【02】戦士オリビアの憂鬱 ~勇者のいない世界で『お前が魔王を倒してこい』と師匠に家を追い出されたので、世界を救う〈英雄〉になってみせます!~(夜月 透) 総評


【02】戦士オリビアの憂鬱 ~勇者のいない世界で『お前が魔王を倒してこい』と師匠に家を追い出されたので、世界を救う〈英雄〉になってみせます!~(夜月 透)

https://kakuyomu.jp/works/16818093083505300909



⬜️全体の感想


・タイトルについて


>戦士オリビアの憂鬱 ~勇者のいない世界で『お前が魔王を倒してこい』と師匠に家を追い出されたので、世界を救う〈英雄〉になってみせます!~


個人的には長文タイトルは苦手なのですが、まあそこは置くとして、内容には即しています。語呂もまあ悪くありません。


指摘するなら、二点。

一つは、一捻りがなく、個性が感じられないこと。

やはりプロ作品は、長文タイトルにせよ印象に残るフレーズや言い回しを入れて工夫しています。プロは無理にせよ、他との差別化は常に意識すべきです。


もう一つは「師匠に追い出された」がタイトルに偽りありなこと。

五話まで読む限り、師匠は主人公と一緒に始まりの街に来ています。あのまま居つくならただの引っ越しです。少なくともあの流れを「追い出された」とは言わないと思います。


もっともこれは、タイトルより本編の展開が悪いので、私ならそちらを直すと思いますが。



・あらすじについて


長いので引用しませんが、結構先の展開まで書かれていますね。

あらすじ自体は悪くありません。わりと面白そう。

一万字でこのあらすじの半分くらいに到達してたら、もっと楽しく読めたんじゃないでしょうか。

でもそうはならなかった。そうはならなかったんだよ、ロック。(Black lagoon)


今回五話、一万字近く読みましたが、かろうじてあらすじの四行目くらいです。

このペースだとあらすじに追いつくのは相当先になるはず。あらすじ倒れに終わるのでは……というのが率直な感想です。



・文章について


ラノベであることを差し引いても、文章力はイマイチです。

同じ言葉を繰り返したり、文章マナーが適当だったりが目立ちます。


とくに引っ掛かったのが感情表現で、おそらく作者の意図とズレた言葉が選ばれているためか、キャラの性格が見えて来ず、描写不足以上に輪郭がぼやけて見えます。珍しい症状です。


キャラ小説でキャラが何を考えているか誤解させてしまうのはわりと致命的なので、その表現が適切なのか、辞書で調べる癖をつけてみてはどうでしょう。


もう一つ改善案は、キャラの性格をもっとわかりやすく、極端かつシンプルにすることです。これなら誤解しようがないので。


一つ褒めておくと、0章のバトルシーンはなかなかよかったです。

私はバトル描写には特に厳しく、細かいとこまでこだわってチェックいれる癖があるのですが(実際今回も入れた)、夜月さんのバトルは読める方でした。


描写はシンプルかつわかりやすく、読者を楽しませようという意識も感じます。

筋はいいと思うので、是非この先も精進してください。


ただし。バトルの内容自体は、ファンタジー小説のテンプレ中のテンプレなので褒められません。あくまで文章力のみの評価です。

そもそもバトルの独創性とは(以下略)



・内容について


この間、カレーを作ったんですよ。

大鍋一杯に具材をぶちこんで、煮込んでからカレールーを一箱入れたんですが、まるで足りなかったらしく、完成したのはうっっすいカレースープでした。


それでも一応カレーだしとご飯にかけて食べてみたんですが、やっぱり味が薄い。

不味くはないけど食べる気がしなくて、結局半分くらいで捨ててしまいました。


この作品は、そのカレースープみたいです。


とにかく内容が薄い。水増し感がすごい。

話の展開が遅く、ろくに進まない。

刺激も盛り上がりもないまま、だらだらと続く。

毎日更新はすごいですが、出てくるのがカレースープでは何も嬉しくありません。

それなら一月じっくり煮込んだカレーの方がマシです。


「この先面白くなってくる」という反論があるかもしれません。

でも、冒頭一万字も読めば、読者が愛想をつかすには十分です。

なんなら一話目で切る読者だって大勢いるんですから。


一見さんの読者にカレースープを出すのが正解だとは、私には到底思えません。改善すべきです。


この薄さの原因を、項目別に書いてみます。



>展開が遅い

五話までの内容を一行まとめ


0.プロローグ

1.主人公登場。旅に出ろと言われる

2.始まりの街についた

3.酒場に行った

4.料理を食べた。冒険者の証をもらった

5.師匠は凄腕だった。クエストを受けた。


これで一万字です。とにかく遅い。

大筋以外はキャラが喋ってただけで、事件も意外性もなかった点も薄さの原因です。

これでキャラの絡みが面白ければまだ許せるのですが、その域でもない。はっきり言ってつまらない。この理由は後述しますが。


もし私が書いたら、3000字でキャラ紹介&旅立ち。もう3000字でクエスト受注して、ラスト4000字で初クエスト終わらせますね。

それくらいでないと読者が読み続けてくれないのでは? というのが私の肌感覚ですが、どうでしょうか。



>物語の密度

おそらくですが、夜月さんは丁寧に物語を書きすぎです。


例えば旅を書くにせよ、準備から旅程から町に入るところから宿を探すところから全部書こうとしている。


これが薄さの最大の原因です。

何故かというと、面白くもない場面まで全て入れてしまっているから。つまり水が多いのです。


面白い小説を書くコツは、面白くない要素は徹底的に省くことです。「町に入るシーン書きたいけど面白くないなあ」と思ったら、書かないか一行で済ませるべきなんです。そこの精査がこの小説には欠けています。だからカレースープになってしまう。


面白いシーンを思いつけば書けばいいし、書けないなら飛ばせばいいんです。絶対必要な情報は、出来るだけ短くまとめるか、会話場面などに紛れさせてさりげなく伝えるようにすれば雑味になりません。


だらだらと書きたいことを垂れ流すのではなく、読者視線を意識して「本当にこの場面は必要なのか」「面白いと思ってもらえるのか」を考えて引き算をするのが、物語の密度を上げるコツです。



>キャラが薄い

五話時点では、キャラは四人、二人は脇役なので実質二人が五話分も動き、会話を重ねたことになります。

普通なら二人のキャラの人となりを知るには十分なはずですが、正直なところ、まるで理解できた気がしません。


これはながら感想で書いたように、キャラの表記ブレが原因です。文章力によるミスもあるでしょうが、私が推理するに、夜月さんはキャラの性格や個性を固めきらないまま、それっぽいエピソードを思いついては、毎回書き下ろしているのでは、と。


そう感じる一番の理由は、オリビアとアテナ、二人のキャラに芯が感じられないことです。

「これが一番大切」「これは譲れない」という核の部分。これがどちらからも見えてきません。


もしかすると本当は設定されているのかもですが、物語で伝わらなければ無意味です。一万字の間に読者の心を掴めなければ、その先は読んでもらえないんですから。出来るだけ早い段階で、二人の魅力を伝える必要があるはずです。そこを考えて物語を組み立てましょう。


私は本来、オリビアのような戦士娘もアテナのような口の悪い老婆も大好物のはずなんですが、今作では自分で驚くくらい感情移入できませんでした。魅力あふれる場面もなかったですし。残念としか言いようがありません。


二人のキャラに核はあるのか。

もしあるなら、それをどう物語に組み込むのか。

初心に戻り、この二点をもう確認されてはいかがでしょう。



>オリジナリティについて


これは薄さとは別の指摘ですが、カレーに絡めて最後に。

家でカレーを作る時は市販のルーを入れるものですが、この作品もそこは同じです。

もし薄さが改善されても、出来上がるのは普通のカレーです。もちろんカレーなので美味しいのですが、誰が作っても同じ味だとも言えます。オリジナリティが足りていないのです。


ラノベはテンプレ基準ですし、ルーをいちから作れとは言いません。カレーを煮込む時に隠し味を入れるとか、珍しい材料を使ってみるとか、その程度のことでいい。それが「夜月さんのカレー」になるはずですし、だからこそ食べてみたいと思うわけです。でなければ、普通のカレーはそこら中に並んでるわけですから。


そしてこのこだわり要素も、物語の早めに出すべきです。

ほんの少しでもいい。読者がそこに気付き「これはただのカレーじゃないぞ」と思ってくれれば、半分くらい勝ったようなものです。理想は一口目で気付かせること。小説なら1~2話くらいまでが勝負なんです。



・アドバイス回答について


>・特に意見が聞きたい部分

>描写不足、説明不足などがあって読みづらくないか見て欲しいです。文章の書き方など、至らない点があったら直したいので知りたいです。


およそ、ながら感想で指摘しましたね。

細かな描写や説明の指摘より、まず何よりキャラの表情や感情表現の部分を再チェックしてみてください。

そこがブレると、本当に読むに堪えなくなってしまうので。



⬜️総評

・ルーの足りないカレースープ。薄い。ひたすら薄い。

・キャラの表現ブレがきつい。魅力を出す工夫を。

・オリジナリティの欠如。自分のカレーを作る意識を。


とりあえず毎日更新にこだわらず、納得のいくまで煮込んではどうでしょう。

或いは、本物のカレースープを目指すか……ですね。


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