第18話

>>>陛下、宰相、団長


第三回ウィルを守る会会議




「緊急案件だ!!」


陛下と宰相が午後のティータイムをゆっくり過ごしていると、変な人形を持った団長が慌てた様子で執務室に飛び込んできた。



「何だ!?何があった?」


「災害級の魔獣か?それとも敵国が攻めて来たか?どこの国だ?」


陛下と宰相は慌てた。



「いや、それほど緊急ではなかった。何も起きては、いない。

・・・すまん。」


団長はすまなそうに頭を下げた。



「そうか。で、何だ?」

「ふぅ・・・」

陛下と宰相はほっと息をついた。



「ウィルがな。何かおかしいようだ。」


「はぁ、緊急なほどおかしいと?」

「その手に持っているものが何か関係しているのか?」


「あぁ、これを見てくれ。」

赤と白の縞模様で膝を折って座っている人形。上半身はもちろん筋骨隆々のマッチョポーズだ。


「・・・・・。」

「これは何だ?」

「ペーパーウェイトだそうだ。」


「そうか。で、何だ?面白いから見せに来たのか?」


「いや、さっきウィルがくれた。」

「そうか。何だ?自分だけ贈り物をされたという自慢か。」


陛下は嫉妬をしているようだ。


「違うだろ!よくこれを見ろ。」

「まぁ、非常に斬新だが。団長にお似合いなのでは?」


コーエン卿まで冷めた目で見てくる。



「まぁ、百歩譲ってこれが俺に似合うとして、

ウィルの中隊長室には、これの動物バージョンが3つも置いてあったぞ。」


「いや、それは流石に無い。ウィルのは普通の動物のペーパーウェイトだろう。」

「そうだろうな。」



「そして中隊長室に、なぜかでかいレイスか何かアンデットの悍ましい絵が飾られている。」



「はぁ?それは何でだ?誰かに嫌がらせを受けているとかでは無いのか?」

「催眠か呪いでも掛けられたか?」



「とりあえず絵からもペーパーウェイトからも魔力は感じなかった。」



「そうか。実際に見てみんと分からんな。」

「そうですな。」


「よし、今から見に行くぞ。」

「では、すぐに陛下が騎士団に視察に行く手配をとりましょう。

ついでに演習も見れば怪しくはないでしょう。」


こうして3人は連れ立って騎士団本部へ向かった。




コンコン


「ウィル入るぞー」

「どうぞ。」


「やあ、ウィル。入るよ。」

「こんにちはウィル。」


「どうしたんです?みんな揃って。今日何か予定ありましたっけ?」


ウィルは机の1番左にある、書類の束の上に置いてあったピンクのマッチョな羊を横に退かし、通達書類の束を確認し始めた。



隣の書類の束の上には、オレンジと紫のマッチョ熊が、右端の書類の束には、水色のマッチョ牛が、しっかりとペーパーウェイトの役割を果たしていた。



「・・・・。」

「これは・・・。」

「ウィル、あー、その、ペーパーウェイト?どうしたんだ?」


ペーパーウェイトに目が釘付けになる3人。

陛下は勇気を出し、ペーパーウェイトを指差しながら聞いてみた。



「これですか?

こっちの羊は先週の休みに、熊と牛は昨日買いに行ったんです。

今までペーパーウェイトを使ったことが無かったんですけど、書類が飛んだり落ちたりしなくていいですよ。」



「じゃあ、それはウィルが自ら買ったんだね?」

「えぇ、自宅でも同じシリーズの動物を使ってます。」

「そ、そうか・・・。なかなか奇抜なデザインだな。」



「そうなんです。なかなか面白いデザインでしょ?」


「そう、だな。面白いデザインだな。」



応接セットに座る3人に、ウィルは炎と水の魔術を混ぜ合わせて湯を出し、ウィルは手ずから紅茶を入れて出した。



「どうぞ。」


「ありがとう。

ウィルは器用だな。普通は2種類の魔術を同時には使えん。」

「練習すればできる者もいるでしょう。」



「ところでウィル、そちらに飾ってある絵は・・・」

「あぁ、これですか。よく気付きましたね。この部屋は殺風景だったので飾ってみました。

平民街にいた画家さんから直接買ったんです。」



「ちなみにこの絵は幾らだ?」

「銀貨5枚です。」



「平民街にしては、ちょっと高い気がするな。」

「お前、吹っ掛けられたんじゃないか?」


「それは分かりません。絵画を買うなんて初めてで相場も知らないですし。

ただ、値段を聞いた時に、銀貨5枚出してもいいと思ったので良いんです。」



「そうか、ウィルがいいならいいんだ。

その・・・これは、ウィルが選んだ絵なんだな?」


「ええ、そうですよ?」


微妙な顔をして、黙って紅茶を飲む3人。



「そろそろ訓練場に行くか。」

「視察ですか?」


「ああ、急遽というか、まぁ抜き打ちの視察だな。」

「それはいいですね。

隊員も気が引き締まるし、私も一緒に行って体を動かそうかな。」


肩を回しながら言うウィルに続いて3人は立ち上がった。




もう最近では、赤目に戻すことなく複数の魔術を連発することができる。



訓練場のすみで、このような会話があった。


「ウィルの魔術の腕と器用さはさすがだな。」

「そうですね、調子が悪そうにも見えませんね。」

「だとすると、あの珍妙なペーパーウェイトと、緑が蠢きゴーストのようなものが描かれたあの絵も、ウィルの趣味ということか・・・。」


「そうだな。」

「そのようですね。」


「「「・・・・・。」」」


「帰るか。」


「そうしましょう。」






>>>余談


後日、中隊長室に飾られた絵を見た隊員たちは、

『あれは中隊長が俺たちに向けて、油断すると敵に命を奪われるということを伝えるため、飾っているんだ。』

という話が出て、隊員たちの間で ≪戒めの絵≫ と呼ばれるようになった。



マッチョペーパーウェイトシリーズの在庫を持て余していたヘンドラー商会は、ダメ元で『フェルゼン侯爵愛用中』と控えめにポップを出してみた。


すると、どこからともなくその噂を聞きつけた令嬢が殺到。

令嬢の間で流行したが、夫人方は眉を顰めたそうだ。

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