File06
職員室内部は騒然としている。まだ教師としての経験が浅い1年A組担任の女性教師がデスクに顔を突っ伏して泣いているのを学年主任が慰めている。殆どの教師たちが何人かずつ固まって、ひそひそ話をしている。そんな中、何事もなかったかのような涼しい顔をしてテストの採点やら書類作成を進めている終夜先生が、隠しカメラに向かって右手の人差し指で職員室内の応接室の方を指し示した。それを見た佐茂が、
「あ、なるほどなんだな」
と言って、ノートパソコンを操作した。画面が切り替わり、応接室の様子が映し出された。
応接セットには理事長と校長、テーブルを挟んで向かい側には恐田 狡介氏と恐田の妻と思われる女性が座っていた。
「まったく! この学校の安全配慮義務はどうなってるんだっ! うちの息子は他のゴミみたいな生徒とは価値が違うんだよっ!」
すごい剣幕で怒鳴り散らす恐田氏と、選挙演説をしている爽やかな恐田氏はまるで別人のように見えた。
「ま……まあ、恐田さん、少し落ち着いてお話を……」
理事長が、ポマードで念入りにセットしたバーコードヘアを触りながら言った。これが落ち着いていられるかっ! と、今にも理事長に殴りかかりそうな夫を制して恐田夫人が代わりに話し始めた。どうやら、恐田家の影の支配者は、この妖艶な雰囲気を醸し出す夫人のようだ。
「どうか、主人のご無礼をお許しくださいまし。狡毅はわたくしどもの可愛い息子ですから、主人も冷静を保てませんの。普段はとっても温厚な人ですのよ。それは理解していただけますわよね?」
この状況の中、政治家である夫のイメージを悪くしないためのフォローをさりげなく入れるあたり、恐田夫人は只者ではないのだろう。
「ええ、もちろん分かっておりますとも。私も子を持つ親ですから、もしも可愛い我が子の身に何かあれば冷静さを失ってしまうでしょう。恐田さんの政治家としての器の大きさは分かっておりますとも」
理事長の言葉に対して校長が水飲み鳥の人形のようにコクコクと首を大きく縦に振った。
政治家である恐田 狡介のイメージを悪くするような噂を流すなよ、という恐田夫人のやんわりとした脅しに対し理事長と校長は屈したのだ。
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