第41話 もう一つの“異端”、そして暗躍


 森の奥深く。陽の光すら届かぬほど鬱蒼と茂る木々の狭間に、静かに息を潜める影があった。


 それは3人の若者。誰もが一見、王立魔術学院の受験者に見える。だが、着ている服や話す言葉の抑揚には、五大国のどれにも属さぬ“異質さ”があった。


 一人が、木に背を預けながら口を開く。




「……演習場を地獄に変える準備は、順調ね」




 その声は女性のものだったが、ささやきにも似た低音で、確かな冷酷さを帯びていた。




「森の東で魔物を煽動する仕掛けは終わったわ。北には崩落罠、西には幻惑の結界、南には“声”を仕込んである。どこで動いても、混乱は避けられない」


「うむ……問題はアルトガルド王国の受験者たちだな。あの王国は、この大陸でも随一の軍事国家。将来の戦力になる連中を、この場で削っておくのは理に適っている」




 3人のうちの一人、黒髪の青年が、ぼそりと吐き捨てるように言った。




「奴らがどれほど忠誠を誓おうが、世界を守ろうが、我らの“野望”の障害になるなら、潰しておくまでのこと」


「幸い、ルーン魔術そのものを弱体化できる。根本に刻まれた“意味”を蝕めば、いかに優れた術者でも発動は困難になるでしょうね」




 言葉を発した女の喉元が、一瞬だけ黒く染まる。叫びのような、呻きのような、咆哮の“残滓”が空気を揺らした。


 だが、すぐに消える。制御されていた。


 


「……ただ、厄介なものがひとつあるわ」




 そう続けた女の、金の瞳がぎらりと光った。




「例の漢字魔術――“書く”ことで意味を定める、あれは我らの術の外側にある。共鳴せず、侵食もできないわ。まるで……」


「ああ、別の言語体系だ。だからこそ、あれは“脅威”になりうる」


「いっそのこと、私が奴を直接狙う?」


「否。いまはまだ“主”の意志に反する。あの少女がどこまでの力を持っているのか、我らはまだ試していない。だが――」







「ならさ、こちらも“災厄”を使えばいいじゃん」




 場に、緊張した静寂が走る。

 言葉の主は、頭巾を深く被った銀髪の少年だった。顔は見えない。彼の声は柔らかく、それでいて冷たかった。




「この演習場には、太古の“災厄”が封じられているよね。アルトガルド王国の連中は、いざとなったらその災厄を戦力として利用するつもりだ。そいつは今後、僕たちにとって邪魔な存在……けど、僕らの“叫び”なら、それを目覚めさせる鍵になる」




 その少年の口調は柔らかかったが、そこには無邪気な、不気味な、残虐さを持っていた。




「か、解放するのですか? この森の奥に眠る、災厄を?」




 黒髪の青年が、その少年の提案におののく。



「うん、そうだよ……この混乱に紛れさせれば、試験官たちでも容易には手出しできない。何より、あの漢字魔術の少女――彼女と災厄がぶつかれば、どちらかは確実に潰れるでしょ」


「なるほど……それは“主”も望まれる結果になるでしょう……!」




 女も表情は緊張していたが、その瞳の奥には、嬉々とした邪悪さがあった。




 こうして深い森の闇の中で、3人が小さくうなずき合った。


 まるでただの受験者のような彼らは、今も演習場のどこかで、誰にも気づかれず“計画”を進めている。


 破壊のために。

 異端の魔術の名のもとに。

 世界を、“喉”で崩すために。










 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


 第41話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 創作もので、平和に終わる試験って無いですよね?(チラッ)



 この作品では、元ヤン書道天才ガールが、ルーン文字魔術の世界で破天荒に活躍する冒険活劇になります!!!!


 ちょっとは面白そうだから応援してやるぞ、鈴村ルカ!!


 オウカのキャラクター性が面白いじゃないか!!


 斬新な設定で、楽しめそうだ!!


 と、思ってくださいましたら、


 ★の評価、熱いレビューとフォローをぜひぜひお願いします!!


 皆様の温かい応援が、私にとってとてつもないエネルギーになります!!


 鈴村ルカより

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る