4月15日 えびめしと、ふわりーぬ

 休日だが早起きをして、名古屋へ向かう。

 今回は予算の都合により私一人で、電車移動である。


「特急やくも」に初めて乗った。

 山陰に新幹線は通っていない。「新幹線を通そう!」という運動はあるようだが、廃線寸前の木次線を抱えるJR西日本が、そんなことをするわけが無いのだ。そもそも、中心となる山陰本線の利用者もたかが知れているのだから。

 そのため、山陰から新幹線に乗ろうと思うと、岡山駅まで出る必要がある。そこで登場するのが「特急やくも」である。島根県の出雲と鳥取県の米子を結ぶ山陰本線から、岡山県の倉敷まで縦に伸びる伯備線を経由し、ようやく岡山駅まで辿り着く。ここまでで三時間ほど。

 初めて乗るものだから、指定席を取る際に色々調べたところ、通常は車内の一列左右に二席ずつ並んでいるのだが、窓際席が存在しない列があるのを知った。国鉄から引き継ぐ古い車両だからか、車内壁面をダクトが通る為だという。先達の助言に従い、前後に席が無い窓際席を取った。おかげで思いっきり足を伸ばせるし、誰に断りを入れる事も無く背もたれを限界まで倒した。実に広々である。

 だがこの後は、「ぐったりやくも」「はくも」などと言われるほどの揺れに耐えねばならない。伯備線の区間はカーブが多く、それを高速で走るために、遠心力で車体を傾ける「自然振り子方式」の車両なのだという。これが実際、はちゃめちゃに揺れる。縦にも横にも振り回されるし、もちろん窓は開かないし、窓の外は面白くもない田園風景。車内にちらほらエチケット袋をみかけるのも納得の道のりだった。帰りもこれに乗るのかと思うと気が重い。

 途中からは気絶するように寝たので、なんとか酔わずに降りることができた。少し頭がクラクラする。


 新幹線まで少し時間があるので、岡山駅で昼食をとることにする。といっても、乗車券の関係で改札の外に出られないのが大変残念である。

 改札内のカフェで「えびめし」とやらを食べてみた。岡山のB級グルメだというが……なんというか、妙な料理だった。ごはんと小エビはソースで炒められ真っ黒に染まり、彩りのつもりなのか、てっぺんに錦糸卵がちょろりと乗っている。カラメルソース、ケチャップ、スパイスを合わせたソースが味付けらしいのだが、ケチャップの気配はほぼ無く、カラメルの甘みやコクも感じられない。カレーピラフに近い気がする。小エビと錦糸卵は別に何にでも置き換えられそうである。むしろ肉の方が美味しいのではないか。この店が良くなかったのか、そもそもこういう料理なのか、私にはわからない。


 なんだかモヤっとしてしまったので、新幹線で珈琲を飲むことにする。ありがたいことに改札内にも大きめな土産物屋があり、そこでちょっとした菓子を売っていた。冷蔵ケースの中から私を見ているような気がした、「ふわりーぬ」という菓子、その期間限定の苺味を買った。車内販売がすぐ来るとは限らないので、セブンイレブンで100円の割には充分美味しいホットコーヒーを買い、無事乗車。

「ふわりーぬ」はもともと岡山の和菓子屋・敷島堂の菓子のようだが、私が今回買ったものは、JR西日本岡山支社が「ふるさとおこしプロジェクト」として共同開発した、地元食材とのコラボレーション商品だそうである。

 スポンジ生地にクリームが挟まれていて、生どら焼きのような見た目。しかしその生地は名前の通りにふわっと儚いほどに柔らかいスフレである。それに挟まれているのは、濃厚な蒜山ひるぜんジャージー牛乳を使ったクリームに、奥山いちご農園の苺を使ったコンフィチュールを合わせたもの。このコンフィチュールが、甘みを引き出したタイプと、香りと酸味を引き立たせたタイプの二種を使っていて、少し果肉も残り、甘酸っぱい生の苺感のある絶妙な仕上がり。

 本当は名古屋に着いてから喫茶店にでも入ろうかと思っていたのだが、思いがけず良いものを食べた。ある意味、えびめしのおかげである。


 それにしても、新幹線とは本当に揺れの少ない乗り物である。耳に閉塞感がある他は快適で、馬鹿みたいに揺れる「特急やくも」に乗った直後だと余計に、しみじみと思う。カーブの数の差が大きいとは思えど、しかし、あそこまで揺れる電車はそう無いのではないか。 


 さて、このあとはワイワイ肉を食べる予定なので、本日は早めに。

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