File33

「ちょっと、アンタの相手は私だろうが?」

 首筋を押さえながら無様にのた打ち回っている恐田氏をただし子さんが思い切り蹴り飛ばすと、細身の恐田氏が宙に舞った。恐田氏の後に続いて到着した江口 一色の父親である江口 潮と白桃 艶香の母親である白桃 操が異様な光景を目の当たりにしてポカンとしていた。恐田らの暴走を止めるために追ってきた終夜先生と佐茂は、地べたにへたり込んでいる二家の元に駆け付け動揺を隠し切れない二家を労わった。

「はあ……次から次へと邪魔が入るわねえ。仕方ないなあ。部外者を巻き込みたくないし」

 そう言いながら、ただし子さんは、呪文を唱えた。


「地縛霊術 其の三『蚊帳の外』!」


 すると、銅像が建っている場所から本校舎の手前辺りまでを薄もやが包み込み、終夜先生と佐茂が薄もやの外へと弾き飛ばされた。


「いったい、これはどういうことだ? こんなふざけた手紙を送り付けてきやがって! 私の息子に何の恨みがあるんだ?」

 美魂さんに噛まれた首筋を押さえながら立ち上がった恐田氏が、『招待状』と赤い文字で書かれた封筒の中から便箋を取り出して、ただし子さんに突き付けた。


 ―― パパ、コワイヨ タスケテ! イマスグ ガッコウノキュウコウシャニ キテ


「うちにも、同じ手紙が届いたっす!」

 縦にも横にも恐田氏の三倍くらいはあるのではないかと思われるほど巨体の江口 潮がドスの利いた声で言った。

「うちにも届いたわあ」

 俗にいう、美熟女といったところか。品性に欠ける色気を垂れ流している白桃 操がねっとりとした口調で言った。

「べつに、アンタたちの子どもには恨みはないんだけど。まあ『親が親なら子も子』って感じで、毎日のように、此処でいじめだの不純異性交遊だのしてるから、風紀委員長としてお灸をすえたって感じかしらね。まあ、アンタたちをおびき寄せるためのとしてこれ以上のはないでしょうし」

 そう言って、ただし子さんはケラケラと嗤った。

「ていうか……キサマ、どこから湧いて出た? さっきまでは、いなかったはずだ」

 恐田氏がガタガタと震えながら言った。

「私は、ずっと此処にいたわよ。アンタに視えないみたいだから、この結界の中では視えるようにしてあげたのよ。アンタ、私のこと忘れちゃったの? 私は、二十五年前のあの日から、一分一秒たりともアンタたちのこと忘れたことないってのに、つれないなあ。今日は、私の『うらみ』受け取ってもらうから」

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