5月10日 ブラック和え麺

 もうしばらく、小説を書けない日が続いている。

 なんだかどうも、空っぽなのだ。

 何かを書きたい気はするのに、書きたいものがわからない。フラストレーションははち切れんばかりにあるけれど、無力感がやんわりと包んでうやむやにしてしまう。私は、枯れかけているのかもしれない。

 本を読んだり映画を観たりしても、言葉や思考が指の間をすり抜けてしまって、うまく掴めない。好きなものすらわからなくなってきている。からだを丸めて動かないダンゴムシと今の私に、もはやさしたる違いは無い。

 日記はこうして、いくらでも書けるのに。


 駄目なときは何をしたって駄目なのだ。

 今日の夕飯はミールキットで、『一風堂』監修の「ブラック和え麺」である。正直言って、名前だけでは何者かわからない料理である。しかし、『一風堂』の名前が懐かしくて、材料と調理法を見たらなんとなく美味しそうに見えたので、やってみることにしたのだった。店では味わえない、ミールキットのオリジナルレシピなのも良い。

 玉ねぎとネギのみじん切りは面倒なのでブレンダーのチョッパーに任せ、ごま油で先によく炒めてから挽き肉と炒め、合わせ調味料を混ぜ合わせて肉味噌にする。この肉味噌をつくるときに、コンロの奥へ飛び散った具を拾おうとして、フライパンの縁で手首をジュッと火傷した。馬鹿である。勿体無い、という意識が強く働いてしまったのだと思う。愚かな上にセコい。自己嫌悪が加速する始末。

 一風堂の特製ダレは黒くねっとりとして、なんだか不思議な見た目をしている。さっと茹でた細麺とタレ、黒香油とやらを和えると、さながらイカ墨パスタのような色合いになる。ここへ作っておいた肉味噌と、ベビーリーフ、ミニトマト、(夫の分にだけ)白髪ネギを乗せれば完成である。

 全体をよく混ぜてから食べてみると、パンチのある旨辛感に驚く。黒練りごまの風味が濃厚なタレにスパイシーな香油、旨味たっぷりの肉味噌が一体になり、なかなかクセになる。一風堂らしい細麺の食感も懐かしく、素晴らしい。生野菜がタレの強さを適度に和らげてくれるのでとても食べ進めやすい。「お好みで黒胡椒を」との記載もあったので、カンボジアの胡椒もかけてみる。香りと辛さが重層的になり、これも大変良い。流石、一風堂と思う和え麺だった。

 勿論、山陰に一風堂は存在しない。


 最終的に美味しくできたので良かったとはいえ、手首の小さな火傷がヒリヒリと痛む。私はまたダンゴムシになろう。それがお似合いなのだ。

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