【キヅキコラム】伏線は借金と思え



 五つ感想書いたので、しばし息抜き。

 キヅキコラムのお時間です。

 今回は伏線の扱いについて思ったことを書いてみます。


 執筆に不慣れな初心者(であろう)作品を読み続け、感想を元に対話していると、共通する発見があります。

 それは疑問を指摘すると「それは伏線なんです!」と返されること。特に長編の導入部分の感想でよくある反応です。みんな伏線大好きだなーと。


 この企画では一万字までしか読まないので、その伏線が果たして正解なのか、効果的だったのか、それはわかりません。まず伏線回収に至らないので。

 ただ、回収前でもわかることはあります。

 それは伏線だと説明されても、納得もしなければ面白くもならないこと。

「このさき面白くなるから今は我慢して」と言われても、「今面白くしろよ」としか思えないんですよね。


 一方で、上手い作者の伏線だと、ちゃんとわくわく出来る。

 この違いはどこから生じるのか、つらつら考えるうちに、一つの気付きが生まれました。

 それは、「伏線は借金である」こと。 

 意味わかりません? かもしれません。説明してみます。

 

 伏線は借金である。

 この場合の借金とは、作者が読者に借りることを意味します。

 読者からすれば小説を読んでる途中で、いきなり作者に、

「金貸してよ。後で倍にして返すから」

 と頼まれる感じです。

 物語的に言えば、「今は説明しないけど、後で教えるから待ってて」です。

 伏線と言うか、布石と言ってもいいですかね、この場合だと。

 

 作者は隠した真実も、この先の展開も全て知っています。

 だから、読者はわくわくしてるし後で満足もしてくれる……と考えます。

 借金で言えば、「倍にして返すから喜んでるはず」てなもんです。


 でも、読者にすれば、借金はリスクです。

 まず物語でわからないことがある時点でもやっとします。

 「倍にして返す」と言われて、本当に倍になるのか。

 もしかすると貸した分すら返って来ないかもしれない。

 そもそも、いつ返してもらえるかもわからない。


 この不安は、作者への信用が低い程、待つ時間が長い程高まります。

 わくわくより不安が先に立つのです。

 そもそも作者に信用がなければ、「金貸して」と言われた時点で断られる。

 ……つまり読むのを止めてしまう可能性だってあります。


 伏線は借金と同じ。基本的にストレスを与えるもの。

 この視点が初心者には欠けがちです。

 だから、序盤から伏線をいくつも張り巡らせる。

 理由は「自分が気持ちいいから」。

 貸した側の読者の気持ちを、まったく考えていないのです。


 ちょっと想像してみてください。

 ろくに金を返さない友人が、何度も金を貸りに来たら、どう思うか。

 気持ちよく貸す気になれますか?

 「おまえ、いい加減にしろよ」って思いません?

 これが序盤から伏線を張りまくる作品を読んだ読者の、率直な気持ちです。


 まして、借金を踏み倒されたり、返済がしょっぱければどうなるか。

 「こいつ、金もろくに返さねえ」とわかれば、読者はすぐに去ります。

 待った時間を無駄にしたと悔やみながら。

 多分、同じ作者の作品には二度と手を出さないでしょう。

 借金を踏み倒すやつと知って、金を貸す馬鹿はいませんから。


 しかも約束は「倍返し」ですからね。

 「借りた金を返す」だけでは、読者は待っただけ損してます。

 伏線にする必要性も問われてくるでしょう。

 「金借りる必要あった?」てなもんです。


 その伏線は本当に必要なのか。「倍返し」できるのか。

 伏線を張る前に、よくよく吟味することが大事です。

 ベテランはここが絶妙に上手い。 

 だから安心して、物語の続きを待てるわけです。



 では、読者に嫌われない伏線の張り方とはどんなものか。

 これも「伏線=借金」 だと思えば、理解しやすいはずです。


・序盤から伏線を張らない

 ベテランならいざ知らず、初心者がこれをやるとだいたい自爆します。

 何故なら、先のことを考えず書いてることがほとんどなので。

 つまり返せるあてもなく借金してるわけです。

 せめて返済計画を立ててから、伏線を張ってください。


・伏線を複数同時に張らない

 返しもしないのに借金を重ねるケースですね。

 お金で考えればすぐわかりそうなものです。

 どうしても複数必要なら、こまめに返すか期限を切ってください。


・読者の満足度を見ながら伏線を張る

 これも借金と同じ。相手の機嫌を伺いましょう。

 小説で言えば、その時点での読者の気分を考えてください。

 盛り上がってるところなら、気持ちよく許してくれるでしょう。

 逆に「なんじゃこりゃ」な状態で出したら……もうわかりますよね?

 面白い話を書いていれば、金だって貸したくなるものです。


・「わかってる」のサイン

 前回のキヅキコラムのネタですが、ここでも使えます。

 「伏線忘れてねえ?」という読者の気持ちに、「忘れてないよ!」というサインを出せば、ガス抜きになります。

 「いついつまでに回収するよ!」的な予告でもOKです。

 コメント返しとかじゃないですよ。作品内ですることが大事。

 作者の信用が問われてるわけですから。


・読者にバレない伏線を張れ

 これは初心者には難しいと思いますが。

 そもそも理想的な伏線は、読者に見つからないことです。

 後から事実が判明して、「あれ伏線だったのか!」と驚く。これが理想。

 貸した覚えがないので、読者もストレスゼロですし。

 今は無理でも、意識しておくのは大事だと思います。


・作者の信頼を高める

 締めはやはりこれですかね。

 これも借金と同じ。信用があるから貸してもらえるわけで。

 誤字脱字がない。文章ルールを守っている。ストーリーに整合性がある。読者の疑問に過不足なく応える。読んで面白い。

 ここら辺の最低限のことが出来ていない作者を、信用できるかと言う話です。適当に書いても構いませんが、信用はあきらめてください。よほどセンスが爆発してるとか、ヒマな読者を集められるなら別ですが。


 以上、長くなりましたが、「伏線は借金」なお話でした。

 最後に、伏線大好きな全てのカクヨム初心者に、この言葉を送らせていただきます。


──「ご利用は、計画的に」。

 

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