第131話
◆
・・・ただ、大丈夫だと言う美晴さんの表情は暗くとても大丈夫とは思えるものではなかったので『何かあればすぐに迎えに行くので遠慮なく連絡をして欲しい』と伝え、了解してもらったけどそれだけでは不安が拭えない。
最寄り駅へ着くと今日も
美晴さんのことを考えていて美波の話を聞き流していたら、美波が怒り出した。
「ちょっと!わたしの話、聞いてないでしょ!」
「ごめん、美晴さんのことが気掛かりで集中できてなかった」
「そっか、お姉ちゃんの心配か・・・まだ調子悪いの?」
「身体は大丈夫みたいだけど、様子がずっと変なんだよね。
とにかく大丈夫とは言うのだけど、表情が暗くて心配事があるみたいな感じで・・・」
「心配事って
「う~ん、みゆきさんのことは心配といえば心配だけど、そこまで暗くなるほどのことではないよう思うのだよね」
「え?そんなに軽いことなの?」
「軽いか重いかは難しいけど、みゆきさんは家出を止めて自宅へ帰っただけだし、しかも仲違いしていたご両親とは関係が修復したというからそれほど心配する様なことではないと思うよ・・・ところでなんでみゆきさんが帰ったことを知ってたの?」
「それは知らなかったから・・・」
「じゃあ、何だと思ったの?」
「うん、いや、昨日会った時に様子がおかしかったから何かあったのかなって・・・
それにしても、タイミングとしてはお姉ちゃんに気を遣っているのは間違いないだろうし、それでお姉ちゃんも気にしているんじゃないのかな?」
「まぁ、たしかに昨日の件はみゆきさんが原因で美晴さんに精神的な負担をかけたって言うのはあるけど、もう解決しているし・・・」
「え?解決してるの?」
「ん?そうだけど、何がそんなに意外なの?」
「えっと、早いなと思ったの」
「早い?」
「早くないの?」
「順番が逆で、問題が解決したから美晴さんの緊張の糸が切れて気を失った感じだったからさ」
「そうなの?」
「そうだよ。何か変かな?」
「ごめん、わたしが考えすぎだったかも」
あとは取り留めもない話をしながら登校し、教室へ入ると
芳川さんは満員だけでなく昼間の混雑具合でも電車に乗ることに抵抗感ができてしまっていて、自転車で登校することにしたとのことだった。なので、悪天の時は欠席するかもしれないというけど、それに対して高梨先生が気遣ってそもそも自習がメインの特別教室なので無理することはないし気を使う必要もないと言っていた。
また、僕からも『僕へ対しても抵抗感があるだろうから無理に声を掛けなくて良いし、何か言いたいことがある時は美波など誰か話せる人に伝えてもらえば良いから気にしないで欲しい』と高梨先生から言ってもらった。
通常クラスが昼休みになるとハルがやってきた。
◆神坂
昼休みにお弁当を持って特別教室へ行った。一般の生徒と鉢合わせしにくいように時間をずらしているからフユ達はお昼ごはんを食べてしまっていたけど、教室で待機していたのでそこに混ざってお弁当を食べ始た。
雑談しながらお弁当を食べていたら、お姉も来たので呼び掛けたけど手のジェスチャーで待つように返されたので様子を見ていたら、仲村先輩と芳川さんに話しかけていて困ったことがないかと問いかけていた・・・こういう責任感の強いところはさすがだなぁと思うし、フユと美波ちゃんも同じ様に思っているようだった。
お姉はふたりとの問答が終わったらあたし達の元へやってきた。
「美波、冬樹、お前たちは困ったことがないか?」
「わたしは大丈夫だよ。
「僕も大丈夫だよ、姉さん」
「そうか、それは良かった。とは言え、困ったことがあったらすぐに相談してくれ。必ず力になるからな。
春華もここへ来ていたんだな・・・その、教室に居づらいのか?」
「う~ん、そうだね。どうしてもギクシャクした感じは残っているけど、居づらいと言うほど酷くはないかな?」
「そうか。まぁ、しょうがないところはあるな。私の方も周囲の人間に
いずれにせよ、困ったことがあったら私に言ってくれよ」
「うん、ありがとう」
お姉のこういうところは尊敬できるし、かっこいいと思うけど、あたしにはできそうもないなぁって思う。
次期生徒会役員選挙でお姉の後継で『生徒会長に立候補しないか?』とお姉や顧問の先生方や他の先輩達にも言われたけど、お姉の抜ける穴を埋められる自信はまるでないし、自分なりに学校を良くしようとしたってお姉より良くできる未来像を描けないから断りたい・・・でも、同学年の現役役員など他の生徒もお姉の直後は荷が重く感じるのか『同じ役職なら良いけど、生徒会長は遠慮したい』と言っていて候補者の目処が立っていないらしいし、お姉もあたしが会長なら『卒業しても相談に乗ってあげやすい』なんて言うものだから、生徒会執行部の関係者からはあたしが立候補することを期待しているとヒシヒシと感じられるのだよね。
手伝いに行くことで顔を売ってしまったのも良くなかったと思うけど、今となっては後の祭りだ。
そんなことよりフユと赤堀さんのことだ!
気持ちがモヤモヤするのでハッキリさせたい。
「ところでさ、フユ。赤堀さんとも付き合ってるの?」
「何言ってるんだよ!
そんなわけないだろ。僕は美晴さんと付き合っているんだし、二股なんかするわけ無いだろ!」
「ほんとに?
浮気とかしてないの?
一緒に住んでるんだよね?」
お姉が咎める様な視線を向けるけど無視だ。後で怒られるかもしれないけど、それは未来のあたしに任せよう。
美波ちゃんは逆にあたしと一緒で聞き出したいと思っている感じで、でも何て言えばいいのか迷っている感じがする。お姉に怒られる時には緩衝役になってもらおう。
「浮気もするわけ無いだろ!怒るぞ!
たしかに昨日まで居候してて一緒に住んでいたのはその通りだけど、美晴さんに気を遣って自宅へ帰っていったよ」
「ごめんごめん。赤堀さん帰っちゃったんだ。
でも、ご両親と仲違いをしていたんじゃなかったっけ?
大丈夫なの?」
「それは大丈夫だったみたいだよ。ご両親と話をして和解したってさ」
「じゃあさ、昨日の美晴お姉が倒れた原因の精神的な疲れってそもそも何があったの?」
「それは・・・」
フユから聞いたその話は驚かされたけど、納得ができるものでもあった。
美晴お姉と付き合う前に赤堀さんに迫られて大人の関係になってしまい、赤堀さんが生理が来ないからと妊娠検査薬で確認したら陽性だった。相手はフユしかいないからフユの子供を身籠ったかもしれないとなり、相談された美晴お姉と産婦人科へ行ってちゃんと検査したら妊娠はしていなかったことがわかった。
その流れで知らず知らずに精神的に疲れていた美晴お姉の緊張の糸が切れて倒れたのだろうという話だった。ちなみに、赤堀さんに迫られてヤッちゃったことで美晴お姉は危機感を持ってフユに告白したらしい・・・たしかにフユから告白することはないだろうと思ってたし、美晴お姉にしてはらしくないタイミングだと思って不思議に思っていたけどそんな裏話があったと聞いて納得した。
話を切り出した時には怒っていそうな雰囲気だったお姉も怒りが鎮まってくれたみたいで良かったけど、美波ちゃんの表情は暗くなっている・・・もしかして、フユがハーレムを築いていたらそこに加わる気だった?
とにかく、あたしとしては今まで見えていなかった糸が見えてスッキリした気分になった。
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