File27
「目立のヤツ、余計なことをしてくれたさ」
「ただし子さんの命日である6月23日が目前に迫っている大事な時期に……ただでさえ、ただし子さんとお話しするのは難しい状況ですのに無駄に神経を逆撫でさせてしまったですね」
虚ろな表情で何かを考えていた佐茂が、虎丸と二家に尋いた。
「今回の件で、小生、腑に落ちないことがあるのだが、皆の意見を聞いてもいいだろうか?」
ふたりは頷いた。
「目立は昨晩、危うく第三の銅像にされるところだったわけだが。興味本位でただし子さんに接近する者が彼女の怒りを買うのだとしたら、第二の怪異、すなわち、1年Ⅾ組の江口 一色と白桃 艶香に酷似した銅像の第一発見者である新聞部部長の高増慧は何故、無事だったんだろう? 高増だけではないんだなあ。捜査に関わった刑事たちには何か起こっただろうか? まあ、こちらに関しては『実況見分調書』や『捜査報告書』を見なければ分からないが」
「おそらくですが……ただし子さんは、恐田父たちに復讐するために必要な霊力を高めていたのだと思うです。旧校舎への立入りは校則で禁止されてはいないですし、用務員さんや警備員さんはお仕事の関係で旧校舎へ立ち入らないわけにはいかないです。ただし子さんは、お仕事をしている人たちをむやみに怖がらせるような人ではないですし、頭の悪い生徒がただし子さんに悪戯をしたとしても、来るべき時に備えて目をつぶっていたのだと思うです」
と、二家。
「ただし子さんが、目立に『練習の邪魔をするな!』と言ったことからも分かると思うんだけど、インハイに限らず大会前は、ものすごく大事な時期だから練習の邪魔されると、めっちゃムカつくんさ。ということは、俺っちたちも、ただし子さんの練習と復讐の邪魔をしに行くわけだから、恐田ジュニアらみたいに銅像にされちまう危険性が高いってわけさ。二家と美魂さん、そして、ただし子さんの親友の逸美さんがいるとはいえ、もしも、ただし子さんの理性が吹っ飛んじまったら、逸美さんをも巻き込むことになってしまうさ」
と、虎丸。
「そうなんだよなあ……矢走先生なら、お願いすれば協力してくれるとは思うが、あんな風になってしまった奥さんを見てしまったからには、もう、そっとしておきたいんだよなあ」
佐茂が白髪頭をくしゃくしゃにしながら言った。
「みんな、怖気づいてしまったなの?」
一同の様子をじっと見守っていた美魂さんが言葉を発した。美魂さんのルビーみたいな瞳が神々しく輝いた。
「そうだよ! 美魂さんは神の使いなんさ! ごめん、美魂さん。俺っち弱気になってたさ」
「小生も、すまなかった。部長として情けない姿をみせてしまったんだなあ」
「ごめんなさいです。私、今まで数え切れないくらい美魂さんに助けてもらってきたのに」
美魂さんのおかげで士気が高まった一同は、6月23日のただし子さんの命日に向けて、急ピッチで準備を進めた。
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