物語の騎士に憧れた少年、戦姫のような少女と出会い彼女のために動く ~ARが描く極限の剣戟競技~
ぼぼんじり
遠い日
六月のある昼下がりの事だった。
早朝から覆っていた灰色はとうに消え失せ、空には雲一つない。この季節には珍しい素晴らしい青が広がっている。
それでも雨が降っていた名残だろうか。武家屋敷の石垣からは雨水が静かに滴り落ち、黒い筋をいくつも作っていた。
威勢のいい、少年たちの掛け声。
長く続く石畳みの坂の終わりには武家屋敷の門構えがあった。
開け放たれた大扉の向こうから聞こえる声。それに重なるように乾いた剣戟音が鳴る。
四角(スクエア)に縁どられた白線の中で、和服姿の男児二人が剣を打ち合っていた。
武家屋敷の中庭で二人が携えているのは木刀でも竹刀でもなく西洋の両刃剣。
この和風情緒あふれる空間で似つかわしくない代物だった。
贋物(レプリカ)の安っぽい銀色が、日光に当てられ幾度も煌めく。
「えい!」
周囲には多くの大人たちが輪を作っている。その中には和服姿の者、時代錯誤をしたような旧い時代の洋装に身を固めた者、性別に年齢に国籍も様々のようだった。
だが、皆一様に今行われている少年たちの打ち合いに見入っている。
「はあ!」
剣を合わせては身を退き、地を蹴り打ちかかる。その都度激しい金属音が鳴った。
作り物でもより本物に近い音が出るように作られているらしい。それが闘争心を一層駆り立てるのか、少年たちの打ち合いは稽古というよりも仕合に近い。
「退くな! いけ!」
二人の少年はどちらもまだ体の出来上がっていない線の細い子供だ。
しかし、剣を持ち互いを向く目には鬼気迫るものがあった。
「一人はまだ十にも満たないと聞きました」
「やはり、久条(くじょう)殿の門下生は素晴らしいですな」
感心したように大人たちが言い合う。
その中で見世物にされる事も厭わず、ひたすらに剣を振るう幼き剣士、二人。
彼らの瞳の中に映るのは頭上と同じように澄み渡り、雲一つない青。
他の何物にも捉われる事なく、剣の道に明け暮れるその心。
それはひたすら尊く見えた。この場にいる者全てが憧れを覚えるほどに。
それはひたすら純色だった。少年たちの先に待つ世界が祝福に満ち溢れているかのように。
『騎士道競技』
それが、少年たちの明け暮れている剣戟競技の名だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます