幕間2
初めて、命を狙われて反撃した時のことを、覚えている。
対人ナイフの重みにようやく慣れてきた、十歳の夜だった。
実家の屋敷、自分の部屋に侵入してきた刺客に襲われた。
冷たく射殺すような瞳をしていた刺客が、逆に命を握られて、弱々しくこちらを見ていた。
明確に命を狙われたのだから、殺してしまって問題ない。
寧ろ情けをかければ再び自分は脅かされる。
そう、理解していても、ナイフを持つ手の方が重かった。
彼にだって生活があって家族がいて、だから仕方なくやってきたのではないか?
何も、殺さなくてもいいのではないか?
そう、自分に言い訳を重ねていた直後、刺客は腹に巻いた爆弾で自爆した。
爆炎が己を巻き込む刹那、誰かに横から抱きしめられる感覚と、足が浮く浮遊感があった。
屋敷が燃えていた。全焼だった。自分が刺客を殺すのを躊躇ったから。
その結果、自分を庇ったメイドは顔半分を焼け爛らせる傷を負った。
轟々とうねる炎に照らされて、泣きじゃくる男児の肩を優しく包み、メイドは口を開いた。
「貴方様の家は、この国に魔女狩りの礎を築いた者の血を引く家柄。貴方様が何もしていなくても、御身に流れる血統へ、謂れなき恨みをぶつけられることが、これからも続くでしょう」
パチパチと弾ける火の粉が舞い、詰まった鼻腔にも煙の匂いが突き刺してくる。
そんな中でもメイドは、男児へ柔和な表情を見せていた。
「貴方様は優しい人だから、怨恨も罵声も、素直に受け止めてしまうかもしれないけど……」
吃逆をあげながら、火傷の心配をする自分に、メイドは諭すように続けた。
「それでも……それでも、どうか後悔する選択だけはしないでください。自分の信じた道を歩んで下さい」
涙を拭う。目を擦る。鼻をすする。オレンジ色に照らされたメイドの瞳を、真っ直ぐ見た。
「わたくしは貴方様に、生きた屍になって欲しくないのです」
あの夜、自分を助けてくれた
屋敷の全焼を止められなかった責を負わされ、その晩の内に処分された。
どれだけ声を張り上げて擁護しても、魔女は人を害するモノ、という固定観念を拭うには、己は余りに無力な子供だった。
メイドが魔法を使えなければ、自分は消し炭になっていた筈なのに。
だからせめて、彼女との約束だけは守らなければ。
後悔をしない為。屍にならない為。それこそ少年が敵に刃を振るう理由である。
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