第18話 悪魔の特性!
「いい、サラ。もしも悪魔と戦うことになったら注意しなくちゃいけないよ」
あれは、私が10巻を読み終えて、お母さんとの戦闘訓練を始めてすぐくらいだっただろうか。
「私達人間は、基本的に杖がないと魔法が使えない。その理由はわかるよね?」
「うん、確か魔法書に書いてあった。『体内の魔力を杖が魔法に変換する』って」
「そう、正解よ。体内にある魔力はあくまでも魔力なの。それを呪文と杖の動きで道筋を作ってあげることで魔法として現象が起きるのよ」
正解ということでお母さんが私の頭を撫でる。
「ちょっと恥ずかしい」
「我慢しなさい。私はあなたのお母さんなのよ」
ひとしきり私の頭を撫で回したあと、お母さんは続けた。
「そんな魔法使いが絶対に必要になる杖を悪魔は必要ないの」
「そうなの?」
「ええ、奴らは奴ら自身の身体に杖の機能を備えているの。だから杖は必要ないのよ」
なるほど、魔力を魔法に変換する能力を身体自身が備えていると。ちょっと羨ましい。
「それと、奴らには詠唱も必要ないの。だから、息をするように魔法を使いこなすことができるのよ」
無詠唱もちょっと憧れるなぁ。
「お母さんは、悪魔と戦ったことあるの?」
「ええ、もちろん。何体も倒してきたわ」
お母さんは自慢げに頷いた。
「そうなんだ、やっぱりお母さんは強いんだね」
「中には手強いやつも沢山いたけどね。追い返すだけで精一杯だったこともあるし」
「でも、負けなかったんだよね?」
「ええ、もちろん。だって私には大事な恋人がいたもの。負けてなんかいられないわ」
あ、また始まった。
「あの人は、私がいつも戦いに行こうとすると、凄く心配そうな顔で、でも何も言わずに私を見送るのよ。それが、またいじらしくてね……」
あの人とは私のお父さんのこと。惚気が始まると凄い長いんだよなぁ。
「……生きてる?」
私の後ろから声がした。
「ええ、間に合いました」
爆発を防ぐように盾を張った私は振り返らずにマリオン先生に返した。
お母さんに悪魔について聞いていたおかげで、無事に悪魔からの初撃を防ぐことができた。
なんか余計なことまで思い出した気がするけど。
私は上空に浮いている悪魔を睨む。
悪魔は先程と全く同じ姿勢だ、こちらを認識しているんだろうけど、表情がないからわかりづらい。
「サラ先生。ありがとうございます」
正気を取り戻したらしい、マリオン先生が私の横に並んだ。
「サラ先生、すぐに学園長に報告を。あいつはとても危険です」
「学園長には、スザンヌ先生にお願いをしてあります。アレはそんなに強いんですか?」
「ええ、私とカレンがまだ学生だった頃に、似たような悪魔と対峙したことがあります。その時は、もっと大勢で戦いましたが、それでも追い返すことしかできませんでした。同じ個体かはわかりませんが」
なるほど、お母さんが言ってたやつがあいつってことかな。強いことは伝わってきた。
でも、
「それなら絶望ってわけじゃないですね」
「はぁ?何言ってるんですかサラ先生!」
私の言葉に、驚くマリオン先生。
「私が相手します。マリオン先生は、学園長に報告と念のため生徒たちの避難をお願いします」
言うだけ言って、私は歩いて防御魔法の外に出る。
「サラ先生!無茶です!……サラちゃん!」
「大丈夫ですって」
もはや泣くような声がするけど、振り向かずに返す。
「だって、学生時代のお母さんが相手できたくらいでしょう?今のお母さんより強いはずないじゃないですか」
そして、
「私、ここ1年くらいお母さんに負けてないんですよ」
模擬戦だけどね。
「えっ!?」
私は呪文を唱える。フライの魔法は身体を浮かせる魔法だ。
相手が浮いているのに、こっちだけ地面じゃ戦いづらいからね。
浮き上がり、悪魔の目の前に対峙する。最初の攻撃以来、何もしてないけど、警戒でもしてるのかな?
「まぁ、警戒したところで無駄なんだけどね」
私は悪魔に向かって杖を構える。
「悪いけど、速攻で終わらせてもらうよ」
私の言葉に、悪魔が手を振った。
---
マリオン先生視点
サラちゃんは一人悪魔に向かっていった。
サラちゃんは親友の大事な娘だ、そんな子を一人戦わせるわけにはいかない。
私もそれを追おうとしたけど、見えない壁のようなものに阻まれてしまった。
「これは、サラちゃんの防御魔法?」
目に魔力を集めて見てみる。
「とんでもない範囲の魔法!」
サラちゃんの防衛魔法は、グラウンド全体を覆うように囲われていた。
おそらく、外に魔法を漏らさないようにということはすぐに推察できた。
サラちゃんが悪魔と対峙して、なにやら言葉を漏らし、戦いが始まった。
サラちゃんは私に学園長への報告と生徒の避難を頼むと言っていた。
その意味は、自分を囮にして逃げろという意味だ。そう思っていた。しかし、
「全然見えない……」
空中で飛び合う二人の魔法の押収はもはや目で追えない。呆然と空を眺めてしまう。
時折爆発音のような音が聞こえるので戦っているのは間違いないだろうけど。どちらが優勢なのかも全くわからない。
「サラちゃん、さすが、カレンの娘。いや、ひょっとしてカレンよりも……」
カレンの後ろをついて、時には肩を並べて戦った自分にはわかる。
サラちゃんの戦闘は、あの『稀代の天才』と呼ばれたカレンが学生時代にしていたものよりもよほど高度だ。
「あっ!」
思わず声を漏らしてしまった。
爆発と共に、吹き飛ぶ影が見えた。
ひょっとしてサラちゃん!?
そう思ったけど、違った。
空には、杖を構えたまま余裕な表情のサラちゃんが佇んでいた。
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