File13

「二十四年前、校内のトラブルが原因で自ら命を絶ったのは、風速かぜはや 正子まさこさんという方です。とても正義感が強く曲がったことが大嫌いだったことから『ただし子さん』というあだ名で呼ばれていたです。ただし子さんは陸上部に所属しながら、風紀委員長も務めていたです。当時強豪校だった陸上部と風紀委員長を掛け持ちすることは大変なことでしたが、ただし子さんは、弱音を吐くことなく、どちらも全力で取り組んでいたそうです」

「旧校舎の謎の少女像は、風速 正子さんの慰霊碑ということで間違いないのかな?」

 虎丸が二家に尋いた。

「はい。間違いないです。ともこさんたちがそう言ってたですから」

「うーん。学校創立者の銅像を建てるのはよくある話だけど、優秀だった方とはいえ一生徒の銅像を建てるって……あるのだろうか? ただし子さんが非業の死を遂げた後に何らかの怪異現象が起きたとか?」

 佐茂が白髪を弄りながら言った。

「はい。ただし子さんが校内で自殺したことで学校のイメージが悪くなったことを忌々しく思っていた当時の理事長と校長は、旧校舎を解体して新校舎を建てる計画を打ち出したですが、その直後、不慮の事故で亡くなったです。その他にも、ただし子さんの自死の原因となったトラブルに関わった数人の生徒が何かに憑りつかれたようになってしまい精神病棟に収容されたです」

「なるほど。それで、現状、まったく使われていない旧校舎が解体されずにそのままになっているというわけなんだな。そして、ただし子さんの怒りを鎮めるために銅像が建てられた、と」

「そういうことみたいです」

「でもさ、トラブルに関わった数人の生徒たちは、ただし子さんに呪われたんだよね? それでもまだ、ただし子さんは成仏できないでいるっていうことは……」

「主犯格の生徒は他にいて、ただし子さんの呪いを受けることなく、のうのうと生きているというわけなんだろうか?」

「はい。その通りでして」

「なぜ、ただし子さんは、いちばん憎んでいる筈の主犯格の奴らを見逃したんだってさ?」

「いえ、決して、見逃したわけではないのです。ただし子さんは亡くなったあの旧校舎の敷地内から外に出ることができないのです。主犯格の奴らは3人。1人は転校。2人は退学になったので、ただし子さんの領域から運良く逃れることができたです」

「それで、ただし子さんは、二十四年もの間、成仏できずに復讐の機をうかがっていた、ということだろうか?」

「はいです」

「そして、その機が、やっと訪れてきたため動き出したということなんだろうか?」

 佐茂が言い終えるのとほぼ同時に、部室のドアが勢い良く開き、肩に美魂さんを乗せた白衣姿の金髪碧眼のイケメン教師が現れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る