4月27日 ホワイトアスパラガスのソテー、鱈のボルドレーズ

 本日は腹立たしくなるような晴天。

 暑い、ではなく暖かい、という日で良かった。買い物日和である。


 ときどき不定期にやってくるのだが、「今日は絶対にこれを作って食べるんだい!」という日がある。普段から料理動画やらレシピサイトやらで、美味しそうなものをストックしているのだが、その中の特定のものが急に作りたくなるのである。私はなんとなくそれを「興が乗った日」と読んでいる。今日がそれだった。


 最初に決まったのは、「ホワイトアスパラガスのソテー」である。

 東京にいた頃、誕生日ディナーで行ったとあるフレンチにて、そこのスペシャリテだったホワイトアスパラガスがすこぶる美味しかったのを強く覚えていた。以来、あの味に届くわけも無いが、ホワイトアスパラを調理してみたいという欲はずっとあったのだ。

 しかし、生のホワイトアスパラガスが売られている場面を、私は見たことがなかった。あらゆるものが揃う東京であっても、瓶詰めか缶詰めばかり。あれらは保存には良いが、どうしても独特の匂いがある。件のフレンチも旬の時期に輸入していると言っていた。

 やはり家では無理なのか……そう思っていたのだが。

 島根県出雲市ではホワイトアスパラガスを栽培しているのだという。まだほとんど知られていないと思うが。広報が下手過ぎるのではないだろうか。もっと頑張れ。

 それを知って以来スーパーを探していたのだが、これがなかなか見つからない。これだから○○(最寄りスーパー名)は!とまた悪態をつく日々が続いていた。

 そして先日。比較的最近できたスーパーに出雲産ホワイトアスパラガスが並んでいるのを、ついに発見したのだった。

 私は内心小躍りしながら、その白肌を見つめていた。お前を美味しいソテーにしてやるから待っていなさい。ちゃんとそれに合う料理も考えておくから、と。


 機は熟した。

 本日の表向きのメインディッシュは、鱈のボルドレーズ。三國シェフのレシピである。

 ボルドレーズの名の通り、ボルドー地方の郷土料理だという。本来はエシャロットを使うが、みじん切りのタマネギで代用する。タマネギの気配が強いと食べられなくなるので、ニンニクと共に通常よりもよくよく炒めてから、白ワイン、パン粉とパセリ、レモン汁と合わせて香草パン粉をつくる。それを下味をつけた鱈の切り身が隠れるくらいたっぷりとかけて、オーブンで焼くだけ。


 鱈を焼いている間に、ブロッコリーを蒸し焼きにしつつ、ホワイトアスパラガスにとりかかる。

 たっぷりのバターの中に、さっと茹でたホワイトアスパラガスを入れ、ときどきコロコロと転がしながら焼き目をつけていく。泡立つバターがだんだんときつね色になったら火を止めて塩胡椒。仕上げにトリュフオイルをひとすじ垂らす。これだけなのだが、既にたまらなく美味しそうな匂い。


 オーブンとケトルを同時に使ってしまいブレーカーが落ちるアクシデントもあったが、今日はめげない。興が乗っているので。

 折角だから(ワインは悪酔いしてしまう性質のため)缶のワインソーダも開けてしまう。ただの木曜日なのにご馳走の雰囲気である。


 鱈のボルドレーズは、カリカリのパン粉の下でふっくらと焼き上がった鱈が実に美味しい。シンプルな味付けが鱈の味を引き立てている。白ワインの香りとレモンの酸味がさっぱりと効いたパン粉が、鱈の旨味もぎゅっと吸っていて、噛むほどに味わい深い。

 これに対する主食はやはりパンが良い。こんなこともあろうかと、冷凍のリュスティック(田舎風の小さなフランスパン)を買っておいたのだ。鱈を焼いた後に急いでこれもオーブンへ入れ、ふかふかもっちりと焼き立てのリュスティック。鱈との相性はもちろん、ホワイトアスパラガスの供としても素晴らしい。


 こんがりとソテーしたホワイトアスパラガス。グリーンアスパラのような青臭さの無い、素直な風味。焦がしバターの香ばしさとほどよい塩味が、ホワイトアスパラの穏やかな甘みと調和する。そこへふわりと鼻をぬけるトリュフの香り。これがまた最高に合うのだ。

 このホワイトアスパラのエキスの溶けた焦がしバターと、トリュフオイル。その混じり合ったソースをリュスティックに付ければいくらでも食べられてしまう。あまり行儀の良いことでは無いが、家なのだから自由だ。


 ほろ酔いで書いたためになかなか時間がかかってしまった。今夜は大満足である。


 明日はまた梅干しとの戦いが待っているのだが、今だけは忘れよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る