【01】かずら橋揺れたら(大田康湖) 総評

※24/10/02/20:45加筆あり



【01】かずら橋揺れたら(大田康湖)

https://kakuyomu.jp/works/16818093081245192364



⬜️全体の感想


・タイトルについて


「かずら橋揺れたら」。

タイトル自体は語呂も雰囲気もいいと思います。

ですが、それ以上でもそれ以下でもありません。

この話は、かずら橋が舞台ですが、そこに必然性は何もありません。かずら橋でなくとも全然成立します。「揺れたら」も特に含みがありませんでしたし。


テーマに通じるタイトルではないという意味で、読後はやや評価が落ちるなと思いました。読後に納得のいく、余韻あるタイトルが個人的には理想です。

とはいえ「私なら」がすぐに思いつくほど悪くもないのですが。これはこれでありの及第点です。



・あらすじについて


引用しておきます。


>2000年7月16日、月食の夜。徳島県祖谷の民宿の娘、山乃端鐘子(やまのはしょうこ)は高校2年生。進路に悩んでいる。鐘子は民宿の客として同じ路線バスに乗り合わせた大学1年生の青年、斗南速登(となんはやと)と知り合う。速登は家に伝わる古文書と謎の物体の手がかりを求めて祖谷に来たと言う。

> 山乃端家には祠があり、古文書にその祠のいわれが書かれていた。速登が持ってきた謎の物体を祠に供えると、突然物体が光った。二人の運命の出逢いの物語。


全体的に不要な情報が多く、煩雑に感じます。

年月日やキャラ年齢、進路などはあらすじに必要ありません。

物体が光るとか準備のくだりも余計です。

大筋である

「古文書を調べる速登が祖谷を訪れる」

「二人はタイムリープして過去を体験する」


辺りを中心に、結末をぼやかして私なら書きます。

追加するなら祖谷の秘境ぶりとかを押し出しますかね。

舞台設定は大変よかったので。


あとこの内容では、「二人の運命の出逢いの物語」はちょっと言い過ぎです。もっと恋愛要素マシマシにするならいいんですが。



・文章について


文章自体は、さして問題を感じませんでした。

読みやすい淡々とした筆致で、いつも通り過不足ないものです。

何点か描写不足というか、説明がよくわからない部分がありましたが、そこを直せばそれで十分だと思います。


具体的には、谷川、かずら橋と道の箇所、丸い球体のサイズですね。

アクションシーンを描く上で、地形や距離、現在位置が把握できないと、読者のストレスになりがちです。(複数に読めてしまう場合など)

なので、アクション場面を書く際は、特に入念な背景描写を意識されるといいかと思います。



・内容について


さて、問題の部分です。

一言で言えば「しっちゃかめっちゃか」ですね。

問題は幾つもありますが、大きく分ければ二つ。


一つは速登のご都合主義的な論理展開。

背後に作者の都合が透けて見えて、読むに堪えません。


二つ目はキャラ立ちの悪さ。

伝記小説やSFが売りならいざ知らず、恋愛ものとして読ませるつもりなら、このキャラの薄さは致命的です。

それに加えて登場人物が謎論理で行動するので、共感とは真逆の「もはやギャグ」の域に到達しています。


読みながら感想で触れた、それぞれについて解説していきましょう。



・キャラについて


太田さんは漫画的な派手な性格設定をされず、藤子不二雄的なあっさり目のキャラ作りだと知ってはいますが、それにしても今回は薄すぎです。ほとんど無色に等しいです。


せめて男女のどちらかでも個性的なら、もう一方は無色でもそれなりに思い入れ出来るのですが、今回は両方無個性なのが致命的でした。


これがキャラ要素のないジャンルならそれでもまだいいですが、この話は恋愛要素を含ませて最後を締めています。ならばキャラ立てと二人の関係性の描写を求められるのは必然で、「まるで足りてない」と評価されるのも当然の帰結かと。思い入れのできない二人が結婚したと言われても、感動できなくて当然ですから。


もちろん短編ですし、複雑な個性や関係を描くには文字数が足りないことは想像できますが、最低限の下味くらいはつけておくべきです。



私が書くなら、そうですねえ。


鐘子の方は、もっと積極的でポジティブな人格づけ。

都会に憧れがあり、関東から来た速登に初見から興味を抱くが、オカルト寄りの言動に若干引き気味。けれど何度も危機を救われ、次第に心が近づいていく。


速登は一見物静かな秀才肌だが、一度ハマると夢中になるオタク気質。好きなことには暴走しがちで、無茶な要求をしたり饒舌になる。その無茶ぶりから鐘子に辟易とされるが、いざという時の行動力や人の好さが、次第に鐘子にも伝わっていく……みたいな。


逆パターンだと、暴走する鐘子に理性的な速登がブレーキ役、という組み合わせもありかもですね。こっちの方が短編には向いてるかも。



・ストーリーについて


もうお分かりだと思いますが、今回のストーリーはいただけません。

最大の理由は、ながら感想で繰り返したように「速登の思考が理解不能、かつご都合的」ということに尽きます。


名探偵とかそういうレベルではなく「作者からカンペもらってるだろこいつ」みたいなタチの悪さです。おまけに誰も突っ込まず、ストーリーは無茶苦茶な推論前提で進んでいく。真面目に読んでる読者はおいてけぼりですし、そうでない読者も生半可な理解で追うことになります。


ながら感想から切り取った部分を例示しましょう。

月食の夜、鐘子に祠で踊るよう頼む場面です。



────────────────


いやいや。

このお願いは、相当論理がかっ飛んでると思います。


この時点での情報を整理すると、


・月食の夜、かずら橋が揺れ、星(丸い物体?)が落ちた。

・乃地日の星は(丸い物体を?)鎮めた娘に光の剣を授けた

・光の剣=塊だと思う


だけです。

ここから「箱=光の剣を祠に供えて、その前で踊る」ことに何の意味があるのか、全然わかりません。


古文書を再現するなら、まず「丸い物体」が何であるかを考える必要があります。「鎮めの舞」は「丸い物体」に向けたものですから。

ですが速登の説明にそこの検証はなく、特に話に登場しない祠の前で踊ることを求めています。

光の剣を祠に供える、というのも意味不明です。古文書を見る限り、光の剣は娘への報償でしかないので。


これが何故、ここまで強烈に違和感を覚えるかと言うと、速登が学者然としているからでしょう。口調はクールだし、古文書の秘密を調べるために秘境を訪れる辺り研究熱心さが伺えます。

それなのに、まるで根拠のない検証を、それも他人を巻き込んで行うことに違和感を覚えるわけです。


これが速登がいい加減な人物で、オカルト同好会の悪乗りで言ってるなら、ここまで違和感はなかったと思います。


ここの違和感を埋めるためには、不確実な部分への言及が必須です。

何がわかっていて何が不明なのか。踊ることで何を調べたいのか。そもそも意味があるのか。


もし論理的な説明がつかなければ、鐘子から提案するという形でもいいでしょう。素人の突拍子もないアイデアという形なら、筋が通っていなくても納得できますから。


────────────────



ながら感想で突っ込んだように、この手の展開が複数回見られます。

話の整合性重視の私から見ると、突っ込みどころが多すぎて、話の良し悪し以前の問題です。


全体としての感想を言えば、はっきりと「面白くなかった」と言えます。

理由は上記の通りですが、もう一つ難点をあげるなら、過去の話に何ら新味がなかったことです。


読者としては、古文書の謎めいた文章や絵を見て、過去では一体何が起こっていたのかを想像します。それを上回る予想外の展開があって、初めて面白くなってくるわけですが、今作ではその意外性が皆無なんです。


過去に行く前に速登が超推理した通りの設定でしたし、宇宙人と現地人の結婚とかも、この手の話で必ず出てくるテンプレに近いものです。助けに来た宇宙人が武力まで使って強制的に連れ戻す展開は、意外ではあっても意味不明で楽しめないし。


今作に手を加えるなら、「過去で初めてわかる意外性」について、もっと捻りを加える必要があるなと強く感じました。




おそらく太田さんはタイムリープものとして、まず現代に残された部分(古文書など)を決め、その後でそれに沿うような過去を書いたのではないでしょうか?


別にその手法自体は間違っていないのですが、現代と過去の整合性を取りきれず、随所に強引な展開を入れざるを得なかったのでは、と。その犠牲になったのが速登なのだと思われます。

もしかすると、文字数の都合もあるかもしれません。


過去編含めて話が盛り上がらず、キャラや展開にわくわくしないのも、整合性で手いっぱいだったからではないかな、と。この手の時間テーマの作品を上手く書くにはストーリーの設計力を求められますし。


速登が帳尻を合わせたので、一応過去の物語はまとまっていますが(それでもツッコミどころ満載ですが)、それはかろうじて締めくくったというだけの話で、エンタメと呼べるものではありません。


物語のテーマにせよ、主役二人の恋愛ものなのかSF奇譚なのか、はたまた古文書を中心とするミステリーなのか判然とせず、ぼんやりとしたまま、ろくに印象に残りません。



ストーリーの改善ですが、まずは何よりも速登に論理的整合性を与えることです。マッドキャラにするのでなければ。

その上で、各自がリアルな肌感覚で決断し動くこと。


科学的根拠のない、例えばタイムリープなんかは説明を考える必要はないのです。何かしら根拠を設定できるならそれが最高ですが、そうでないなら「わからない」まま行動させるべきですし、そこにキャラの個性が見えてくるはず。台本を見たような台詞は読者を興ざめさせます。それくらいなら何もわからない方がマシです。読者が見たいのは、等身大のキャラの活躍なり苦悩なのですから。


・よかった点


書くのを忘れていたので、至急加筆しておきます。

今作の舞台設定、祖谷という場所を選んだのはとてもよかったと思います。

日本三大秘境という点もいいですし、かずら橋も雰囲気があります。

特産品や名物も、アクセントとして上手く使われていました。

これでかずら橋を使う必然性があれば、文句なしだったんですが。


平家の落ち武者関係も大変よさげな素材だと思っていたんですが、ストーリーに絡んでこなかったのは、やや残念ではありましたかね。宇宙人と接触させたり、平家とミスリードさせて実は宇宙人!とか、物語を膨らませられそうだったので。


・アドバイス回答について


>・特に意見が聞きたい部分。

>読んでいて説明不足、描写不足な点


これはながら感想を参考にしてください。

突っ込みどころ、とにかく今回は多かったと思います。



⬜️総評

・攻略本さながらの超推理で進む謎展開

・キャラが薄く、ツッコミ役が不在

・意外性がなく、とってつけたような展開


ちょっと今回はメタメタですね。何より私が驚きました。

どこから手をつけたものか悩ましいくらいですが、一番大事なのは根本の部分。

何を書きたいのか。何を書きたかったのか。

そこを改めて見つめ直して、再出発すべきではと思います。


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