第7話 僕の人生2度目の運命の出会い
永井さんと昼休みを過ごしてから、数日が経っていた。
僕は、音楽室で、授業が始まるのを待ちながら授業の準備をする永井さんを横目で見ていた。
「はあ……」
思わずため息をついてしまった。
結局、未だに、永井さんがあのとき何を言おうとしていたかを聞くことも、どの部活に所属するかも、決めることができていない。
教室で、何度か話すチャンスがあったが、僕が周りの目を気にしたりしているせいで、話しかけることができず、なぜだかは、わからないが気まずい空気が流れている。
――はあ……永井さんに何を言おうとしていたかを聞くのは、今は、聞けなさそうだから、めちゃくちゃ気がかりだけど、ひとまず置いておいて、部活をどうするか考えなければ……。
正直、僕は、運動神経が壊滅的に良くない。バスケをすれば、ドリブルができず、『ボールが僕についてこない』などふざけたことを言いだすほどだ。
この時点で、運動部は僕の対象から外れる。一応、新しいことに挑戦するという可能性を考慮して、樹と様々な運動部の見学に行ったが、しっくりとくるものは1つもなかった。
――かと、言って美術部はなあ……。
中学時代に所属していた美術部で、応募した作品が何個か賞を取っていたため、既にある程度、絵を描くことに関しては、満足感を得てしまっていた。
――マジで、悩むな……。
そう、物思いにふけっていると――
「みなさん、静かにしてください。授業を始めますよ」
先生がそう言うと、さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かになった。
「では、授業の説明を始めます。――いきなりですが、周囲の人と3~4人のグループを作ってください」
教室が少しどよめいた。
――まあ、無理もない。この授業はC組とD組の合同授業であり、周囲の人間は、必ずしも、顔見知りというわけではないのだ。
「みなさんが、不安な気持ちもわかりますが、各グループ他クラスの人をいれるようにしてください」
そんなことをする必要性がないように思えるが、先生がそう言うなら従う他ない。
「そのグループで行った音楽に関する活動、発表が今学期の成績評価となります。なお、そのグループですることは、音楽に関連していれば何でもいいです。では、早速グループを作ってください」
先生は、簡単な説明だけをして、全てを僕たちに丸投げしてきた。
――生徒の自主性を重んじるみたいなやつだろうか……? ただ単に、面倒なだけか?
そんな、考えてもどうしようもないことを考えていると――
「ちょっといいか?」
後ろの席の方から、低くてぶっきらぼうな声がした。
振り返ると、どこかで見覚えのある顔だった。
「えっと……君は……?」
顔をしかめながら思い出そうとしていると――
「赤坂光瑠だ。入学式のときに会ったはずだが」
言われて思い出した――永井さんの幼馴染だ。
「ああ! 思い出したよ! それで、どうしたの?」
授業中なので、あまり無駄な話をしないように本題に入った。
「よければ、俺と一緒にグループを組まないか?」
1人は、必ず違うクラスの人をグループに入れなければならないため、とてもありがたい申し出だった。
「ぜひ、僕なんかでよければ」
――よし! 後は、樹あたりを誘えば、グループ完成だ! と思って樹を探すと――何やら、秀一君と女子生徒2人と一緒にいる姿が見えた。
おいおい、マジかよ、イケメン2人組大人気だな……。
あの様子だと一緒にグループは組めなさそうだ。
「後、1人か、2人どうしようか?」
僕は、少し困った顔で聞くと――
「あー、すまん。俺、見ての通り口下手で……まだ、クラスに全然知り合いがいないから、そちらで誰か1人でも2人でも連れてきてくれるとありがたい」
――あっ、これ、いつまで経ってもグループ完成できなくて、先生に何とかしてもらうタイプのやつだ。別に何か問題があるわけじゃないけど、嫌だなあ……。
「ごめん、僕も、あんまり知り合いがいなくて……」
「おお……マジか……どうするか……」
そんな風に、僕たちが残りのメンバーを見つけることができず、途方に暮れていると――1人の女子が目に留まった。
――1人でいるけど、大丈夫か? あれ?
そう思ったときには、体が動いていた。
「あの、まだグループ決まってなかったりする……?」
僕がそう話しかけると――
「まだ、決まってないんじゃない。私が決めてないだけ。勘違いしないで」
「……」
――え? なんだ? この子? なんか怖いんだけど……。
しかし、僕は、この時、周囲からの視線に気づいた。
――え? 何? この視線?
『おい、あいつ、とんでもなく塩対応、高飛車で有名な上条さんに声をかけたぞ……』
『もうクラスでも有名な話なのに知らないのか? あいつ』
近くにいた男子生徒たちが、ボソッと話していたのが聞こえた。
――ああ、そういうこと……生憎、仲のいいと自信をもっていえる友人は、現時点で、クラスには、樹しかいないため、樹から聞かない限り僕は、知り得ることはない。
――まあ、この調子だと、この子グループ作れないだろうし、僕たちと同様、先生に何とかしてもらうことになるだろう。
――仕方ない……この子も先生に何とかしてもらうところを見られたくないだろうし、一芝居打つとしますか……。
「勘違いしてごめんね。あの、僕たち、まだグループ作れてなくて……すごく困っているんだ。もし、君さえよければ、僕たちを君のグループに入れてくれないかな?」
さっきのは、上から目線で話しかけたのがいけなかったと思い、今度は、へりくだってお願いしてみた。
「そう、そういうことなら、いいわ。私のグループに入りなさい」
――素直じゃないなー……。と、彼女の少し緩んだ表情を見ながら僕は、思った。
「あ、僕は、霧崎真琴だよ。よろしくね」
「赤坂光瑠だ。よろしく」
僕たちが軽く自己紹介をすると――
「私は、上条愛理よ。よろしく……後、声をかけてくれてありがとう……」
彼女は少し、横をプイっと向きながら、言った。
――あれ? この子、もしかして……ただのツンデレ……?
そう思っていると――
「あなた、今、失礼なことを考えていないかしら?」
「あっ、い、いやいや、なんにも……あはは……」
「絶対考えてるわよね? それ……」
そんな風に会話している僕と上条さんを見つめる永井さんからの視線に僕が気がつくことはなかった。
そして――この『上条愛理』という女の子との出会いが、僕の人生2度目の運命の出会いであり、高校生活、そして、初恋を狂わせるきっかけになるとは、このときの僕は、夢にも思っていなかった。
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