第45話
満華side
あー、緊張したっていうかめっちゃ恥ずかしかった。
なにあれ、ネットとかでいっぱい勉強して再現してみたけど、あんなこと誰が平常心でやれるっていうの?
やってる人って自分がかわいいとか絶対の自信があったりするものなのかな?
夏休みに入ってから少し経った家事代行の日。
私はかなり前から温め続けてきた秘儀を使うことにした。
あれからというもの私と拓実の間で家事代行の必要性はたびたび話題になっている。
当初は混乱して胸が締め付けられるような苦しい日々を過ごしていたが、時間をおいてゆっくり考えて私の考えはまとまった。
やっぱりやめてほしくない。
なんてったってこれは私と拓実を繋げる大切なものだから。
この時間を失いたくはないから。
気持ちが定まってからというもの私はいかに拓実に家事代行を続けてもらうかを考えるようになっていた。
しかし、拓実は会うごとにそれとなく家事代行の必要性を問いてくる。
きっと拓実のことだから何もしてないのにお金をもらってしまっている状況がどうしてももどかしく負い目を感じているんだろう。
もう一つの理由として私のことが嫌いになり家事代行を辞めたくてそれとなく言ってきていることも考えたが、それは考えないようにした。
きっと、おそらく、多分違うだろうし……
仮に事実だったとしたら私はショックで数日泣き寝入りするだろうからこれは私の中で違うことにして自己完結してしまっている。
話の腰を折ってしまったが私は、拓実を辞めさせないように画策していた。
まず、頭に思いついたのがもう一度堕落すること。
だが、これは一瞬のうちに却下した。
出会った頃のように汚れ切った部屋で彼を迎える?
下着の混じった山積みの洗濯物を放置しておく?
あり得ない。今そんなことしたら恥ずかしくて拓実の顔を見れなくなる。
え?今日はどうなんだって?
今日はいつもと比べたらちょっと汚れてただけで初期と比べたら全然マシだから。
ま、まぁ…でも、いい感じで汚しておいて「はぁ……仕方ないな……ほら、一緒に片付けるか?」はちょっと魅力的だから一考の余地はあるけど初期のような醜態をさらすのは極力NGで。
次に考えたのは甘えん坊作戦。
これまでの私からしたら考えられないが、もうなりふり構ってはいられない。
実行するか否かはその時の雰囲気と私のメンタルと相談ということで。
でも、知識として入れておくのは悪くないので勉強はしてきた。
最後は、色仕掛け……うん、これはやめておこう。
拓実にあんまり効果なさそうだし、効かなかったら死にたくなるから。
今日、実際に甘えん坊作戦を実行してみたのだが、つかみは悪くないように感じた。
拓実……多分だけど動揺してたよね?
私の勘違いでなければ彼はいつもより余裕がなかったように感じた。
取り繕っていたようだったが私にはわかる。
最初、声が少しだけ上ずっていた。
もしかしたら、拓実は甘えん坊作戦に弱い?
新たな発見だったがこれは私にとってもダメージが大きい。
まさに諸刃の剣だ。
うん、もう一回試して拓実の反応を見てみたいところだけど、今日のところはここまでのようね。
だって、さっきから心臓がバクバクして鳴りやまないし。
布団に蹲り脚をバタバタさせながら先程のことを思い出す。
やっぱり今日もかっこよかった。
何気ない会話でニコッと微笑んだり、小さいことで気を使ってくれたり。
自覚してからというもの日が経つにつれこの想いはどんどん大きくなっている。
はぁ……もっと自分が強気だったらよかったのに。
そうすればもうこの気持ちは伝えられているはず。
もう気持ちを自覚してから割と時間は経っている。
気が強い子だったらとうの昔に告白しているんだろうな……
それに比べて私は……こんな回りくどいことばっかりして。
臆病な自分が嫌になる。
こんな時、このまえ会った恵梨さんだったらどうするだろうか。
アタックするの?それとも私みたいに待ってるの?
今度、電話して聞いてみようかな。
友達には恥ずかしくてこんなこと聞けないけど、恵梨さんなら……
スマホのLI〇Eに登録されてある恵梨さんの番号。
いま電話を掛けるつもりはなかったが無意識にプロフィールをタップするとそこには誰も映っていない海の写真が貼ってあった。
これって、前に恵梨さんが言ってたあの時の写真なの?
プロフィール写真にするくらい気に入ってるってことは……
もしかしたら恵梨さんも拓実のこと…
私は彼女のことをそんなによく知らない。
拓実と同じ部活で会えば軽くお話しする年上のお姉さん。
私にとってはそんな人だ。もちろん、恋愛事情も把握していない。
でも、仮にそうだったとしたら。
私はどうすればいいんだろう。
意外な難題に頭を悩ませているとインターホンが鳴った。
誰だろ?お姉ちゃん?
でも、合鍵持ってるはずだし、宅配かな?
ベッドから降りようとしたら部屋のドアがコンコンとノックされた。
「なんか知らないおっさんいるぞ?」
知らないおっさん?
宅配かな?でも、宅配なら拓実だってわかるはずだし……
まさかっ……
私は慌ててドアを開けインターホンに映る人を確認した。
「ど、どうしよう……お父さん」
そこには、家事代行の存在を把握していない父が立っていた。
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