【15】まだ始まらない物語(凍花星) 総評


【15】まだ始まらない物語(凍花星)

https://kakuyomu.jp/works/16818093077033668653



⬜️全体の感想


▷タイトルについて

>まだ始まらない物語


長編につき、評価は保留。

少なくとも一万字の時点ではまだ始まっていません。

雰囲気のあるタイトルとは思います。



▷キャッチコピーについて

>物語の帷が開く前に……


ほとんどタイトルに等しい内容。こちらはもう一歩踏み込んでもよい気がします。

読んだ限り物語の起伏に乏しいので、先の展望を予感させ、読者の求心力をもっと煽ってもらいたいところ。



▷あらすじについて


なし。



▷文章について


中の下というところ。

基本的な文章は書けていますが、ちょっと難しい表現をしようとすると悪文になり、地金が露わになる印象があります。


主人公の心理を丁寧に書こうとしているのは伝わります。ですが、設定や過去など必要な情報が致命的に欠けているので、状況を理解できない読者に届いていません。かえってその丁寧さが冗長に感じられ、裏目に出ています。


表現のおぼつかなさもそうですが、この小説の文章の一番の問題点は、読者が求めるものに応える想像力に欠けていることです。

ざっと思い出しても、これくらいあります。


>第1話

・主人公とカノンの年齢。背格好。

・人魚族であること

・王になるために性別や年齢は無関係なのか

・何故、主人公が王になる扱いをされているのか

・主人公のコミュ障は民から問題視されないのか

・王族に威厳はないのか

・誰が次の王を決めるのか


>第2話

・二人は湖のどこで、どんな風に出会ったのか

・彼は主人公が人魚であることを初見で理解したのか

・そもそも人魚とはどういう種族なのか

・陸を歩く方法があるのか。すでに使っているのか

・彼は主人公のことを男女どちらだと思っているのか

・二人は何歳くらいなのか

・前話に対して、時系列はどうなっているのか(三読目までわからず)

・この世界はどういう世界なのか


まだまだありますが割愛。「ながら感想」を見てください。

序盤とはいえ、この程度の内容は必須のはずです。

意図して隠しているものもあるかもですが、はっきり言って逆効果です。この程度の情報も出せない小説を読み続ける気には到底なれません。


読者がどんな情報を求めているのか。誤読を避けるためにはどんな説明が必要なのか。よくよく考えて文章を書くようにしてください。現状はあまりにも不案内です。これだけ文字数を割きながら、何ら伝わるものがないのもそれが原因です。



▷ストーリーについて


立ち込める霧の中を、えんえんと歩かされるような物語です。

最初はファンタジックでわくわくするんですが、幾ら歩いても霧は晴れて来ず、高揚が次第に不安と絶望に置き換わる感じがそっくり。先の展望がまるで見えません。まさに五里霧中です。


男女を自身で選択できる設定は、近年漫画でも時々あって、面白い着眼点だと思います。性別とは何か、自身にとってどんな意味を持つのかという哲学的な問いにも繋がりますし、近しい人との関係性の変化などドラマも生まれそうだし。


ですが、この作品では、そういった読者が思い描く面白そうなストーリーの芽をことごとく摘んでしまっています。もっと先では違う展開があるかもしれませんが、一万字時点では確実にそう。現状では冒頭二話で読むのをやめる読者が多くても、何らおかしいとは思いません。


具体的に指摘していきましょう。


>1話目の場合

この第1話の主題は「双子の望むまま「兄」になると決める」ことです。

この手の性を選ぶ物語では、「どちらにするか迷う」のが定番です。現実的な問題、異性への恋愛感情、性への自意識などなど。現実と理想、自身の内観があればこそ、求心力が発生するわけです。それが想定外の展開を迎えたり、読者の共感を呼ぶものであれば「面白い」とされ、続きを読んでもらえます。


ですが、この1話で説明される世界には、性選択の問題が皆無と言っていいほど存在しない。もしくは説明が尽くされていません。

双子の片割れが女を望んだので、慣例上、男を選ぶ主人公ですが、別に嫌と言うわけではなく、あっさり受け入れています。

王族としての重責や評判を気にしている部分はありますが、これは別に性選択と無関係の問題です。女を選んでも何ら解決しません。


最後の最後に「あの子」という問題になりそうなキーワードが出てきますが、これも2話を全部読むと、何の問題もないことがわかります。


せめて王位継承に性選択が条件づけられていれば、葛藤が生まれる余地があるのですが、そこは触れられておらず、「特にはない」と読める内容です。

つまり「上様は兄になってね」「おっけー」というだけの内容に4600字使っているわけで、これは冗長と言う他ないでしょう。余裕で短編一本が書ける文字数なので。


>2話目の場合

2話目の主旨は、「陸の人間との出会いと別れ」です。

童話の人魚姫がそうであるように、人との出会いは始まりを意味するので、二話に相応しいと言えるでしょう。


ですが、こちらでも性に関する問題は発生していません。

どころか、性に関する話題すらろくにない。何なら人魚と知った場面の描写すらない。普通に人魚と人間として友人なり、何故か彼が来なくなっただけです。

最後にいきなり


>私が「男」を選ぶにしても「女」を選ぶにしても、もう今まで通りの私で彼に接することができない、気がする。


とか言い出しますが、別に好き合ったわけでもないただの友人関係なので、性別が変わったところで何なのか、という感じです。内面の変化とかはあるのかもですが、連続性がないわけでなし。幼馴染が美女に成長しても、恋心がなければ関係性は変わりません。(いや、他の男とつきあうとかなれば変わるか)


こちらは性関係以外の問題すらなく、せいぜい何故か彼が来なくなったことくらい。

最後に強引に性選択を俎上に載せていますが、話の流れ的に無理筋です。

この2話にも問題提起はなく、結論として一万字読んだ感想は「説明に乏しく、話に起伏のないつまらない話」になるのです。


以上を改善するのは、実は簡単です。

一話なら、「男を選ぶ=王位継承の義務がある」と明記すること。

そうすれば、カノンのたっての願いを断れず兄になると決める一方で、致命的なコミュ力のなさなど国王の資質が問題となり、葛藤が生じます。


ここに「王族の性選択には、現国王の承認が必要」などの条件を提示しておけば、主人公の不安とともに、読者は「国王がどんな判断を下すのか」「双子はこの危機をどう乗り越えるか」といった部分で興味をそそられます。


現状、国や国王側の話がほぼスルーされているのが一番の問題なので、そこをがっちり固めて性選択と絡めることが、物語を地につけることになるかと。


二話の場合は友人関係ではなく、彼の方に恋愛感情を付加すれば、一定解決するものと思われます。その気持ちに応えるか否か、恋愛対象として見られることへの自意識の変化など、書けることは幾らでも生まれるので。


その上で、男女どちらかの選択に気持ちが強く揺れるも、王族の現実やカノンの期待と相反するため、悩むことになる……という引きなら及第点かと。

現状は彼にも主人公にもその手の感情は見えず、何なら話題にすらなりませんでしたから。どっちも性的にはどうでもいいと思ってるとしか見えません。


或いは、人魚以外の外部の接触者として、人魚と人間の違いについて徹底的に論じる展開にしても面白いと思います。彼のキャラをもっと押せ押せにして、いきなり「おまえ男? 女?」から始めて、人魚であること、性を選べることなどから話題を広げていけば、何も知らない読者のナビゲイターにもなりますし、読者を引き込めるかと。現状では人魚や性選択について「ふーん」くらいの塩反応ですから。ここの場面を何故描かなかったのか、理解に苦しみます。一番の見せ場でしょうに。


いずれにも言えることですが、この物語冒頭では、「性選択における対立構造」が作れていません。本来は複数の対立の種を撒いておき、それがどう育つかを読者に期待させるターンです。一万字書いてこれでは、スタートの号砲が鳴ってから屈伸を始める陸上選手のようなものです。その結果は言うまでもありません。



▷キャラについて


まず最初に指摘したいのは、年齢について。

1話、2話ともにキャラの年齢が書かれていないのは、致命的です。

1話の双子は寝しなに童話を読んでもらうシーンがあったので小学生以下、2話は世界の知識など披露していたので高校生くらいかと思っていましたが、2話が1話より前の話だと知って愕然としました。同じキャラの一貫性すらないのでは話になりません。キャラを論ずる以前の問題です。


>主人公

主人公については、王族の誇りとか責任を口にするわりにやってることは引きこもりで、まるで魅力的に感じません。性についてもさしてこだわりがないですし、この物語の主人公に相応しいかはなはだ疑問に感じました。


そもそもの国や王族の設定がおそろしく希薄なのも、このキャラの魅力のなさの一因さと思います。例えば主人公のコミュ症を国王が直すべく家庭教師にスパルタさせるとか、或いは別の王子がいるならそちらに王位継承を考えるとか、そういった王族の重責の描写が、この物語にはありません。ながら感想でも書きましたが、いいとこ個人経営の中華料理屋みたいな両親です。


ここら辺をもっときっちり詰めて設定し、王族の厳しい教育やしきたりの中で、どちらの性を選び、人生を決めていくかを主人公に問う(であろう)と読者に想像させる方が、より多く強く読者に訴えられるはずです。


>カノン

これはわかりやすいキャラクターで、高評価。

兄との対比もはっきりしており、主人公が嫉妬する気持ちも共感できます。

ただ、私ならバカという設定は、「(主人公より)魔法は上手い」などにしそう。その上で「カノンが国王になった方がよい」というカノン派が生まれる説得力になりますし、その方が主人公の葛藤をより深刻にできるはず。兄を想うカノンが望まず敵に回るとか、そういう展望もありそうで興味を惹かれます。


あとはそうですね。カノンには実は平民の恋人(未満)がいるとか。

それを兄に隠した上で女性になることを望んでいた、とかだとシリアス度が高まって個人的には好みかも。人魚姫のジュリエットですね。主人公にはショックでしょうがけど。


>彼

まず、名前が一切出て来ないのがまず謎です。謎の商団名は出て来るのに。

5600字も書き、主人公も懇意にしていた相手の名前に触れないのは、意図的なものだと推察されますが、その理由はまったくわかりません。

おそらくは物語を通しての重要人物と思われますが、名前を出さなければ印象は薄くなります。この先キャラクターが増えれば混乱も招くでしょう。デメリットしかないと思いますが。


性格については、あまりにも淡白すぎて、主人公の内面に踏み込んだ気配すらしません。勝手に主人公は踏み込まれた感出してますが、読者的には全然です。


そもそもまず反応が乏しい。

湖で人魚に出会って、同年代で美形(なんですよね?)で同年代。これで無反応とかそんな人間いますか? トトロを見たメイだって、もう少し反応してましたよ?

この場面をあえて書かない選択をしているのも、私には理解できません。わざわざ話を平坦に均したいかのようです。


二人の会話も陸と海の知識交換程度ですし、コミュ症の主人公が喜ぶのはいいとして、彼の方の入れ込み具合はせいぜい変わった友人程度かと。もちろん性選択というテーマを掘り下げるには役者不足です。もっとガツガツ行くキャラとか、主人公に一目惚れくらいしないと話は始まりません。

初めて登場する人間として、このキャラくらいは濃い目の性格をつけた方がよかったと思いました。


▷アドバイス回答について


>・キャラクターたちの言葉遣い

> 読んでいただけたらわかるのですが、主人公は「女」でもなく、「男」でもない中性の子です。現在、作中ではなるべく男性よりの言葉遣いを使ってはいますが、私的にはあまり満足していません。この子の身分的にも性格的にも少し堅苦しいような感じとはなりますが、もう少し中性を表現したく、言葉遣いをもう少し柔らかくしたいと思っている部分があります。また物語が進むにつれ、言葉遣いの統一性を保つのが難しくなるように感じました。もちろん会話は自由ですので、全てを統一したいというのは変な悩みかもしれませんが、キャラクターたちの性格をなるべく言葉遣いで表現したいと思っているので、言葉遣いには個性を滲ませられたらと考えています。二話分読んでいただけるなら、登場する子は少ないですが、それでも各々そこまでで感じた範囲でアドバイスいただけたら幸いです。


そもそも子供は誰かの真似をして言葉遣いを覚えるものです。「じゃりんこチエ」の世界では三歳児だろうが河内弁です。主人公とカノン、双子はどんなふうに育てられ、誰の言葉を真似て成長したのか。そこから考えることがリアリティだと私は思います。しかるに、「中性的な言葉遣い」などというものは存在しない、教える側も用意しないのでは? というのが私の感覚ですね。後は王族側が双子をどう教育したいかに倣うべきでしょう。


その上で主人公を中性的かつ個性的に描くのであれば、私ならコミュ症であることを利用します。一話と二話では当初キャラが別なのかと思うくらいはきはき話していましたが、一話の設定からすれば、カノン以外とは話せないコミュ症のままなので、「不思議と話せた」などというご都合主義でなく、たどたどしく内気な口調から、じょじょに話せるようになる描写をします。口数が少なければ、男も女もさして口調に違いはありません。そこを利用して中性的なムードを演出できるかと。


内面の語り、つまり一人称の部分を中性的に書くなら、ある程度説明口調の、事務的な語りにならざるを得ないと思います。これは性別関係なく、一人称の特徴なので。真面目にキャラの考えを拾うとノイズが多すぎ、説明が冗長になるので。


その上で作者が考えるところの主人公の性格を忠実になぞり、男性的・女性的な言葉を避ければ、それで十分ではないかと思います。必要なのはまず中性的なキャラ設定で、言葉遣いはそこから生じるものです。


もう一つ。キャラの中性的な側面を描くのに、台詞に頼るのは間違いです。

小説は文章からイメージを構築するメディアなので、中性的=特徴のない台詞からは特徴のないキャラしか想像できません。それではキャラの魅力はゼロです。


外見と内面の食い違うキャラに必要なのは、他者の評価です。

例えば口調が男性的でも、湖で知り合った男から「美人」「超美人」「こんな美人見たことない」と言われ続ければ、脳内ではバランスよく中性的に仕上がります。今作にはそういった描写は皆無なので、利用しない手はないかと。


性選択をテーマとする漫画のキャラといえば「11人いる!」(萩尾望都)のフロルが思い出されます。彼(彼女)は成人までに性別を選べますが、故郷が男尊女卑な文化であるため、華奢で美貌ながら男を模した行動を取り続けます。フロルの選択がどうなったかは、是非漫画の方でご確認を。古典ですが名作ですよ。


>・描写が変になっていないか

> 初見で読んでいて、理解ができないような部分があるかどうかをチェックしていただきたいです。


これは「ストーリーについて」とながら感想を見ていただければ。

とにかく圧倒的に描写不足。想像に必要なパーツが欠けすぎ。

これだけ丁寧に書きながら必要な情報が歯抜けなのは、読者の方を向いて小説を書いていないのでは? と疑問を持たせるほどです。改善を強く求めます。



>・心情描写について

> 主人公の悩みを強調したく、結構な間をかけて心の葛藤を描いてみました。ですが、少しくどいかもしれなかったと後から思いました。読者から見て、どうなのか、ご意見をお願いします。


くどいですが、それ以上にたいした苦悩でない(と読める)ことの方が問題です。

本当に重大な悩みなら、多少くどくても読者は納得するものです。

たいしたことのない悩みをえんえん聞かされるから、ウザく感じるんです。

そういう人、いますよね? 現実に。 


くどさを考える前に、まず筋道の通った問題設定をしてください。

話はその後です。


>その他でも気になる点はどうかご指摘願います。


この作品がどこを目指しているのか、一万字ではまるで伝わらないので、先を見越したアドバイスすら出来ません。まずはそこから改善すべきかと。


貴方は何が書きたくて、この作品を書き始めたのか。

それを読んでもらうために、二話目までにはどんな情報や仕込みが必要なのか。

長編の設計図がもしあるなら、出だしからつまづいているので、改めての見直しをお勧めします。



⬜️総評

・冒頭から先が見えない、五里霧中小説。

・性選択のテーマはよいが、深掘りは期待できず。

・歯抜けに似た描写不足。読者の疑問の先回りを。


読み始めた頃は本格的なファンタジーが読めるかと期待していたんですが……

いやはや残念な結果に終わりました。

長編なので先は面白いかもしれませんが、一万字でこれでは推して知るべし。ネットの読者はもっと早い段階で見切りをつけてもおかしくありません。


今作は丁寧に書かれていますが、読者に向けては書かれていません。

なのでいくら言葉を尽くされても、読者の解像度が上がらないのです。

作者が書かないことは、知りようがありませんから。


そこで「ごめんごめん」と改訂するか、「私の文章を読めない読者は去れ」と切り捨てるか。

願わくば前者であってほしいところです。


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