第14話 測れあなたの心の距離!神業測定士ハカリマ!8
戦いが完全に終わり、防衛都市ツキガキレーに静けさが戻った。
景色は一面のがれき。その中央で、バカップルはひたすらにイチャイチャした。
「あっ、コイチロー、こんな街のど真ん中で、そんな恥ずかしいよぉ……」
「はっはっは、どうして街の真ん中でイチャつくことに問題があるんだい? アイリ。
だってどこでイチャつこうと、僕らの愛は神々しすぎてどうせ誰も直視できないんだよ?」
「コイチローっ♡♡♡ そうだよねっわたしたちの愛はゴッドゴッダーゴッデストラブ! 誰も直視なんてできない禁断禁忌の愛だよねっ!」
「まぁ誰も直視はしたくねーだろうなぁ……人様のイチャイチャなんて……」
イチャイチャイチャイチャ。
二人のあまりのイチャつきっぷりに、あたりのがれきは赤面し、もじもじとして、やがて自分たちも愛を求め合った。
がれき同士が万有引力という引き合う孤独の力でハグをし、結びつき合い、積み上がり、街は元通りに再生していった。
元の景色より、やや桃色になってはいるが。
ツッコはひとまず、
「相変わらずムチャクチャだけど、街の人たちの生活はおびやかされずに済みそうだ。
で、暗黒幹部のハカリマは……」
ツッコが目を向けた先、往来のど真ん中で、ハカリマは全裸巻き尺の格好のままキラキラとポーズを決めていた。
「わたくしは愛の力で目が覚めました」
「目が覚めたっつーか、『目覚め』ちまってんじゃねーか」
ハカリマはイケオジフェイスをキリッと決めて、バカップルたちに視線を向けた。
「敗者として、あなた方や一般人にもう危害を加えないと約束しましょう。
しかしわたくしが一時的にでも自由恋愛禁止軍団に心を救われたのはひとつの事実、同胞の情報を売ったりなどはできないことをご了承いただけますかな」
「うん。僕もそこまでは求めてないよ」
コイチローはあっさりと言った。
ハカリマはふっと笑い、手を差し出した。
コイチローとハカリマは、ぐっと握手をした。
熱い男の友情が、そこにはあった。
アイリはそのかっこよさにときめいて、鼻血を噴いた。
コイチローはさわやかに振り向いて、ツッコに声をかけた。
「さぁツッコ! 平和的解決をしたことだし、先に進もうか!」
「俺これ平和的解決って言っていいのか自信がねーよ?」
ほんのり桃色の街並みと全裸巻き尺を尻目に、バカップルは西へ歩き出す。
ツッコも追いかけながら、つぶやいた。
「でも、ま……結果的に、誰も死んだりせず、暗黒幹部を改心すらさせた。
やっぱ本物だぜ、この二人は」
その背中を、全裸巻き尺のハカリマはじっと見送った。
「コイチロー、それにアイリ。自由恋愛を守らんとするバカップル。
わたくしの気は晴れましたが、これから自由恋愛禁止軍団の面々を相手に、どこまでそれができるのか。
その可能性は測りかねますが、もはやわたくしは敗北し退場した身。深入りはしますまい」
ハカリマもまた背を向け、歩き去った。
高笑いをひとつ残して。
「マーキジャクジャクジャク(笑い声)……マーキジャクジャクジャク(笑い声)……」
日が傾き、夕暮れ(本物)に染まる。
その中を、バカップルは手をつないで歩く。
そうしながらアイリは、空を見上げた。
(コイチローの……それともわたしたちの? 愛の力が人を救った。
わたしのコイチローが、わたしだけじゃない他の誰かの救いになる)
ふと、アイリは横を見た。
コイチローが、赤く染まる光の中で、やわらかに微笑んでいた。
「よそ見をする余裕はあるかい? 僕のアイリ」
顔を寄せ、髪にすりつく。
「夕日に嫉妬しそうだよ。きみの視線は、僕が真っ先に浴びたい。
きみの視線のシャワーを浴びて、すべての汚れを、きみのハグで拭き取ってきれいにするんだ」
「もうっ、コイチローったら♡」
すり寄る。すり寄る。
桃色オーラの甘いにおいが漂って、後ろを歩くツッコは砂糖を吐いた。物理的に。
この砂糖吐き効果が後々、この世界の食料危機を救うことになるのだが、それはまた、別の話。
バカップルは西へゆく。
自由恋愛禁止軍団の本拠地を目指して。
これからどんな戦いが待っているか、それは分からない。
けれどきっと、彼らなら大丈夫だ。
だって彼らは、バカップルなのだから!
◆
西の山脈。風雲・自由恋愛禁止城。
黒装束に黒ずきん、赤い一本角のちんちくりん幼女、暗黒の帝王、ウーマシーカー。
「ウーマシカシカシカ(笑い声)……神業測定士ハカリマであれば、異世界の救世主であれどコテンパンにやっつけているはずなのじゃ。
そうじゃろう執事のシッツージ!」
「報告しまシッツージ!
神業測定士ハカリマ、救世主に敗北! 自由恋愛禁止軍団を脱退し世のため人のために全裸巻き尺で働いていまシッツージ!」
「バカなーッ!?」
ウーマシーカーは、そして他の幹部たちも動揺した。
とりわけ動揺しているのは。
「そんな、ハカリマさんがぁ……負けただなんてぇ……」
ぼろきれをまとった二本角の幼女、デビル幼女ドエィム。
「このまま、救世主の人が、どんどん攻めてきたらぁ……そのうち、ウマちゃんに……」
ドエィムは、わたわたと取り乱すウーマシーカーの姿を見やった。
そしてドエィムは、おどおどとした目に、なけなしの闘志を宿した。
「ウマちゃんのためなら……ゴミクズみたいなあたしでも、頑張れる、からぁ……!」
他の幹部たちが話している中。
ドエィムは身をひるがえし、単身、城から旅立った。
――――――
・ラブバカ豆知識
これ以降、防衛都市ツキガキレーには新たな観光名所として、桃色の街並みとマキジャガレキドラゴンが加わった。
改心した神業測定士ハカリマは、この街で治安維持のため尽力する。
もし、あなたがこの街でもめごとを起こすようなことがあれば、知るだろう。
音もなく背後に立つ、全裸巻き尺イケオジの存在を。
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