第19食 日本最南端、ぱいぬしまのあぐーソーキカレー:CoCo壱番屋・沖縄石垣店
二月末に、〈おし活〉で沖縄県の石垣を訪れた書き手は、「南ぬ島石垣空港」に到着後、予約した宿が位置している「石垣港離島ターミナル」が在るエリアにバスで向かった。
そして、バスの窓を通して、石垣の風景を何とはなしに眺めていた、まさにその時であった。
見慣れた「CoCo壱番屋」の看板に加え、「日本最南端!!」という文言が書き手の目に入ってきたのだ。
たしかに、全国どこでも食べられる安定のカレー・チェーンとはいえども、〈日本最南端〉という文脈が書き手の琴線に触れ、この瞬間、翌日のランチの場所は決まった。
とはいえども、石垣のココイチは空港や港付近にあるのではなく、書き手が宿泊したフェリー・ターミナル・エリアから、約二.五キローメートルの場所に位置しているので、徒歩の場合は三十五分以上要する。もしかしたら、地元の人にとっては車で行く店なのかもしれない。とまれかくまれ、一観光客である書き手は、歩きでこの店に向かい、開店凸したのであった。
繰り返しになるが、書き手は、ただ単純に、〈日本最南端〉という状況に惹かれて、ココイチの石垣店を訪れんとしたのだが、行ってみて望外の喜びだったのは、この石垣店では〈限定〉カレーが提供されていた事だ。
実は、ココイチのホームページの「メニュー」内の「店舗限定メニュー」の項目には、石垣店の限定カレーは扱われてはいなかったので、到着してみるまで、書き手は、限定カレーの存在を知らなかった。
だがしかし、である。
知ったからには、日本最南端のココイチの支店において、全国共通のグランドメニューを選んで、石垣店限定のカレーを注文しない事などあり得ないだろう。
店前の幟や、店内の掲示物によると、石垣店限定のカレーは二種類あって、ひとつが「南ぬ豚ソーキカレー」、もうひとつが「美崎牛カレー」で、両方ともに、一日限定十食との事であった。
石垣は、そう頻繁に訪れられない遠方地なので、両方とも食べたいという欲望に駆られたものの、胃袋の容量に限度がある生身の身体では、どちらか一方を選ばざるを得ない。
これは、ある意味、究極の選択だったのだが、書き手は、直感で、「南ぬ豚ソーキカレー」の方を選び、美崎牛は、いつかの次回の宿題にする事にした。
「南ぬ」、この単語は空港名にも入っていたのだが、いったい何と読むのか? 「みなみぬ」? 「なんぬ」? 実はそのいずれでもなく、「ぱいぬ」と読むらしい。
〈ぱいぬ〉とは、石垣を含む八重山諸島の方言で〈南〉という意味らしい。という事は、先に音ありきで、〈南〉という表意文字は、意味を分かり易くするために付けた当て字なのかもしれない。
ところで、この石垣の豚、種名でいうと〈アグー豚〉というそうだ。
アグーとは、そもそも琉球在来の豚なのだが、広義では、この琉球豚を原種とするものも含め、〈島豚(シマウァー)〉とか〈黒豚〉とも呼ばれているらしい。写真を見れば明らかなのだが、アグーは全身毛並みが真っ黒なのだ。
ちなみに、「あぐー」というひらがな表記は、『沖縄県農業協同組合』の登録商標で、琉球在来豚である「アグー」の血を半分以上有する豚肉だと定められているそうだ。
そして、このアグー、小型で脂身も多く、それゆえに一頭からとれる肉の量は少なく、加えて、産子数も五頭前後らしい。
さて、店内に置かれていた説明書によると、「南ぬ豚」とは石垣の『八重山ファーム』で飼育されているアグー豚の事で、その特徴は、石垣産のパイナップルの飼料を食べている事だという。
そして、その年間出荷頭数も僅か〈六〇〇〉頭らしく、その希少さ故の一日十食限定なのだろう。つまり、石垣店限定の上に、提供数も限定という、二重の意味でレアなカレーだったのだ。
ちなみに、「ソーキ」というのは、これまた沖縄の方言で、要するに、豚の骨付きあばら肉、つまり、スペアリブの事で、例えば、「ソーキそば」といったら、沖縄にさして詳しくない者でも知っている、沖縄の名物料理だ。そして、ソーキの中でも、骨が柔らかいものを〈軟骨ソーキ〉と呼び、店内の説明書によると、ここのカレーに使われているのは、軟骨との事であった。
つまり、ココイチ石垣店の〈南ぬ豚ソーキカレー〉とは、分かりやすく言い直すと、沖縄産の「あぐー豚」の〈軟骨スペアリブ〉を具材としたカレーなのだ。
日本最南端のココイチという状況だけでも極めて貴重なのに、一日限定十皿しか提供できない、希少種であるアグー由来の「あぐー豚」を材料にした「南ぬ豚ソーキカレー」、その具材となっている〈あぐーの軟骨ソーキ〉はトロットロに煮込まれた柔らかな、実にマイウーなカレーであった。
〈訪問データ〉
二〇二五年二月二十八日(金)十一時
CoCo壱番屋・沖縄石垣店:沖縄県石垣市
南ぬ豚ソーキカレー:一二〇〇円(クレカ)
〈ライス三〇〇グラム、辛さ普通、トッピングなし〉
〈参考資料〉
〈WEB〉二〇二五年四月二十五日
「沖縄石垣店」、『カレーハウスCoCo壱番屋』
「南ぬ豚」、『やえやまファーム』
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