File30
体育館跡地を真っ直ぐ前に進むと右手側にはグラウンド、左手側には本校舎がある。本校舎前の芝生の上にグラウンドを見渡すようにして、ただし子さんの銅像が、そして、その隣には何者から逃げる恐田 狡毅像、絡み合う江口 一色と白桃 艶香像が横一列に並んでいる筈なのだが……
「これは、いったい、どういうんことなんさ?」
虎丸が、本体不在の台座だけになった三体を見て言った。
「外出中ということでしょうか?」
逸美さんが言った。
「恐田と江口、白桃の行方は分かりませんが、ただし子さんなら練習中のようですよ。おふたりともグラウンドの方から走る音が聴こえませんか?」
このふたりは、終夜先生や佐茂よりも霊感がない。無意識に霊の存在を否定しているからだ。故に、霊たちに憑かれにくいと判断し、二家はふたりを旧校舎の敷地内でも最も霊力が高く危険なこの場所まで連れてきたのだ。それに、虎丸はスランプとはいえ現役の陸上選手。逸美さんは、かつて、オリンピックの代表候補として期待されていたほどの陸上選手だ。陸上競技に関する知識がない二家にとっては頼もしい存在だ。
「言われてみれば聴こえるような気がします」
「俺っちも」
おそらく、ふたりには足音なのか風が木々や雑草を揺らす音なのかの区別がついていないのだろう。
「私は陸上競技に関しては無知です。私の視界には、一生懸命練習しているただし子さんの姿がよく視えるですが、何の練習をしているかは分からないです。ただし子さんは、練習の邪魔をされることをとても嫌がるということが分かっているです。なので、おふたりに、ただし子さんの練習メニューを見ていただいて、話し掛けても良さそうなタイミングを教えてほしいのです。私の視界を此処にいる間だけ共有するので、私が合図するまで目を瞑ってくださいです」
ふたりは、頷いて、目を瞑った。二家が印を結び呪文を唱えた。
「偉大なる我が神よ、誇り高き霊魂を救済するため、我が主から預けられし霊力を、この者たちに分け与えることを許し給へ。『霊視シェア!』」
二家が手を叩いた。ふたりの視界に映し出された世界は、まるで別世界だった。
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