第17話 後の祭り

 学祭二日目。放課後。生徒会長室。俺は書類整備の手伝いで呼ばれていた。


 

 俺と恋瀬川と渡良瀬。三人で黙々と作業をしていく。そこで渡良瀬が口を開いた。


「ねえ、学祭。楽しかったね。特に最後、盛り上がったね」


「ああ、あれは驚いたわ。初日はサンボマスター、二日目はアジカン。なんだよあれ、サプライズ演奏。恋瀬川のギターにも驚いたが、渡良瀬はドラムできたんだな」


「そう。お姉ちゃんが大学で軽音サークルに入っていてね。家にドラム練習キットがあるの。音が出にくい、騒音になりにくいやつ。それで、少しね。ていうか、あたしより先生。すごいんだから」


「ああ、大垣先生がベースできるなんて、それも知らなかった。あれはかっこよかったな。ホント、驚かされたわ」


「りうりーも、良かったよね」



 目線で俺に感想を求めてくる。まあ、そんなの。



「そんなの、言うまでもない。誰もが思っただろうよ。すげえって。生徒会長すごいって」


「ふたみんは? みんなじゃなくてふたみん。りうりーのことどうだった」


「……それは、まあ。最高だったよ。俺邦ロック大好きだからな」


「あら、そう。ありがとう。楽しんで貰えたなら、それは嬉しいわ」


「ほうロック? ほう?」


「海外の楽曲じゃなくて、日本のロックンロールのこと、みたいな意味だよ」


「へえ」



 そんなことも知らずによくドラム叩いていたモノだ。あれも、まあ確かにかっこよかったな。とても迫るものがあるというか、でも綺麗な律動だった。とても中学生とは思えねえよ。




「映画も良くできたし、八組の喫茶店も気合すごく入っていてすごかったし、でもやっぱり三年生のお化け屋敷。あれすごかったな。毎年すごいよね。来年はやりたいな」


「三年生は秋に修学旅行もあるし、忙しいわよね。夏休みからは受験体制に入るし。そのうえであれだけの出し物を作れるのは尊敬できることだと思うわ」



 へえ、恋瀬川にも尊敬するとかあるんだな。いや、まあ、あって当たり前なんだけど。同じく等しく人間だし、中学生だし。でもライブ演奏とか、生徒会長としての振る舞いとかを見ていると、俺はどこかその完璧さを彼女に見てしまう。一人で揺るぎなく進み、寄る辺なく立ちあがって、誰も必要とせず、一人で歩いて見せるその姿に。最初に出会ったその時から。最初に聞いた噂の時から。



「それより、学祭が終わったら期末テストよあなたたち。そっちは大丈夫なのかしら」


「うぐぅ……。現実に戻される……」



 テ、テストは、そうだな、あれは、あれだな。ほら、俺は現国だとぎりぎり貼り紙に乗るぐらいだし。隅の方に、端の方にだけど。他? 他の教科はわからない。やるだけやるけど。



「恋瀬川は大丈夫なのかよ。学祭に生徒会、おまけにバンドまでやったんじゃ勉強なんてやる暇ないだろうに」


「あら、私の心配してくれるの? どうもありがとう。でも大丈夫よ。授業と予習復習ですべて済むから。あなたみたいに数学の時間寝ていたりしないもの」


「なんで俺の授業態度を知っている」


「大垣先生? だったかしらね」



 ほんと何話してるんだよ、あの先生は。俺のこと好きなのか、そうなのか。それとも構ってやりたいだけなのか。一体何なのだ。



「じゃ、じゃあ、勉強会。勉強会しようよ、みんなでさ」


「勉強会? そんなのただの遊び約束じゃねえか。勉強やろーやろーって集まって、お菓子が出てきて、ジュースが出てきて、あとは漫画でも読み始めれば完璧さ」


「九郎九坂くんはそういうことしたこと、あるのかしら」


「ない。友達がいないからな」


「……今さらっと悲しい言葉が聞こえた気がしたけど、気のせいかしら」


「じゃ、じゃあさ、じゃあさ。やろうよ。それ、今やればいいんだよ」


「俺たち友達なのか?」


「いえ、多分違うわね……」


「ほ、ほら。生徒会長とその補佐二人で、お疲れ様会みたいな? そうしよう、それにしよう。それで、ちょっと勉強もしてりうりーに教えてもらったりとか?」


「……どうしても何かやりたいのか、お前は」


「うん。やろう!」


「……まあ、気が向いたらな」


「ええ、そうね」



 俺と恋瀬川はまた作業へと戻っていく。渡良瀬ひとりがぶーぶー文句を言っている。いつの間にかこの三人でいることが多いような気がしているが、それは気のせいなのだろうか。神様のいたずらとかだろうか。まあ、どちらにしても、これを青春だとか、アオハルだとか、友達とか、仲がいいとか。そういう戯言でまとめることだけは、それだけはしたくないな。そう、ひとり思うのだった。


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