第44話
あれから二週間が経過した。
夏休みに突入して学校は閑散とし、グランドには運動部の掛け声が木霊している。
運動部が大会に向けて汗水垂らす一方で、この学校の文化部は夏休み期間中にこれといった活動がない。それは、俺の加入している部活も例外ではなかった。
なにかやろうと計画は立てていたのだが、日程や予算的な折免が付かずこの休暇期間は部活動も休止となった。
何もすることがなく虚無を感じ続けることになることを覚悟していたが現実はそんなに俺に優しくはなかった。
大学入試のための受験勉強、そして家事代行のお手伝い。
長期休暇ということもありこれまでは星野宅への家事代行だけだったのだが、ヘルプとして他の家事代行も掛け持ちしていた。
またお客様に微妙な顔をされる日々が戻ってきたのである。
しかし今日は、朝から星野の家で家事代行の仕事をしていた。
星野も運動部に所属したりしていないので、長期休暇中は塾を除いたら基本的に家にいるらしい。
その弊害かはわからないが…
「どうやったらこんなによごれるんだよ?」
「うるっさいわね…しらないわよ」
最近ようやく自立してきたと感心していたのに生活リズムが変わったとたんにこれだ。呆れてジト目を向けると星野はバツが悪そうにプイッと顔を逸らす。
俺の感動を返してくれと言いたいところだが、最近自立星野に家事代行の仕事を取られつつあったので久方ぶりのまともな仕事ともいえる。
やることがなくお自給泥棒してるんじゃないかと心配になっていたところなので喜ぶこともできないが、かと言って叱ることもできない微妙な胸中にさらされていた。
「じゃあ、さっそく始めるか」
押し問答を続けたところで過ぎていくのは時間だけである。
こっちも時給制で働いているのだから見合った仕事をしたい。
そのような衝動にかられ、掃除機を片手に掃除しようとしたら、
「別にしなくていいわよ、その…ひとりでできるし」
と雇い主に止められた。
最近はこのパターンが主流になりつつある。
「ひとりでやれるならいいけど、それなら俺の存在ってもう不要じゃないか?お前だってこれ以上ムダ金払う必要性ないだろ?」
家事代行というものは、多忙で家事に手を回す余裕がない人やどこかの誰かさんのように怠惰でだらしないやつか片付けの才能が絶望的な人だけである。
多忙な人や片付けがどうしてもできない人はどうしようもないが、星野の場合彼女のやる気だけでどうにかなる。
そして、実際問題どうにかなってしまっている。
あれから俺たちは話合って週三回の家事代行から週二回に減らしていた。
「べ、別に…全部やれるとは言ってないでしょ…」
「いや、この前だって問題なくやってただろ」
「やってないし」
「うそつけ」
前回は料理の手伝いだけだった。
一緒にちょっと難しい料理に挑戦する。これでは、家事代行ではなくただの同棲しているカップルみたいだ。
もちろんそんな事実関係はどこにもないが。
「この前のことなんて、この際どうだっていいじゃない。いつも後ろばっかり振り返ってて楽しい?」
「びっくりした……急に刺してくんじゃん」
「ほら、この話はもういいでしょ?私は部屋のお片付けとかするから、た…拓実はお昼ごはん作ってよ」
「昼ごはん?」
「うん、さ、最近あんまり拓実の作ったごはん食べれてなかったから…拓実の味忘れちゃった…的な?」
「っ――」
「えっと、その…食べたくなっただけだから……だ、だめ?」
「そ、そんなわけないだろ。仕事だし、やるに決まってる」
星野はだんだんと視線を下に逸らし最後はスカートの裾を掴みながらポツリと言う。
本来はもっと自然に言いたかったようだが、流石に気恥ずかしさを隠せなかったようで、「そ、そう……じゃあ、出来上がったら呼んで」と言い残して寝室に駆けて行ってしまった。
そんな感じで俺はぽつんと部屋に取り残されたわけだが、呆然と立ち尽くしていた。
咄嗟に取り繕っていたから星野にはバレていなかったと思うが、俺の鼓動は早くなっていた。
あんな星野初めて見た……明らかにわざと?……だったよな?
前まであんな言い方してきてなかったし……
真意がどうであれ、ひとつ確実に言えることは。
「なんだよあれ……普通にかわいいな」
――――――
あとがき
お久しぶりです。
書くことすらままならない日々が続きましたが完結の目途が立ったので投稿します。
この段階で既に書き終わっています。
52話で完結なのでよろしくお願いします。
完結後少ししたら新作も(書く時間があったら)投稿いたしますのでよかったらお読みください。
※コメント一時的に閉じておりますが、最終話近辺に開けます。
(作者がおそらく完結投稿日くらいまで浮上できないので。
詳しいことは近況ノートに書いたのでそちらをご覧ください)
お手数をおかけしますがよろしくお願いします。
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