第41.5話 止まらない独占欲(永井鈴音視点)


 真琴君とキスをした。


 その事実に私は、高揚感を抱かずには、いられなかった。


 私は、自室のベットの上で唇にそっと触れた。


『ねえ、真琴君……キスしてよ……』


 自分の言った言葉に今更ながら驚きつつも、あのとき私は、真琴君が私のことを本当に好きかどうかを確かめたかったのだ。


 加えて、ああでもしなければ真琴君の関心を上条さんや吉井さんから私の方に向けるなんてできないだろう。


 それに、仮の恋人関係だなんて言っているが、私は、それで終わらせるつもりはない。


 ――もう、手段は、選ばない。


 今までのように遠慮がちにふるまっていたら、二度とチャンスは巡ってこないだろう。


 だから、私は、ありとあらゆる手段で真琴君の関心を私だけに向けさせると決めた。


 告白するまでは、玉砕覚悟であったが、いざ、真琴君も私のことを好きでいてくれていると知ると、やはり諦めることなんてできなかった。何せ、初恋だ。


 もう一度、真琴君の唇の感触を思い出すように唇にそっと手を触れ――


「真琴君、私のこと考えてくれてるかな……?」


 私は、ベットに横になりながらボソッと呟いた。


 そんなことを呟く私も、ずっと真琴君のことばかりを考えてしまっている。


 もっと、真琴君とキスしたい。


 もっと、真琴君の色んな表情を見たい。


 本当は、他の女の子なんてもう見ないでほしい。


 早く、真琴君を私だけのものにしたい。


 仮の恋人関係だというのに、独占欲が止まらない。


「真琴君に会いたいな……」


 気づけばそんなことを呟いていた。

 

 会って、真琴君が拒まなければ真琴君とキスして、気のすむまで愛し合って、この独占欲を満たしたい。


 仮の恋人関係という関係である以上、一見すると、私の提案したルールなしには、もうそんなことは、できないと考えられる。


 しかし――


 キスをしていたとき、私は、真琴君に求められていたことを感じることができた。


 そのため、きっと口では、拒んできても私を求める気持ちに真琴君は、抗えないだろう。


 私は、そう思った。


***


 私は、1時間が経っても、真琴君のことばかりを考えて悶々と過ごしていた。


 このままではいけないと思い、私は、今日、学校を早退するときに真琴君に手渡された英語の授業の課題をすることにした。


『私の気持ちも知らないでそんなこと言わないでよ!』


 プリントをファイルから取り出したと同時に早退する際に私が真琴君に放った言葉を思い出した。


 ――あの出来事も今日の出来事だったんだよね……。


 真琴君に告白し、仮の恋人関係になったことやキスをしたことなど色々なことがありすぎて、学校での出来事がずっと前のことに感じられる。


 そんなことを考えながら私は、課題を解き始めた。


 課題を解き始めて10分くらいが経ったころのことだった――


 スマホが着信音を鳴らした。


 私は、ペンを置き、スマホに手を伸ばし、誰からの着信かを確認すると――


『赤坂光瑠』


 光瑠君からの着信だった。


 私は、迷うことなく電話を取った。


「もしもし……? どうしたの……?」


 私がそう言うと――


『ああ、こんな時間にすまんな。少し聞きたいことがあってな……。今、大丈夫か……?』


 少し遠慮がちな光瑠君の声がスマホのスピーカーから聞こえてきた。


「うん。大丈夫だよ」


『そうか……。それならよかった』


「それで、聞きたいことって……?」


 私がそう聞くと――


『ああ、霧崎のことなんだが、ちゃんと仲直りできたか……?』


 光瑠君が心配していることがわかる声色で聞いてきた。


 私は、少しドキッとしたが――


「あ、うん。なんとか仲直りできたよ。お互いに自分のことでまた精一杯になっちゃってたねって話したよ」


 スラスラと嘘をついた。


 真琴君との仮の恋人関係は、いくら光瑠君や葵ちゃんでも秘密だ。


『そ、そうか……。とりあえず一安心だな……』


 光瑠君が電話越しにホッと息をついたのがわかった。


 しかし、私は、1つ疑問に思った。


 ――何で、光瑠君は真琴君じゃなくて、私に電話をかけてきているんだろう……?


 光瑠君が真琴君と私の間にトラブルが起きたことを知っているということは、おそらく、真琴君に相談を受けたのだろう。


 葵ちゃんから聞いたという可能性もあるが、真琴君が葵ちゃんにそんなことを相談するとも思えないし、私も葵ちゃんには、この件のことは、相談していない。


 そうなると、真琴君が光瑠君に相談したという可能性が濃厚になる。


 ――それなら、私よりも真琴君にどうなったかを聞くのが自然だよね……?


 私は、そう思い――


「私より霧崎君に聞けばよかったと思うんだけど……どうして私に……?」


 電話をかけられたことを迷惑に思っている感じが出てしまうが、不思議で仕方なかったため、思い切って聞いてみた。


 すると――


『霧崎のやつ、誰かと通話中みたいで……。何度か電話をかけてみたんだが、繋がらなくてだな……』


 光瑠君が『やれやれ』と言いたげな声色で言った。


 ――真琴君が誰かと長時間通話……?


 私は、なぜだか嫌な予感がした。


 もちろん、真琴君にも藤川君や中野君、そして渡辺君などかなり仲のいい友人が少なからずいるが、真琴君が彼らと長電話をするとは、考えにくい。


 ――きっと、上条さんか吉井さんだ……。


 私は、直観でそう思った。


 胸の奥底でドロドロとした感情が湧き上がってくるのを感じる。


 ――どうして……? さっきまで、私とあんなにキスしてたのにもう私のことなんてどうでもよくなっちゃったの……?


 嫉妬で気が狂いそうになってきた。


『鈴音どうした……?』


 その声で私は、我に返った。


「あ、うん……! 何でもないよ! 私やらなきゃいけないこと思い出したから……! それじゃ……!」


『お、おう……。それじゃ……』


 光瑠君がそう言うと、私は、すぐに電話を切った。


「……」


 電話を切ると、部屋を静寂が支配した。


 まだ、真琴君が上条さんか吉井さんと電話しているとは確定していないが、もう私の思い込みは、止まらなかった。


 ――ねえ……? どうして……? 今日、仮とは言え、恋人になったばっかだよね……?


 今日は、私のことだけを想っていてほしかった。


 そして、私は、今すぐに真琴君にメッセージを送りたい衝動に駆られた。


『今、何してるの……?』


 そうメッセージを送りたくなった。


 しかし、そんなことをしたら重たい女だと思われてしまうと思い、私は、踏みとどまった。


 それから、私は、ベットに再び仰向けに横になった。


「真琴君……会いたいよ……」


 天井を眺めながら私は、呟いた。


***


 あれから、結局、真琴君に会いたいという気持ちを抑えることができず、気づけば、夜が明けていた。


 気を紛らわすためにお風呂に入ったり、音楽を聴いたり、勉強してみたり、映画を見たりしたがどれも気分転換にならなった。


 スマホに手を伸ばし、真琴君からメッセージが届いていないか確認するが、通知は、何も届いていなかった。


 ――真琴君、私のことなんてどうでもよくなっちゃったのかな……?


 自分でも気が早いのは、わかっている。


 しかし、昨日は、色々あったし、仮とはいえ恋人になったのだ。


 メッセージの1つくらいあってもいいだろう。


 そのメッセージの1つもないため、私は、不安感に駆られずにはいられなかった。


 そして、私は、無意識に――


『会いたい』


 真琴君にメッセージを送っていた。


 

 




 




 


 






 


 





 


 


 


 



 


 


 


 


 


 

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