File29

「ほら、開いたよ。防犯カメラもないから安心するといい。その辺のことは、佐茂くんが全て調べてくれたよ」

 その瞬間、二家の顔から血の気が引いていった。ほんの少しだけ霊能力がある終夜先生も先ほどまでの元気がなくなった。

「新校舎にも地縛霊や浮遊霊はたくさんいるけど、旧校舎は、その比ではないなの。数というよりは質。霊力の高い霊たちが集まっているなの。その中でも、一際大きな霊力は本館前の方から感じ取ることができるなの。このままの状態だと霊音が憑かれちゃうから、あたちが預かっている霊音の霊力を少し霊音に戻して出力を上げるなの。みんな、少しだけ待っててなの」

 美魂さんが何か呪文のような言葉を唱えながら二家の頭頂からつま先までぐるぐると高速回転すると、白い焔が地面から陽炎のように立ち昇り二家を優しく包み込んだ。

「とりあえず、二段階レベル上げておいたなの、霊音」

 と言って、美魂さんは、二家の肩の上に飛び乗った。

「美魂さん、ありがとうです。皆さんお待たせして申し訳ないです。さあ、行きましょう」

 顔に生色が戻った二家が先陣を切って旧校舎の敷地内に足を踏み入れた。皆、二家の後に続いた。敷地内には濃霧のような瘴気が立ち込めていた。二家と美魂さんは霊たちを躱しながら歩を進めた。雑草が生い茂る体育館跡地を通り過ぎた辺りで二家と美魂さんが足を止めた。

「あの……この辺りがいいと思うです」

 二家が遠慮がちに一同に言った。霊能力者であるという立場上リーダー的役割を果たしていたが、ただし子さんと直接対話をする刻が近付いている今、他のことは仲間に任せますというサインなのだと皆が察した。

「了解! 私と佐茂くんはこの場所で、警備員さんや近隣の人々、やんちゃな生徒たちが此処に立ち入らないように監視しているよ。ドンと任せ給え!」

 終夜先生が言った。

「皆、例のものは肌身離さず持っているだろうか?」

 佐茂の問い掛けに対し、皆が、降魔神社の宮司である二家の養父と霊能者である二家の養母から頂戴した御守りを見せ合った。

「必ずや皆で、ただし子さんを成仏させてあげよう!」

 終夜先生の言葉に皆が力強く頷いた。

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