focus on 恵梨 part1

〇  恵梨Side



「はぁ……ここが家庭部かぁ……」


廃れた校舎のドアの前。

そこで私は立ち尽くし扉を叩こうか思い悩んでいた。

何故かって?

理由はひとつしかない。


今から起こり得るであろう未知との遭遇を恐れていたから。




突然だが、人生の転換点ってどんな時だろうか?


進学?就職?結婚?

当然、これ以外にも無数にあるだろうし、人それぞれだと思うが、約18年生きてきたなかでの私の人生の転換点は高校一年生のあの日だった。


古い旧校舎。

窓辺に寄りかかりどこか遠くの空をぼんやり眺めていた少女。

風に揺られトレードマークの金髪をゆらゆら揺らし鼻歌を歌っていた。

初対面のはずなのに。

自分とは180度違うはずなのに。

どうしてだろうか。

気付けば、目を離せなくなっていた。


「あれ…?もしかして新入部員とか?」


「はい、そうですけど……」


「そうなん…?やっほ〜」


振り返るその人はなんだかとっても気だるげで。

どこか不思議な雰囲気を漂わせる人だった。

当時は、同じ部活の先輩でしかなかったこの人だが。


今になって思う。

この人との出会いこそが私の人生の転換点だということを。



私が家庭部に入ったきっかけは、とても複雑だった。

それは今から数年前、それこそ私が入学したての頃まで時は遡る。


今と違って私が高校に入学したばかりの頃は、いわゆるブラック校則というものがこの学校には存在していた。

ブラック校則と言えば指定された髪型以外許されないとかそういうものだが、私の高校では原則全員部活動に入ることが義務付けられていた。


小さい頃から本の虫で友人も少なく学校でも孤立気味だったわたしが高校に入ってデビューを果たし部活に入るなんてそんな都合のいい話あるわけがなく、変わらず陰キャで誰とも絡まずポツンと一人でいることが多かった。


だから、このブラック校則を知った時は絶望のあまり膝から崩れ落ちたものだ。

部活動をしなければならない。

これがどれだけわたしにとって過酷なことか。

多分、誰も理解してはくれないだろう。

だって周囲の人には頼れる友人がいるのだから。

こんなことならもう少し考えて高校を選べばよかったといまになって後悔している。

姉さんについていく形でこの学校を選んだが、姉さんは入学早々生徒会に入ってしまっている。

もちろん、姉さんに誘われもした。だけど、私が生徒会をやるなんてそんな度胸もあるわけなくて……


もし部活が強制されていないのならば、当然だが行きたくない。

だれがそんな好き好んで人の密集地帯に足を踏み入れたりするものか。

だが、学校の規則により部活に所属せずにただ帰宅するという私が喉から手が出るほど欲していた選択肢は最初からなかった。


運動自体そんなに好きではなかったし、仮に加入するとしても文化部しか考えていなかったがその文化部も相当な色物揃いだった。

書道や華道は王道だからさておき、アンチ合唱を掲げるカラオケ部やパパラッチ同好会など、文面を見ただけでも眩暈が起こりそうな部活もあった。


その中でもわたしが選んだのは家庭部だった。

私からしたら一番身近にあるものだったし、どうやらその部は幽霊部員の宝庫でちゃんと活動しているのはひとりしかいないとか。


正直ラッキーだと思った。

この校則は間違いなくブラックではあるが抜け道もあった。

部活参加を重要視されているのは一年生だけで二年生以上は籍をその部においておけばとやかく言われることがないというこの学校の暗黙のルールだ。


だが、それを許されるのは文化部だけで運動部がそんなことをした日には……想像の通りだろう。


取り敢えず、一年だけはちゃんとやろうと心に決めていた。



「あれ…?もしかして、新入部員とか?」


「はい、そうですけど……」


「そうなん……?やっほ〜」


意を決して扉を叩いたというのに。

中からは何も返事がなくて。

ただ隙間から人の鼻歌だけが微かに漏れていた。

それから何度も何度も繰り返したがやっぱり返事はなくて。

焦ったくなったわたしは主に無許可で扉を開けた。

すると、扉の向こうには春風に吹かれながら金色の髪を揺らす少女ギャルが窓辺で空を見上げていた。どこか優しい鼻歌を交えながら。


え?え?

家庭部に来たはずなのに気づいたらギャルいるんですけど??


私が困惑しているなか、ガラガラとドアを引いたからか流石に彼女もその音に気付いたらしく、両耳からイアフォンを取り外して振り返る。


その時、初めて視線が交差した。

その茜色とも取れる色の瞳はまっすぐ私を捉えて離さない。

金髪に髪を染め上げ若々しく見えるその外見からは想像できないほど大人びたフェイスだった。


何かにもたれ休む時のような脱力感のある声に動くたびにゆらりと揺らぐ髪。

「よっと」と言い窓辺から降りるとコツコツと靴を鳴らして歩み寄ってくるというのに、私は一歩も身動きが取れなかった。


初対面の人と話すから緊張しているのだろうか?


もちろん、それもある。

だけど、それ以上に目の前にいるのがバチバチのギャルだから。

こっちの方が大きい。


「で?あんた誰?あたしは三年の久実くみ。好きなように呼んで」


「さ、鮫島恵梨……です」


「恵梨か……ふんふん……じゃあ今日から『えーたん』ね?」


「え、えーたん???」


「そそ」


「な、なんでですか??」


「なんでって……ニックネームあった方がなんかマブっぽいじゃん」


「マブ……」


先輩と後輩の間柄では許されないのだろうか。


「もんくあんの?えーたん!」


「なななな、ない……です」


「そ?じゃ、これからよろしく?えーたん」


こうして私こと、えーたんとクミ先輩の部活動は始まった。






――――――――――


恵梨編を始めます。

話が進むにつれて現代に行く感じですね。

よろしくお願いいたします。



訂正


申し訳ありません。

三章を執筆するにあたり初期に作ったプロットを元に執筆していた所、初期設定資料との食い違いが発見されました。

恵梨の学年が異なっておりました。


訂正版はこんな感じです。

三年 莉菜 恵梨 二年 拓実 満華 一年 麻里奈 


恵梨、莉菜を双子設定に変更します。(ストーリーにおいての姉妹の関係の重要性及びお互いの呼び方の観点から基づき問題ないと判断しました(双子ですが姉妹でもあるので))よって、8話の内容を少し変更してあります。

完結後に恐縮ですがご了承ください。

読んでいて違和感を感じるところは直したつもりですが、不備があれば知らせていただけると幸いです。

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