第4話 変身

目が覚めると僕は家のベッドで寝ていた。


「夢か。変な夢だったな。」


目覚まし時計を見ると、6時半だった。


もうこんな時間だ。学校に行く支度をしなくてはならない。


僕はベッドから起き上がろうとした。


しかし、その願いはかなわなかった。


何かがある。世界に対してではない。


反射する窓を鏡代わりに、いつもの部屋の様子を見てみた。


そこには巨大な毒虫が横たわっていた。


僕はその日、毒虫になっていた。


まるであの小説のように。


僕は背筋が凍った。毒虫に背筋という概念があるのかわからないけど、確かにそう感じた。感覚は人間のままのようだ。


これからどうしよう。


もう二度と新鮮な食べ物を口にすることはできないのか。

腐りかけた野菜やチーズを食べることしかできないのか。


ならば僕はグレゴールとして暮らしていくしかない。

毒虫として息絶えるまで部屋に閉じこもっているとしよう。


僕は心にを負った。


だが、同時に彼女が言っていたことも思い出した。


「己との闘いに打ち勝った時、あなたはより良い人生を送ることができるでしょう。」


こう口にするということは何か方法があるのかもしれない。


ひとまず息絶えるまでの間、元に戻る方法を探そう。


松本くんは今どこで何をしているのだろうか。

いつものようにのんびり過ごしているのだろうか。




なんで僕がこんな酷い目に合わなきゃいけないんだ。




ぜんぶあいつのせいだ。







もしももう一度決闘の相手を選ぶとしたら、あいつだ。




絶対に許さない。




僕は無数に生えた細かな足を器用に使いながら、ゆっくりと起き上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る