focus on 恵梨 part2


〇 恵梨side



「えっと…クミ先輩??これ…ほんとにやるんですか……!?」


家庭部に参加してから数日。


活動内容を見て、調理活動と書かれていたため毎日のように何か試作品でも製作するのかな?と思っていたがどうやら実際に試作品を作るのは水曜と金曜だけらしい。その他の日はその試作品を作るためのアイデアを二人で出し合っていた。


部内での予算も決められているため豪華なものを作るわけにはいかず、いかに低コストで美味しいものが作れるかを考える。これが重要なことだとクミ先輩は言う。


見た目があんなにちゃらんぽらんだから、何も考えず自分が作りたいものを自由に作っていると思っていたが案外真面目だったようだ。


熱心に試作品をどうしようか考えるクミ先輩の姿を横目に見て、すごいなぁ……ってちょっと尊敬してたのに……


「こんな料理するなんて聞いてないです!!」


「聞いてない?なに言ってんの??そこにある冊子にちゃんと書いといたじゃん」


前言撤回。

やっぱりクミ先輩は、クミ先輩だった!


緻密に練られた工程でさえ、彼女の当日の気分の前では無に等しい。


「う〜ん、こっちよりもこれの方がよさげ?」「あ〜ちがうちがう!やっぱ、こっち」「うんうん、やっぱこんな感じじゃね〜?」


おそらく二転三転ほどじゃない。

完成品を見てみれば、2日間二人で考えた試作品の完成図とはまるで異なっており…

残念ながら、まったく原型を留めていない。


どうしてこうなったのか。

これでは、これまでの努力が水の泡だ。


スマホで配分量なども細かく調べたというのに。


「どーした?えーたん。なんか不満ありげ??」


「不満どころじゃないですよ!どうして、冊子通りに作ってくれないんですか!?」


そうすれば、間違いようないのに。


「え〜、だって、そんなことしたらつまんないじゃん」


「つ、つまんない??」


だったら、試作品考案するのさえ無駄なのでは??


「いい?創作料理っていうのは、その日の気分で作るから創作料理っていうの!」


「違うと思いますけど……」


「あたしは、そうなの!だって、少なくとも前々から作る料理は決まっていて材料は買ってきてるんだからそこからどんなのが出来るのかな??って考えるのめっちゃ楽しくない??」


「いや、前々から考えてたやつを普通に作ればいいじゃないですか!?」


「それだと、当日のわくわく感とかなくて楽しくないじゃん?いま手元にある材料で一から考えるのめっちゃ楽しくない??」


「楽しくても美味しくなかったら無意味です!」


こっちは味の予測まで立てていたのに。


「あのさぁ……全部が全部美味しい創作料理なんてこの世に存在すんの??」


「えっ……?」


「もしダメだったらさ、改良すればいいだけじゃん!誰が一回で……今日だけで完璧な物を作れなんて言ったの??」


「それは……」


「いい?えーたん。これは、お仕事じゃなくて部活なの!別に毎回美味しいものを作らなきゃいけないなんて義務どこにもないわけ」


「っ……」


「だからさ、例え、クソマズだったとしてもそれでいいじゃん?別に今日はやらなかったかもだけど、考えてきたやつだってどこかで作るかもしんないじゃん??いまを楽しむのが一番だよ」


「で、でも……」


「ここ数日のえーたんは、安いもの……美味しいもの…って考えすぎて顔怖くなってたよ?授業じゃないんだからもっとテキトーでいいんだよ」


「テキトー……」


「そそ。あたしはそんな部活をこれまでやってきたし、これからもそうやっていきたい!だめ??」


彼女のやり方はあまりにも身勝手で、その理論こそ否定できるものではなかったが、わたしの考え方とは真逆だった。

だって、ちゃんと準備したのにそれを無視して失敗したらその準備の時間というものは、全くの無意味と化すから。

だけど、無茶苦茶でとんでもない論理だったとしても、確かに引き寄せられるものがあって、私の言葉もこれ以上出てはこなかった。

何も言えないのは呆れていたからだろうか。

多分、そうだ。

だけど、きっとそれだけではない。


「じゃあ、さっそく食べよ?」


今日は、予算を抑えるために春が旬の食材をふんだんに使った野菜とフルーツのパイを作ろうとしていた。

旬の食材としてイチゴやキウイフルーツ、セロリ、キャベツ、アスパラガスなど買い込んだ。

だが、結果はキウイとセロリ、牛乳を合わせたスムージー。

当然ながら合うはずもなく……


「うへぇ……まっずい……」


「おぇ……」


キウイフルーツなどの酸味が強い果物はアクチニジンというタンパク質を分解する酵素が含まれている。

それで余計に牛乳が酸っぱく感じるという原理だ。


「やっぱ大人しくいちごも入れとくべきだったかなぁ…ほら、いちごミルクとかあるし」


「まず、セロリやキウイフルーツとかを抜いたりした方がいいと思います……絶対牛乳と合わないですからそれ……」


「え〜〜?でも、キュウイもセロリもどっちも春が旬だし健康的だけどな~」


「健康だったらいいってわけでもないですよ?苦悶の顔して飲むものじゃないですし」


「う~。そうは言ってもあたしも食べたいし〜〜」


「では、牛乳を……」


「だーめ。ミルクだって欲しい気分なの!」


そんなこと言ったって、今回購入した食材の中ではキウイもセロリも牛乳も全て活かせるようなものなんてないし………


どうすれば……キウイ、セロリ、牛乳、キウイ、セロリ、牛乳……

あれ?わたしって何がしたいんだ?


あ、思い出した。

キウイとセロリと牛乳を使っておいしい低コスト料理を考えてるんだった。

うん……むりかも!!!


「諦めます……」


「え??」


「今日はもー無理です!!わたしは、諦めますっ!!」


「ちょ、ちょっとぉ!?え、えーたん!?」


「もう今日買ってきた食材全部入れてフルーツポンチにしちゃいましょう!!そしたら、世界のみんなが幸せになれます!!」


「ちょ、ちょっと待ってよ?それだと、ここにセロリもキャベツも入れるわけ??」


「当たり前じゃないですか~!セロリもキャベツも普段からフルーツポンチに入ってますよ??」


「は、入ってないんじゃ……」


「ま、挑戦してみるのもありですよね?ほら、さっきクミ先輩が言ったようにテキトーにやってみましょうよ?」


「え~、ヤバい…えーたんがご乱心だぁ……!」


「誰のせいだと思ってるんですかぁあああ!!?」


「いやああああ!えーたんが怒ったあああ!!」


ギャルがいる家庭部。

やっぱり、前途多難かも……


―――――――――

恵梨編はあと3~4話続きます

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