第66話 開戦だよー!

 さて……戦う前にも一応、茶番はしておかないとねー。

 決して腕試しの場じゃない、れっきとした人助けの場面なんだし。手抜かりはないようにしないとー。

 

「……グレイタスとマーテルから手を引け。国の出しゃばる幕じゃない」

「何を言うー。貴様ー、我々騎士団にー逆らうのかー」

「えぇ……?」

 

 それなりに芝居するつもりだったのに一気に肩の力が抜けるよー。シミラ卿、大根にもほどがあるでしょー?

 剣を抜きつつカッコよく僕と対峙するはずの場面が、まさかの完全に棒読みすぎて反応しづらい。隣でカタナを抜き放つサクラさんも唖然としてシミラ卿を見てるよつらいー。

 

 頭を抱えたくなるのを必死で堪え、僕はどうにか茶番を形だけでも整えようと試みる。

 もーシミラ卿ー、いくらなんでも腹芸くらいはできるようになっててよー。何年騎士団長やってんのさ、もー!

 

「……引かないなら、結果としてそうなる。超古代文明の生き残りだろうとなんだろうと、彼らを害する権利はどこの誰にもない」

「しかしな杭打ち殿、これは冒険者ギルドも絡む依頼にてござる。これに背きたるは貴殿、えーとギルドともやり合うつもりでござるか? 正気でござる?」

「……関係なし。今まさに"冒険"に出る彼らを邪魔する、これこそ冒険者として恥ずべきふるまいだ」

 

 下手くそシミラ卿に代わりサクラさんがフォローを入れてくれる。えーと、とか言ってるけどそれなりに自然な演技で助かるー。

 でもね後ろの冒険者達ー? 僕の言い分のほうが好みだからってうんうん頷くのやめよっかー、今どっちの味方かな君達はー。

 

 ともかく、このくらいのやり取りでいいかな? 僕は構える。

 あんまり長引かせると本当にシミラ卿がボロを出しかねない。いやもう、すでにボロが出てるっていうか最初からボロボロだけどー、さすがにこの茶番劇の裏を見抜かれるレベルでやらされると困るからねー。

 切り上げて戦闘態勢に移行する僕に、二人もようやくって感じで構えた。

 

「ふう、仕方ねーでござるね……悪いがこちらも仕事ゆえ、押し通らせていただくでござるよ」

「き、騎士の前に敵はないと知れー……杭打ち、本気で行くが悪く思うな」

「……………………」

 

 だから下手だよシミラ卿、演技と素の切り替わりが露骨ー!

 これはことが終わったあと反省会だねー……堅物なのは知ってたけどひどいよ、一生のネタだよこれー。

 棒読みから一気にいつもの抑揚になる騎士団長様に呆れつつ、三者構える。さあ、ここからだ。

 

「…………」

 

 気迫がそれぞれ立ち昇り、周囲に風を巻き起こしていく。お互いの迷宮攻略法、威圧同士がぶつかっているんだ。

 各々の纏う風がぶつかり合い、バチバチと音を立てて稲妻を生み出す。この時点ですでに騎士団や冒険者達には超常めいているだろうけど、Sランク冒険者同士がやり合うとなると割とお馴染みの光景なんだよね、これ。

 

「…………」

 

 ジリジリとにじり寄り、ぶつかる風は激しさを増す。

 僕、シミラ卿、サクラさん……誰から仕掛けるか。勝負はまず初撃が肝心だ。一撃を繰り出すほう、それを受けるほう。それぞれの動きで大体の実力差、格の違いが分かる。

 固唾を呑んで見守る騎士団、冒険者ギルドの面々。滅多に見られるものじゃないからねー、いい思い出にして帰るといいよー。

 

 ────一歩、踏み出す!

 

「…………!!」

「っ!」

「ハァッ!!」

 

 真っ先に動き出したのは僕だ、即座にサクラさんの元まで駆け抜けて懐に潜り込む。すでに杭打ちくんは振りかぶっている、狙いはボディ、僕から見て右脇腹へのフック!

 同時にサクラさんも動いた。問題なくカタナの切っ先を揺らし、細かく振るう……軌道を誤魔化すためのフェイントを織り交ぜつつの狙いは、杭打ちくんを持つ僕の指か。

 

 問題ない。僕は杭打ちくんを持つ右腕を振り抜いた。

 ただし脇腹めがけてのフックの軌道を、途中で極端に肘を折り曲げることで強引に変更。僕の指を狙っていたカタナに合わせ、かち合う形で振り抜く。

 

「……っ!!」

「っと、ぐうぅっ!?」

 

 カタナは美しく鋭い斬撃主体の武器だけど、僕の杭打ちくんは粗雑で大雑把な打撃にも使える。しかも根本的に重量がとんでもないため、普通に撃ち合えば大概押し勝てるだけの威力は、杭を使わずとも常に秘めている。

 つまり、サクラさんのカタナはあえなく腕ごと横にぶっ飛ばされ。体勢を崩したサクラさんの右半身が、今度こそがら空きってわけだね。

 

「────」

「!? は、や──!」

 

 即座に──重量物を持ったまま振り抜いたにしては通常、ありえない速度で再び杭打ちくんを振りかぶる。ゾッとしたのか青ざめた様子で、サクラさんが呻くのが聞こえたね。

 どうせこの得物の重さ、一発防げばしばらく時間も稼げるとか思ってたんだろう。甘いよー、アマチャズル茶のように甘い。

 

 迷宮攻略法、重力制御。

 現状の地下最深部、88階層に存在するとある地点へたどり着くために必要な技術であり、現時点では迷宮攻略法最難度の技術と言える。

 文字通り僕の周囲の重力負荷を増減させる技で、これを使えば家一軒分はある重さの杭打ちくんもほとんどストローみたいな軽さになる。おかげでこの通り、習得前にはできなかった動きができるから助かるよー。

 

「────!!」

「させんっ!!」

「っ!?」

 

 とりあえず一撃、挨拶代わりにかましとこうかとサクラさんの脇腹めがけて再度、杭打ちくんを振り抜こうとした、その時だ。

 横合いからシミラ卿が、手にしたレイピアで僕の顔面めがけて突きを放ってきた!

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