第42話
「久々に来たけど、遊園地ってなんか子供染みてないか?絶対女友達で遊びにくるようなところじゃないだろ」
遊園地やテーマパークといえば、子供が多く家族連れが喜ぶ印象だ。
どうやら、世間も俺の認識と近いようで、俺たちの周りは家族連れで溢れていた。
「うるさいわね……私だって知らないわよ。その、一緒にくる彼女が極端に絶叫系が好きだとかそう言う理由じゃないの?」
「なるほど、そういう可能性もあったか」
勝手なイメージで女子高生はショッピングや好きなアーティストのライブのイメージが強かったがこういった人もいるらしい。
「ほら!アンタに言われて癪だったからいま調べたけど、女友達同士だって全然テーマパーク行くじゃない!」
星野がスマホ画面を見せて来たので覗いてみると確かにそう書いてある。
なになに?異性同士で行くと楽しい遊びスポットtop10?
おい、俺に見せるサイト間違ってるじゃんよ。
「おい、……お前やっぱりデートなんだろ?」
「だっ、だからっ!デートは違うって言ってるでしょ!!なんでそんなに疑うのよ!?」
「だって、俺に見せてるそのサイトだけど女友達同士でいく人気スポットじゃなくて異性の友達でいく人気スポットランキングだぞ?」
「そ、そんなわけ………あ、ホントだ…」
星野が画面をスライドさせていくと、そこには大きく「異性の友達」という文字。
「そのなんだ……世間一般の男子は怖がってる女子もかわいいとかそういう部類の人間もいるから予行練習なんてしないでぶっつけ本番でも悪くないと思うぞ?」
「だからデートとか違うし、あり得ないって言ってるでしょ!…………好きでもない異性となんて死んでもこんなところ来たくないから!」
「そ、そうか……」
その場合、俺はどうなるんだ?とどうでもいいことが頭をよぎってしまったがここで言っては新たな薪を焚べてしまう可能性が高いのでそのことについては、何も言わないでおいた。
「も、もういいでしょ。とにかく、私は苦手を克服したいの今日1日はとことん付き合ってもらうからそのつもりで」
「はいはい……とことんお付き合いしますよ……」
上機嫌でチケット販売の列に並ぶ星野を見て、楽しそうだったからそれでいいかと今日一日は存分に楽しむことを決めたのだった。
○
「俺、お前がなんで俺を連れて来たかようやくわかったわ……」
ずっと、愛菜さんでよかったのにと心中では思っていたがようやく腑に落ちた。
「まさか、カップル割りが目当てだったとはな……」
この遊園地には第三週の休日にカップル割というものが存在しており、今日はたまたまその日だったらしく2割引きで1日乗り放題チケットを購入することができた。
「そ、それは、違うわよ。か、カップル割りなんてこっちも予想外だわ!」
心外と言わんばかり星野は抗議する。
どうやら、狙ってやったわけではなさそうだ。
「なら、わざわざ嘘ついてまでカップルわりにする必要なんてなかっただろ?」
「それは仕方ないじゃない。せっかく安くなるっていうのにそれをみすみす見逃していいの?あんたもその分多く払いたいならそれでもよかったけど」
「いや、それはだな……」
「ほら、アンタだって嫌なんじゃない。いい?これは、仕方ないことなの」
「そうだな、仕方ないことだな!」
二割多く払うか、カップルを演じるかなんて考えるまでもない。
別に学校の関係者の前でやれと言われている訳ではないので、ダメージは全くなかった。
「でも、いくらカップルだとしてもこの柄はすこし恥ずかしいな」
「確かに、それは……そうね」
いくらカップルチケットとはいえ、桃色のハートマークが全体的に散りばめられたものではいくら何でも幼稚さが目立ってしまう。
「ま、まぁ、ずっと首からぶら下げていなきゃいけないわけではないし……」
「そうね、別に私はいいと思うけど」
「え?それって?」
「いいから、行くわよ。長蛇の列に巻き込まれたくないわ」
そう言って強引に手を引っ張る星野。
なすすべなく目的のアトラクション一直線に連行されたのだった。
○
「最初に言うけど、あくまでも絶叫系の練習だから今日はジェットコースターにしか乗らないわよ」
「俺としては全然それでも構わないけど……」
デートなら味気ないなんてものではないが、これはデートなんかではなく、星野の絶叫系克服の練習だ。
出来るだけ数をこなせるようにと朝早くから集合して、開園してからチケットも素早く購入したはずなのに、目的のジェットコースターに向かうと既にたくさんの人が列をなしていた。
「おかしい………けっこう早くに来たわよね?私たち」
「まあ、みんな考えることは同じってことだな。別に遊園地以外の予定はないんだし、雑談しながら気長に待てばいいさ」
「そ、そうね……最近、あんまり話せてなかったし…?」
「そうか?会話自体は、増えてると思うけどな。前よりも家事が終わる時間延びてるし…」
体育祭の後から会話のところどころで違和感は感じていたが、会話数自体は以前よりも寧ろ増えているのが現状だ。
だから、別に仲が悪くなっているわけではないと思っているのだけど。
「それは、だってもう関係ないじゃない。毎回ご飯作ってもらってるし、ご飯の時間は決まっているんだから遅かれ早かれ夕食に間に合えば問題ないんだし」
もう既に、ご飯を一緒に食べることは暗黙の了解の域まで達していた。
そこで最近あったことなど、なんてことのない会話をしているが、最近その変化で気になっていたこともある。
「そうだけど、最近俺の仕事も減ってるよな。お風呂もトイレも洗濯物も全部自分でやるって言い出すし、俺がやることと言ったら部屋の掃除と料理と洗い物ぐらいだけど……」
最初の頃は全てにおいてだらしなかったというのに、今の星野はどういうことか自分の身の回りのことをするようになっていた。
「あ、あったりまえでしょ!私だってしようと思えばできるし、大体同級生の私服を畳むこと自体異常なことなんだから!」
「それが普通なんだよな。初期のお前に言って聞かせてやりたいわ」
別に意識しないようにしていたが、俺だって同級生の衣服(下着以外)を畳むのは抵抗感があった。
当初は丸投げされていたので常識を疑っていたが、どうやら改善傾向にあるらしい。
「うぅ……私だって色々思うことがあるのよ……」
黒歴史を思い出したように、恥ずかしそうに頭を抱える星野。
「そうかそうか……でも、偉いぞ。ちゃんと出来るようになって」
「う、うるさいっ……別にできて当然だから。子供扱いするんじゃないわよ」
照れくさそうに頬を染めつつ、でも少し納得がいかないのか頬を膨らませ星野は呟く。
「なら、これからはもっと出来るようになれるな。そうすれば、いつか家事代行なんていらなくなる」
「え……?そうなの?」
「当たり前だろ?家事ができるのに家事代行を呼ぶなんて本末転倒だ」
「確かに、そうだけど……」
「……自立できるな。すごいぞ!」
そうやって褒めたつもりだったのに、星野は何故かその場に固まってただ俺の瞳を見つめていた。
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