10月9日 塩豚のレモンクリームパスタ、ジャンボ黒豚焼売

 連休最終日も、鈍色の空。

 低く、重く、たちこめる厚い雲。これが山陰のデフォルト、基本の形。

 目覚めても頭はぼんやりしている。それでも今日は、土日休みの出雲のパン屋が祝日だけれども開くというので、そこを目指そうと決めていたのだ。

 だがしかし、またしても、島根の臨時休業癖にやられてしまった。何故。どうして。せめて何かウェブ上に告知を出してくれ。片道一時間はかかるのに。

 悲しみと空腹にくずおれそうになるが、なんとか次の目的地を探す。幸い、どこもまだランチタイムは終わっていないはずの時間である。

 今回「興味のある店リスト」から選んだのは、『高濱タカハマ庭園ガーデン』。出雲大社のほど近く、その路地裏にひっそりと建つ古びた洋館・旧高濱邸をリノベーションしたカフェである。大正時代に建てられたという建物はなかなか個性的で、レトロモダンなアーチ型の玄関をくぐれば、床は板張りだが落ち着いた日本家屋の造り。鴨居の上には奥の透ける欄間。縁側の窓からは、鯉の泳ぐ池もある小さな日本庭園が覗く。

 連休の出雲大社は結構な賑わいだったが、待たずに席へ座ることができた。評判のパスタランチセットをいただく。九種類のメニューから、「塩豚のレモンクリームソース」を選んだ。

 先にセットのサラダがやってきた。夫と合わせて二人前のサラダが大皿に盛られ、葉物やキュウリの他に、ビーツやフェタチーズ、キウイフルーツが入っている。凝ったバランスのサラダだが、シンプルなフレンチドレッシングも含めて美味しい。

 サラダを食べながら待つことしばし、パスタも到着。スパゲッティは完璧なアルデンテで食感が良く、レモンが爽やかに香るクリームソースもよく絡む。塩豚とは、おそらくパンチェッタなのだろう。豚の脂は甘く、肉に染み込んだ塩気とたっぷりの旨味が、まろやかなレモンクリームと合わさって実に美味しい。食べ応えがしっかりとありつつ、重くない。こういう洗練された美味しいパスタを食べるのは久しぶりで、少し感動してしまった。

 提供までの時間は長めだが居心地も良く、ゆったりと空間を楽しむカフェでもあるのだと思う。良い店だった。


 夕飯には、テイクアウト専門店の餃子と焼売を買ってみた。ここ数年で随分数の増えている、無人販売所のようなスタイルの店である。「ような」というのは、今回立ち寄った店は完全な無人というわけではなく、店員は基本的に裏で作業しているので料金は料金箱へ各自入れる、というスタイルなのである。このシステムが成り立つのだから、この国もまだ捨てたものではない、と思ったり思わなかったり。

 餃子は久しぶりだったが、なかなか上手く焼けた。少し羽根ができるくらいこんがりとして、フライパンにくっつくこともなく。しかし数個くっつけて焼くものだから、結局食べるときに皮が破れてしまうのだが。未だに餃子の焼き方の正解がわからない。

 餃子の味にはいくつか種類があり、今回は「プレーン」と「しょうが」にしてみた。カリッともちっとした皮は良いが、中の餡に関しては至って普通であった。普通に美味しく、悪いところもないので、普通に二人で40個平らげでしまった。

 その一方、なんとなくついでに買った「ジャンボ黒豚焼売」が、やたら美味しかった。女性の拳ほどあろうかという大きな焼売で、ミンチはとろりと柔らかく、驚くほどジューシー。レンジではなく、鍋と皿を使って蒸したのも良かったのかもしれない。黒豚らしい濃い旨味がぎゅっと詰まっていて、何もつけなくても美味しいし、醤油をつけるとご飯が止まらなくなる。

 おそらく、この焼売はまた買うだろうと思う。


 外に出るには長袖を着て、エアコンをつけることもなくなった。連休も終わりである。十月はなんだか、過ぎていくのが早い。

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