File36
「ただし子さんっ! もう、やめましょう。私、ただし子さんに悪霊になってほしくないですっ!」
自らの怨念が強過ぎるために二家の存在に気付いていなかった、ただし子さんが二家の方を見た。
「あら、霊能者のお嬢ちゃんじゃない? 結界の外に飛ばしたつもりだったんだけどな。私の邪魔をしたらコロスって忠告してあげたの忘れちゃった?」
「こんなヤツらのために、ただし子さんがこれ以上苦しむ姿、私、見たくないです!」
「何よ、それ? だから、こいつらの悪業を赦して、おとなしく成仏しろっていうの? あなた、二十五年前のことや私のことを調べてきたみたいだけど、それを知っているのなら、私の怒りも分かるでしょう? あなたが私と同じ目に遭ったら、こいつらを赦すことができるの?」
血の涙が、ただし子さんの頬を伝った。
「たぶん……赦せないと思うです」
「なら、私の復讐の邪魔をしないでっ! こいつらの所為で、逸美の選手生命は断ち切られた! オリンピックの陸上代表選手に選ばれるほどのランナーだったのにっ! それだけじゃないっ! 矢走先生の野望も、陸上部の仲間たちの夢も、全部、私が奪ったんだっ! 私が風紀委員会になんて入って正義感を振りかざしたから……」
「ただし子さんは、何も悪くないです! 自分を責めないでくださいっ! ただし子さんのおかげで救われた人たちもたくさんいる筈です! こいつらには、きっと、罰が下されるですっ!」
二家の言葉を聞いた、ただし子さんの顔から一切の感情が消えた。
「罰? 罰って何? 誰が下すの? 神様? 仏様? いつ、罰が下されるの? 私は死んだっていうのに、こいつらは、結婚して子どももいて裕福な暮らしをしている。しかも、恐田は政治家の特権を使ってやりたい放題……ねえ、教えて? こいつらに誰がいつ罰を下すの? 私、もう……待ちきれないわあ……誰もやってくれないのなら、風紀委員長の私がやるしかないじゃなあい? ああ! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! 憎い! コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス……」
結界の中を犇めいていた黒蝶たちが、ただし子さんを覆いぐるぐると高速回転し黒い焔となった。ただし子さんは黒い棺の封印を解いた。そして、呪いによって銅像になっていた恐田 狡毅を棺の中から引き摺り出し元の姿に戻し呪力で宙に浮かせた。その真下には真っ赤に燃え滾る針の山が血に飢えた獣のように獲物を待ち構えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます