第19話
>>>祖父母へのプレゼント
ウィルが買い物へ行ってから10日後、宝石店より仕上がったとの連絡があった。
今度邸で開く夜会に間に合って良かった。
逸る気持ちを抑えて黒馬のフロイで帰宅し、家礼のセバから包を二つ受け取る。
そのままセバに祖父母にサロンまで来て欲しいと伝えてもらう。
着替えてサロンに向かい、メイドに紅茶を頼むと祖父母の到着を待った。
「ウィル、おかえりなさい。」
「どうしたんだい?ウィル。ディナー前に呼び出すなんて珍しいね。」
祖父母は揃って訪れ、ニコニコしながらソファーに腰掛けた。
「今日は、日頃からお世話になっているお二人に感謝の印として、こちらを。」
それぞれの前に包を差し出す。
「嬉しいわ。何かしら?」
「うん?何だろうか?」
2人は包を解き、箱を開ける。
「まぁ!なんて美しいの?初めてみる宝石だわ。」
「私のも初めて見る石だ。お揃いの石のようだね。」
どうやら2人は喜んでくれたようだ。
「はい。これは竜の涙と言われている石で、なかなか国内では見かけないそうです。
先日、行商人の友人に見せてもらった時に、お二人に似合うと思ったのです。」
「竜の涙?私も噂でしか聞いたことがないけれど、とても貴重な石よね?」
「そんな貴重な石を私たちのために?」
「ええ。私は戦争で両親を亡くしてから、ずっと1人で生きていくのだと思っていました。
戦うしか能がなかった私を、家族としてこの邸に迎えてくれて、貴族の地位や、領地経営の知識など色々なものを与えてもらいました。
私はずっと、お二人に感謝を伝えたいと思っていたのです。
お祖母様、いつも優しく接し、温かく見守って下さってありがとうございます。
お祖父様、時に厳しく、時に優しく、色々なことを学ばせていただき、ありがとうございます。
勿論、この贈り物だけでご恩が返せるとは思っていませんが、どうか私の気持ちを受け取っていただけませんか?」
私はやっと2人に感謝の気持ちを伝えることができた。
「ありがとう・・・私たちこそ、ウィルに感謝していますよ。あなたは自慢の孫です。」
「そうだよ。いつだってウィルは自慢の孫だよ。
感謝の気持ちも、この贈り物のタイピンも、とても嬉しい。ぜひ次の夜会で着けよう。」
「もちろん私も次の夜会ではこのネックレスを着けるわ。」
祖母は涙を流して、祖父は嬉しそうに微笑んでいた。
「喜んでもらえたみたいで良かったです。」
2人に買って良かった。
また何か見つけたらぜひ買ってあげよう。
>>>久々に登場のフロイ
「フロイ、機嫌を直してくれ。」
ブブブブブ
目の前に立っても、顔を逸らして全然目を合わせようともしてくれない。
フロイは私を乗せて駆けるのが好きなようで、とても私に懐いてくれている。
それはとても嬉しいことなのだが、私が他の馬と仲良くしたり、他の馬に乗ったりすると機嫌を悪くすることがある。
今回は魔獣に驚いてパニックになった部下の馬を宥めるために、しばらくその馬に付きっきりになったのが気に入らなかったんだろう。
「フロイは偉いな。魔獣が出ても冷静でいて。私の自慢の相棒だ。」
フンッ
そう言うと、フロイは荒い鼻息を吐いた。
きっと、そんなの当然だ!とでも言いたいんだろう。
邸と騎士団本部の通勤だけでなく、遠征にも連れて行っているが、フロイは本当に肝が据わっている。
隊員ですら動揺するような急な魔獣の登場にも、パニックになったりしない。
少し目を見開いている姿から、驚きはしているんだと思うが、決してパニックに陥って私を振り落として逃走したり、暴れたりはしない。
「次の休みは久々に遠駆けしような。」
そう言うと、尻尾が左右に触れて、チラリと私を見た。
可愛いやつだ。
首から腹にかけて、ゴシゴシとブラシで撫で、蹄の泥も綺麗に洗って拭き取ってやると、
ようやく機嫌が治ったようだ。
ブルルルル
「さぁ、帰ろうな。私のことを乗せてくれるか?」
ブルル
いいから早く乗れとでも言うように、フロイは私を見てから顔を自分の背に向けた。
「うん、いつも乗せてくれてありがとうね。」
私はフロイに跨ると、フロイは当然とでも言うように私に歯を見せた。
フロイは私の言葉が分かっているようだ。
それに、なんだか人間のような感情も持っているように思えた。
フロイ、ずっと私の相棒でいてくれよ。
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