あはは。まぁ、そんなに気負わないでよ」


 それじゃあ、


「私のことはひとえって呼んでくれていいから」


「で、では……。ひとえ様」


「なんでよ! ご主人様じゃないんだからさ。もっと気軽な呼び方でいいよ」


「で、で、では……。ひ、ひ、ひとえさん」


 なぜ赤くなるんだ?


「んじゃ私はそれでいいとして……。西園寺さんは……。えーーと、下の名前はどうなるのかな?」


 ウロタカ・フォーマ・西園寺ってどれが名前なんだろう?


わたくしはウロタカと呼んでくださいませ」


「ああ、んじゃウロちゃんにしようか」


「ウ、ウロちゃん……」


 あはは。

 なんだか下の名前で呼ぶのって照れるや。


 ウロちゃんは号泣していた。


「なんで!? ちょ、どうしたウロちゃん!?」


「コ、コーラが目に染みましたの」


 だからって泣くか?


「とりあえず、ティッシュ」


「ありがとうございます。ううう」


 よし。

 次は相棒を紹介しよう。


 私たちは外に出た。


「これが私の相棒。可変ゴーレム。 馬神バジンバゴーザーよ」


『ウマ!』


「まぁ。馬の顔をした石像が喋りましたわ!」


 バゴーザーはウロちゃんの顔に自分の顔を擦りつけた。


『ウマァ〜〜』


「な、なんですの?」


「あはは。気に入られたね」


「まぁ。お馬さんったら。なでなで、ですわ」


『ウマァ♡』


 ウロちゃんは真面目で素直な子だから、きっとバゴーザーは彼女の素質を見抜いたんだろうな。


「慣れると可愛いですわね。ふふふ」


「ふふふ。それだけじゃないんだな。ちょっと下がってて」


 ちょっと大声出すのが恥ずかしいけど。


「バゴーザー! バイクモード!!」


『ウマ!』


ガキィイイイイイイン!!


「バ、バイクに変形しましたわ!! すごいです!!」


「ふふふ。バイクのヘッドが馬だからね。免許いらずなんだ」


「高校生でも安心ですわね。ふは〜〜。カッコいいですわぁ♡ それにしてもさきほどの叫び声は?」


「ああ、あれは燃えボイスっていってさ。魂を込めた熱い叫び声じゃないとバゴーザーは反応しないんだ」


「す、素敵です……」


「そうかな? あはは。ちょい恥ずかしいけどね」


「濡れます」


「なんでだよ」


 特撮オタなのか?


「じゃあさ。早速行ってみない? ダンジョン」


「い、今からですか?」


「どうせ初級だしね。言って帰ってくるのに1時間かからないから。すぐに終わるよ」


「わ、わかりました。ではカメラのセッティングをしましょう」


 彼女は撮影機具に詳しかった。

 お嬢様なのになんでだろう?


「配信アカウントは持たれていますか?」


「あ、うん。あるけど」


「では、生配信いたしましょう」


「な、なんでそんなに詳しいの?」


「西園寺家の教育は、リモートを使って世界各国の教師から受けておりました。なので自然と身についた感じでしょうか」


 なるほど。

 これは頼もしい仲間ができたな。


「あら? もう224人もファン登録されてますわよ?」


「え? おかしいな?? この前のは失敗したんだけど??」


「ふふふ。これがひとえさんの実力ですわね」


「ははは……」


 物好きもいるもんだなぁ。

 まぁいいや。


「んじゃ、乗って」


「え?」


「え、じゃないよ。2人乗りでダンジョンに行くんだよ?」


「あ、えと……。わ、わ、わたくしが……。ひ、ひと、ひとえさんの後ろに……」


「当たり前じゃない。さぁ早く乗って」


「か、か、体が……。み、み、密着してしまいますわ」


「ははは、まぁ女の子同士だからさ。そこは気にせずに……」


プシュゥウウウウウ!!


「うわぁあああ! ウロちゃんが煙出したーーーーー!!」


「妊娠してしまいますわ」


「するかーーーーーー!」

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