第015食 大匙使う、それとも、鍋から一気する、それが問題だ:喜楽亭(東京・池尻)名店会その7
『東京カレー屋名店会』のホームページを参照してみると、その『名店会』の参画店には、半蔵門の『プティフ・ア・ラ・カンパーニュ』や、渋谷の『パク森』(現在の店名は『パクパクもりもり』)、あるいは、三宿の『ビストロ喜楽亭』なども名を連ねている。
これらの店は、二〇二四年三月における「5店盛りコンボカレー」には入っていなかったのだが、書き手は、そうした店の中から、田園都市線の三軒茶屋駅と池尻大橋駅との間、池尻大橋寄りに位置している三宿、すなわち、池尻の「ビストロ喜楽亭」を訪れる事にした。
まあ実を言うと、出向先の一つが三軒茶屋に在るので、仕事の帰りに立ち寄った分けなのだが。
さて、『喜楽亭』のホームページには、「東京世田谷区池尻に30年前に生まれたビストロ」と書かれていたのだが、この店の創業は、〈昭和五十八(一九八三)〉年らしいので、実際には、二〇二四年で創業四十年を越えている老舗カレー店なのである。
『名店会』のページでは、『喜楽亭』のカレーは、「安心食材のこだわりブイヨンでマイルドな味」と紹介されており、さらに、『喜楽亭』のそのブイヨンが、毎日、十時間以上も煮込まれている事は、『名店会』のHPだけではなく、店自体のメニューにも書かれていた。
ホームページや、店の前を通る歩行者にも見えるように外向きの窓に貼られているメニューによれば、そのカレーの種類は、「きらくかれー」「野菜かれー」「コロッケかれー」「森のきのこかれー」「スパゲティかれー」「★挽肉野菜かれー」「★ビーフかれー」「★チキンかれー」「フルーツかれー」「キーマかれー」「★ヴィンダールかれー」「★カシミールかれー」「はやしかれー」「生ソーセージかれー」「★ハンバーグかれー」「★ポークカツかれー」「エビフライかれー」「かれーリゾット」「★地中海かれー」「白身魚フライかれー」「シーフードスパゲッティかれー」「サーロインステーキかれー」「カニの姿揚げかれー」「ピリピリカレー」「鯨かれー」「牛フィレステーキかれー」の二十六種類と非常に多彩で、これらに加え、「自家製カレーパン」やレトルトの「レトルトお台場カレー」などもある。ちなみに、「★」は店のメニューに付いていたもので、これらが店のオススメだそうだ。
とまれかくまれ、これだけの種類があっては、どのカレーを選ぶかで客も悩んでしまうに違いなく、だからこそ、店が「★」によってオススメカレーを提示しているのは有難き事なのだが、何度も繰り返しているように、この章における書き手のコンセプトは、〈『名店会』のコラボカレーを直接店で食べる〉というもので、もちろん、今回の『喜楽亭』訪店もその延長線上にある。
『名店会』のホームページには、『喜楽亭』のカレーとして「欧風ビーフカレー」が挙がっていたので、書き手は、七月十八日の訪問の際には「ビーフかれー」を注文した。
『喜楽亭』では、「かれー」注文の際には、「甘口」「普通」「中辛」「辛口」「激辛」の五つから辛さを選択できるのだが、今回が『喜楽亭』の初訪問だった書き手は、無難に「中辛」を選んだ。ちなみに、「中辛」には、「辛いのがお好きな方に。後からくる辛さがやみつきに」との説明が付いており、この中辛は、書き手に十分な刺激を与えてくれた。
ちなみに、〈十七時〉前の入店はランチ扱いであるようで、サラダ、プレーン・ラッシー、さらにはバニラ・アイスのセットが注文できる。
よく言われている事だが、辛さは水では洗い流せず、辛いものを食す時には、乳酸品がよいとされているので、ラッシーに加えバニラ・アイスがあれば、辛さを和らげるのに大いに役立つこと請け合いだ。
さて、店のメニューには、「一品一品が手作りのため、少々時間がかかるのでご了承ください」と書かれてはいたものの、さして待つ事無く、書き手がメニューを眺めている間に、注文した「ビーフかれー」が提供された。
『喜楽亭』の〈かれー〉は、カレーライス形式で、黄色いライスとカレーは別容器になっているのだが、着目すべきは、カレーが入っている容器の方だ。
簡単に言ってしまうと、取っ手が付いた小鍋で、そこに、出来立て熱々のカレーが湯気をたてている。
つまりこれが、『喜楽亭』の代名詞にもなっている「壺焼き」なのだろう。
そして、楕円形の皿に置かれたライスは、皿の三分の一ほど空いているので、ここに、取っ手を握って一気にドバドバっとカレーを注ぐ事もでき、実際、店のホームページにアップされている動画においても、小鍋から直接お皿にカレーが注がれていた。
要するに、皿上のライスの盛り付けに空いている所があるのは、つまり、その空いたスペースに熱々のカレーを入れる事を想定しているからであろう。
しかし、である。
今回の書き手は、小鍋から少しずつカレーをライス皿に移しながら食べる事にした。
実は、このような食べ方を書き手に決意させたのは、机の上のカトラリー入れに、食用のスプーンやフォーク以外に、口に入れるには明らかに大きすぎる匙が入っていたからで、間違いなく、それは、小鍋からカレーを救うための道具に相違なかった。
つまるところ、書き手は、今回、他店では見かけない、おそらく『喜楽亭』独自のその大匙を使ってみたかった分けで、動画にあったような、鍋からの直注は、また別の機会に試みればよい、と考えたのだ。
実は、その機会はすぐに訪れた。
三茶への木曜出向の最終日、書き手は二週連続で『喜楽亭』を訪れた。
実は、前回、レギュラーではない特別メニューの、季節の限定品「イカ墨BLACKかれー」に心惹かれ、再訪の誘惑に抗う事ができなかったのだ。
そして、提供された潮の香漂う黒いカレーを、書き手は、迷わずに一気に鍋から皿に注いだのであった。
〈訪問データ〉
ビストロ喜楽亭:東京・池尻大橋
二〇二四年七月十八日・木・十六時四十五分
ビーフかれー・中辛(一一五〇)セット(五五〇):一八七〇円(クレカ)
七月二十五日・木・十六時三十五分
イカ墨BLACKかれー・中辛(一五四〇)プレーンラッシー(二二〇):一七六〇(クレカ)
〈参考資料〉
〈WEB〉二〇二四年七月二十五閲覧。
「コンセプト」「メニュー紹介」、『東京カレー屋名店会』
『ビストロ喜楽亭』
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