第35話 はまらないピース
僕は、学校に着くなりすぐに英単語テストのために勉強を始めた。
幸い出題量は、1限目が始まるまでにカバーしきれない量ではなかったため助かった。
「珍しく学校に早く来たと思ったら、また、忘れてたのか……」
樹が呆れた顔をしながら僕に話かけてきた。
「あはは……まあ、何とかなりそうだし、問題ないかな」
僕が息をつきながら言った。
「なら、いいけど。仕方ないから、今度から覚えていたら前日の夜にリマインドしてあげるよ……」
樹がやれやれと言わんばかりに頭を抱えながら言った。
「ありがとう……! でも、あんまり迷惑をかけないようにするよ……」
「ああ、善処してくれ」
そんな会話をした後、僕は、5分ほど単語テストの勉強に集中していた。
――ふう……とりあえず、これで大丈夫かな……。
僕が単語テストの勉強を一段落させると――
「おはよう。今日は、ずいぶんと早いのね」
愛理が珍しいものを見る目で僕を見てきた。
「う、うん。ちょっと今日は、早起きできてね……」
僕は、そう言いながら後ろの席に座るゆきちゃんをチラッと見た。
――ゆきちゃんにお迎えしてもらったなんて言えないよね……。
僕がそんなことを考えていると、本を読んでいたゆきちゃんが顔を上げ、『こっち見てるとバレちゃうよ……?』とでも言いたげな顔で微笑んできた。
僕は、慌てて視線を前に戻した。
「そう。それはいいことね……!」
愛理は、感心したような表情で言った。
――やっぱり嘘をつくのはちょっと心苦しいな……。
僕がこれからもこうして嘘をつき続けなければならない自分を自己嫌悪していると――
「それはそうとさっきのメッセージ見た……?」
愛理は、少し不穏な表情を浮かべながら言った。
「さっきのメッセージ……?」
僕は、少し嫌な予感がした。
「ほら……写真部のグループの……」
僕の嫌な予感は、当たった。
「ああ、今日は、活動日だったね……」
僕は、そう言いながらスマホを確認すると――
『今日はゴールデンウィーク明け最初の部活だよー! 気合入れてこー!』
先輩からメッセージが届いていた。
さらに、画面をスクロールすると、僕宛に個人メッセージが届いていた。
『今日の部活の後、秀一君の件で話し合いたいからどこか寄り道したいんだけど、大丈夫?』
正直、大丈夫じゃないが大丈夫と言う以外選択肢がないだろう。
「はあ……」
僕がため息をつくと――
「何かあった……?」
愛理がおそるおそる僕に聞いてきた。
「例の件がそろそろ動きそうだよ……」
僕は、机に突っ伏した。
「そう……メッセージを見て、そんな予感はしてたけど……」
愛理はそう言うと、深いため息をついた。
「秀一にもなんとなくは話してあるけど、あの様子だと本当に嫌がると思う……」
「そう……。どうにかしてあげたいけど、あの先輩が押し通せなかったことなんて今のところほとんどないし難しそうよね……」
僕たちがそんな風に話していると――
『ガララッ』
教室のドアが開く音と共に秀一が教室に入ってきた。
「おはよう! 真琴と上条さん! どうしたの……? そんな浮かない顔をして」
自分に悲報があるとも知らずに秀一が爽やかな笑顔で朝の挨拶をしてきた。
「えー……この前も話したと思うけど、悲報があります……」
僕がそう言うと、秀一が身体を震わせた。
「あまり聞きたくないんだけど……いい……?」
秀一は、そう言うと、わなわなと震えながら耳を塞いだ。
「渡辺君……現実から目を背けたいのはわかるけど……。目を背け続けるときっと後悔することになると思うわ……」
愛理は、自分が浅草遠征で受けたお仕置きを思い出しているのか、少し震えながら言った。
「う……うん……。わかった……。聞くよ……」
秀一がため息をつきながら言うと、僕は、今日、例の件に動きがあるであろうことと、おそらく断ることは、ほぼ不可能に近いことを説明した。
「はあ……2人に無理させると、2人がひどい目に遭うだろうし今回は、ちゃんと先輩と出かけることにするよ……」
秀一は、本当に嫌そうな顔をしながらも首を縦に振ってくれた。
「ほんとにごめん……断れそうだったらそうするけど、あんまり期待はしないでくれると助かる……あ、後、今度、僕も同席するけど先輩が直接お誘いに来ると思うから、一応伝えておく……」
「了解……一緒に乗り越えようね……」
「「「はあ……」」」
朝の教室に僕たちの周りにだけどんよりと重い空気が漂っていた。
***
秀一に例の件に関して話終えて、数分してすぐに朝のホームルームの時間になった。
僕は、ぼんやりと永井さんの席の方を眺めていた。
――永井さん、本当にどうしたんだろう……? 大丈夫かな……?
学校に向かう途中に会ったはずの永井さんがまだ、学校に来ていないのだ。
「えー、欠席者は……」
寺川先生が周囲を見渡し始め、一通り見渡し終えると――
「永井だけか……? おかしいな……連絡をもらってないんだが……?」
首をかしげながら出席簿に出欠状況を記入していた。
――永井さんが連絡もなしに学校に来ないなんて絶対におかしい……
僕が疑問に思っていると――
「ふああ……鈴音なら今、保健室にいると思いますよ」
永井さんから連絡を受けていたらしい河原さんがあくびをしながら先生に言った。
「おお……そうか……。河原、ありがとうな。それじゃあ、週のラスト気合いれてけよー」
先生は、そう言うと、教室を出て行った。
――永井さんが無事に学校に着いていてよかった……
僕は、永井さんがもしかしたら学校に来る途中で倒れてしまったのかもしれないとか悪い想像をしていたため、ホッと胸を撫でおろしていた。
そのまま安心して、授業の準備に取り掛かろうとした瞬間だった――
「霧崎君、ちょっといい……?」
河原さんが僕に話かけてきた。
――河原さんが僕に話かけてくるなんて珍しいな……。
「うん。いいけど……?」
僕がそう言うと、河原さんは、廊下に出るように促してきた。
――あんまり人に聞かれたくない話なのか……。
僕の緊張感が一気に高まった。
高まる緊張感の中、僕は、先に廊下に向かった河原さんを追いかけた。
***
「それで……話って……?」
僕は、緊張気味な声で言った。
すると、少しの間をおいて――
「単刀直入に聞くけど、霧崎君、鈴音となんかあった……?」
いつも通りのどこかつかみどころのない表情を浮かべながら河原さんが言った。
――永井さんとは、今日の朝までしばらく話していなかったから何もないはずだけど……?
僕の記憶が正しければ、ゴールデンウィークのデート以来、会話は、ほとんどできていないはずだ。
「何もないと思うけど……?」
僕は、そう答えるほかなかった。
すると、河原さんが怪訝な顔をしていた。
「鈴音のことだから、落ち込むことがあるとしたら霧崎君が絡んでいると踏んだんだけど……」
河原さんが何やらぶつぶつと呟いていた。
「河原さん……?」
僕は、少し心配になって声をかけた。
すると――
「ああ……ごめん。独り言だから気にしないで。何もないならそれでいいわ……」
河原さんはそう言って、教室へと戻っていった。
――何だったんだろう……?
僕は、廊下に1人残され呆然と立ち尽くしていた。
――永井さんの様子がおかしいことと僕が関係してるのかな……?
僕は、河原さんの質問の意図を深堀しようとした。
しかし、何度考えても思い当たる節がなかった。
僕がはまることのないパズルのピースを当てはめるように同じことを考えている内に授業が始まる時間が近くなり――
「ほう……霧崎……単語テストの方はずいぶんと自信満々みたいだな」
寺川先生が英語の授業で使う機材などを持って教室前まで戻ってきていた。
「は、はい……それはもう……」
僕が苦笑いをしながら言うと――
「そうか! 楽しみにしているぞ」
先生は、僕を煽るような口調で言い、教室へ入っていった。
僕も、先生に続いて教室に戻り、自分の席に着席した。
やがて、授業が始まり単語テストが行われたが、僕は2問ミスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます