第8話 上条さんとの部活見学
――音楽室での一件があってから、数日が経った。
入学から既に、1週間と少しが経っていて、部活の入部期限も近づいているころだ。
しかし――僕は、未だに部活を決めれていない。
「はあ……マジで部活どうしよう……」
昼休みの教室で、僕がぼやいていると、樹が呆れた顔でこちらを見てきた。
「ええ……まだ決まってないの? もう後、3日くらいで締め切りじゃなかった?」
「そうなんだよねー……。まだ、部活見学とかやってるけど、今更、1人で行くのもねー……」
もう、この時期には、ほとんどの生徒がどの部活に入るか決めており、今更、部活見学をしている生徒なんていないだろう。
――参ったな……。ここまで、後で考えようと引き伸ばし続けていた自分が悪いが、本当に困っている。
そんなことを考えていると――
「じゃあ、私が一緒に行ってあげてもいいわよ」
突然、声をかけられたので、僕と樹が右を見ると、上条さんがいた。
「あ、上条さん……え? まだ決めてないの?」
樹が、少し驚いた様子で聞いた。
「え、ええ――ほら、1年生は必ず部活に入らきゃいけないのを知らなかったから……」
――あ、これ絶対嘘だ。絶対友達いないから部活見学行ってなかっただけだ……。
「何、その顔……絶対私のこと馬鹿にしてるでしょ?」
「あ、いやいや、そんなことないです」
ごまかそうとしたが、少し慌てて答えてしまった。
「まあ、いいわ。それで――行くの? 行かないの?」
上条さんが、髪の毛をくるくると指先で巻きながら聞いてきた。
「それは、もう、是非。一緒に行かせてください……!」
――なんか、僕……上条さんに付き従う従者みたいになってない……?
「――そう、よろしい。じゃあ、また放課後ね……」
そう言うと、上条さんは自分の席に戻っていった。
「……」
樹が、なぜかわからないが、黙り込んでいる。
「樹、どうした?」
不思議に思って、僕は聞いた。
「いや……最近、上条さんよく真琴のところに来るなーって思って」
「まあ、音楽の授業でグループ一緒だし、上条さん、クラスで話せる人があんまりいないみたいだし、普通じゃない?」
それ以外ないだろう。
「はあ……君にはつくづく呆れるよ」
なぜか、樹に呆れられてしまった。
「え? 何で?」
「自分で考えな」
そんなことを話しているうちに授業が始まる時間になった。
***
1日の授業が終わって放課後になり、上条さんと一緒に部活見学に行く時間になった。
「何部見たいとか、決まってる?」
「そうね……運動部以外なら何でも」
――運動部は入るつもりがないから助かる……。
「じゃあ、写真部とかは?」
比較的厳しすぎず、緩すぎなさそうな部活を提案してみた。
「いいわね」
上条さんが了承したため、僕たちは、写真部を見に行くこととなった。
***
僕たちは、写真部の部室の前に着いた。
しかし――
「ねえ? ここほんとに活動しているの?」
怪訝な顔を浮かべながら上条さんが言った。
「そ、そうだね……見るからにやってないよね……」
部室の中が少し見えるが、明かりも点いている様子もない。
「とりあえず、他のところに行こうか」
僕が、そう言った瞬間――
「おふたりさん! ちょーっと、待ったー!」
後ろから、ドドドドドドドドド!という音が聞こえそうな足音とともに何やら人が叫びながら走ってきた。
「「え?」」
僕と上条さんはきょとんとしていた。
やがて、その声の主が僕たちの目の前に立ち止まった。
「2人とも入部希望者だよね? うん! そうだよね! 写真部へようこそ!」
小柄な女子生徒がものすごい剣幕で話しかけてきた。
――待て、なんかもう、写真部に入る流れになってない?
「あ、いや、その、入部するとは、まだ決めていなくて……」
そう言うと――
「またまたぁ~……照れんなって!」
――ダメだ、話通じないやつだ……。
「とりあえず、話を聞くしかなさそうね……」
諦めた口調で上条さんが言う。
「そうだね……。とりあえず話を聞こう。いざとなったら逃げよう」
そうしているうちに、部長と思われる女子生徒に僕たちは、部室に招かれた。
***
部室に入ると、部長さん? による、軽い説明会が行われることになった。
「ええ~……改めて! 写真部へようこそ! 部長の清宮さつきだよ!」
――やっぱり、この人が部長なのか……。
やはり、もう入部が前提になっていることを気にしながらも軽く自己紹介をすることにした。
「1年D組の霧崎真琴です」
「同じく1年D組の上条愛理です」
そう僕たちが自己紹介を終えると――
「おけおけ~! 真琴君に愛理ちゃんね~」
そう言う部長に、僕は、気になっていたことを聞いた。
「そういえば、清宮先輩、この部活って他には部員って……?」
そう聞くと――
「私以外誰もいないよ! いやぁ……2人は、ほんとに救世主だよ~」
「「いや、まだ入るとは……」」
上条さんと声がそろった。
「ん? なんか言った?」
清宮先輩が張り付けたような笑顔を作っていた。
――この人怖っ!
「「いえ、何も……」」
またもや、上条さんと声がそろった。
「だよね~! 安心したよ~」
まだ、清宮先輩の張り付けたような笑顔ははがれない。
「じゃあ、早速、活動内容を話してくね~。休日とかいつでもいいんだけど、毎週決めるテーマに沿って写真を撮ってきて、みんなで平日の部活で写真を見せ合うみたいな感じでやっていきたいな~って思ってます!」
――おお、活動内容は結構楽しそうだ。
「文化祭とかで、写真展も開きたいな~って思ってるから、そのつもりでいてくれるとありがたいです!」
――うん、結構まともそうな写真部だ……部長の圧が強い以外は……。
「あ、カメラは高いし、いきなりは買えないだろうから、最初のうちは、私のカメラ貸すから安心してね!」
――あ、これ、そろそろ逃げないとやばそうだ……。
上条さんに目配せをした。
「あ、清宮先輩、そろそろ僕たち、次の予定があるので……失礼します……」
そう僕が言うと――
「あ、おけ~!」
――なんとか、切り抜けられそうだ……僕がそう思っていると――
「でも、その前に――ここに、入部届があります! 後は、分かるよね?」
ニコッ! としながら清宮先輩が部室の扉の前に立ちふさがりながら言ってきた。
「あ、えと、僕たちまだ、入るとは……」
「か・く・よ・ね?」
またもや、ニコッ! としながら言ってきた。
「「は、はい」」
僕と上条さんは、背筋が凍る恐怖を感じ、つい了承してしまった。
そして、そのまま、僕と上条さんは、清宮先輩に言われるがまま、入部届にサインをし、写真部に入部することとなった。
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