6月22日 すた丼リスペクト丼

 今日も今日とて曇天。

 しかし昼間、うっすら陽が射してくるとトンビの鳴く声が聞こえてきた。窓の外を見なければ、青く澄んだ空に翼の影が目に浮かぶような響き。

 まぁこれで、どれだけ山の近くに住んでいるかが伝わるだろうと思う。


 昨夜の温泉のおかげで、肌の調子はすこぶる良い。手足がすべすべとしている。「美肌県」として売り出そうとするだけはある。しかし問題は、温泉のほとんどがアクセス最悪の場所にあり、周辺には温泉以外に何も無いことである。いやはや。


 さて、今日は流石に夕飯を作る。作ろうとは思っている。しかしスーパーのチラシをいくら眺めても、何も思いつかなかった。レシピのストックを眺めても、どうもピンとこない。

 そんな時に、夫が早めに帰ってくるという。ではついでに、と一緒に買い物へ行くことにした。

 車を出してもらったので、買い周りは大変スムーズである。魚やら肉やらとにらめっこしている内に、夫がふと、「すた丼食べたい」と言い出した。突然何を、と顔を上げてみると、夫の視線の先には「すた丼のタレ」が陳列されていたのだった。

『伝説のすた丼屋』、ご存知だろうか。“秘伝のニンニク醤油ダレ”を絡めて炒めた豚バラ肉をご飯に盛った“すた丼”を主力商品とする多摩発祥のチェーン店で、東京では見慣れた名前である。ちょっと調べてみると、ここ数年は最多出店数を更新しているらしく、アメリカや香港にも店舗があるという。

 だが、当然のように、山陰には店舗が無い。

 いや山陰どころか、中四国地方は一店舗も存在しないし、九州で店舗があるのは福岡のみである。沖縄にはあるらしい。これでよくもまぁ「北は北海道、南は九州まで」などと言えたものである。

 別に、すた丼には何の思い入れも無い。無いがしかし、それはあんまりじゃないか、とは思うのだ。そもそもすた丼にはネギが入っているから、私自身は一度しか行ったことがない。(ネギ抜きができる店舗だった)

 けれども夫にとっては、学生時代によく食べた思い出の味らしい。それならば、と、今日はすた丼を作ることにした。ネギ抜きで。ちょうど豚バラも安くなっていたし、三軒目のスーパーでは豚トロが見切り品になっていたので、ついでに足してしまう。


 暑いので汁物は無し。たくあんの代わりでは無いが、たたきキュウリと、小松菜の味噌マヨ和えを副菜にして、いざ“すた丼”である。

 どうやらすた丼屋の店舗では、肉を油通ししているらしい。それは流石に後処理が面倒なので、さっと湯掻いてから、フライパンで炒めていく。市販のすた丼タレと炒め合わせれば肉は完成。タレに火が入った瞬間、ぶわっと広がる猛烈なニンニク醤油臭に思わず笑ってしまった。

 丼にごはんを盛り、海苔を散らし、肉を載せて、中央に温泉卵を落とせば、出来上がり。

 これはなかなか、ガツンとくる。ニンニク醤油ダレは結構な塩辛さで、ごはんが進む味ではある。卵を崩すとずいぶん食べやすくなって良い。海苔の風味もよく合う。薄切りの豚バラも良いが、豚トロのぷりっとした食感と旨味たっぷりの脂がまたうまい。はちゃめちゃにジャンクな美味しさである。

 はっきり言って、私の『すた丼屋』の記憶はほとんど無いので、夫に「これはどれくらいの再現度なのか?」と尋ねてみたところ、このような回答だった。

「タレはめっちゃ近い。肉がもうちょっとあっさりしてるかも。あとやっぱりネギがね」

 おそらく豚トロの脂が多かったのだろうと思う。再現度は低くなったが美味しかったので、これはこれとして、次回またリベンジしてみよう。タレはまだもう一回分はある。ネギは諦めてもらうほか無いのだが。


 すた丼のような丼を食べながら、ついレモンサワーなど飲んでしまった。なんとかここまで日記を書いたがどうなっていることやら。

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