猫探し探偵と九つの命
大柳未来
猫へ迫る刃
夕暮れの鉄鋼団地。トレンチコートを着て、風を切って歩く。キマってるシチュエーションだ。これで殺人事件の犯人を捜査したり、尾行しているなら探偵らしく格好いいのに。
「ぼた~んっ。ぼたんちゃ~ん」
俺の職業は紛れもなく探偵。だが俺の仕事はもっぱら猫探しがメインなのであった。今も三毛猫のぼたんを探している。
この町は『
「おっ、
通りがかったおっちゃんに話しかけられる。俺は苦笑しながらもぼたんの写真を取り出した。
「格好良く事件の調査中! って言いたいとこなんですけど、その通りです。この子を見ませんでした?」
「あー……三毛猫ならさっきそこの路地に入ったとこ見たよ」
「ありがとうございます!」
小走りで教わった路地へ向かう。そこにはまぎれもなくぼたんが立っていた。俺のことを待っていたかのように佇み――そして走り出す。
「待ってぼたんちゃん!」
引き付ける用のご飯を出す隙すらない。距離を離されないよう必死に走る。猫探しは体力勝負だ。
猫は縄張りを持ち、余程のことが無い限り縄張りを離れない。なぜぼたんは商店街を離れてこんなところに……?
団地内は入り組んでいる。路地を何度も曲がり、時には塀を乗り越え、走り続ける。ぼたんに導かれるようにして辿り着いたのは、がらんとした再開発地帯だった。空き工場が乱立しており、人気が全くない。ぼたんがそんな空き工場のひとつに窓から入っていく。
「ぼた~ん! おいしいものあげるから待ってく……」
窓をさっと飛び越え工場に入ると、まず感じたのは強烈なシンナー臭。続いて鉄の臭いが主張を始めてきた。
目が暗い工場内に慣れてきた。そこにはおびただしい数の猫の死体が散乱しており、血で丸や四角が組み合わせられた図形が描かれている――その中心には黒いカッパを来た子供が立っていた。右手にはナイフ。左手にはぼたんの死体が握られていた。
「君は……?」
目を凝らすが子供の顔は暗すぎて見えない。シンナーにあてられたのか、視界が急激に歪み立っていられなくなる。まばたきした次の瞬間には子供が俺にぶつかってきて――俺の腹にナイフが突き立てられていた。
意識が下へ、下へと落ちていく――最後に感じたのは、せっかく場所を教えてくれたぼたんに報うことができなかった悔しさだった。
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