第9話 測れあなたの心の距離!神業測定士ハカリマ!3

 コイチロー、アイリ、ツッコの三人は、カフェで昼食を摂ることにした。

 オープンテラスの四人がけ席に座って、街の活気をながめながらランチタイム。


「……で二人とも、恋愛禁止軍団の本拠地は西の果てだから、これからどんどん西を目指していくからな」


「その道中で、またこないだの筋肉の人みたいな幹部が襲ってくるかもしれないんだよね」


「わたし、またドラゴンの丸焼き食べたーい! おいしかった!」


「ナチュラルに野生のドラゴンを食材扱いしねーでほしいなー……あれ狩れるの本当はよっぽどの強者なんだぞ?」


 わいのわいの、コーラとアメリカンドッグ的なメニューをほおばり。


 そのテーブルの空席に。


「すみません。相席をよろしいですかな。他の席が空いておりませんで」


「あ、はい……」


 ツッコの返事を聞き届け、パリッとした服装と口ひげの似合うイケオジが、優雅な所作で座った。

 イケオジはウェイターにサラダを注文して、長い脚を組んだ。


「助かります。この国境の街では人種も思考もさまざまで、こうやって親切な人間にめぐり合えるのは時の運ですな」


 イケオジはにこやかに、コイチローとアイリに視線を向けた。


「ときにそちらのお二人も、顔立ちや骨格から察するに、外国人だとお見受けしますな」


「ええ、そんなところです」


 コイチローはにっこりと返した。

 イケオジは微笑みをたたえたまま、言葉を続けた。


「どちらのご出身なのか、とても興味がありますな。私の知る限り、この大陸のどの民族の特徴とも当てはまらない……」


 すうっと、イケオジの目が細められた。


「まるで、違う世界から来たような……」


 ツッコは、ぎくりとした。

 アイリは不安げな顔をして、コイチローに体を寄せ。

 コイチローはそのアイリの首に腕を回し、鎖骨をそっとなでながら(アイリの声「はぁっ……ん」)、イケオジに尋ねた。


「おじさん、恋人っていますか?」


「おまっ、コイチロー!?」


 唐突な質問に、ツッコは驚いた。

 イケオジは微笑みを絶やさないまま、首をかしげた。


「……いいえ。そして寡聞にして存じ上げないのですが、どこかの国や民族には、初対面の相手に恋人の有無を尋ねるのがマナーとされているところがあるのですかな?」


「いいえ? 僕の国でも、初対面での恋愛詮索はマナー違反でしたよ?」


 にっこりと、コイチローは答えて。


「そして、僕も寡聞にして存じ上げないんだけど。この国では、初対面の人間に巻き尺を巻きつけるのが、マナーとされているのかな?」


 ツッコははっとして見た。

 コイチローになでられて恍惚とするアイリ、その首すじ、コイチローの手にはばまれながら、巻き尺が締めつけようとしていた。


 コイチローとイケオジ。両者、鋭い目で見つめ合った。

 沈黙。そして。


 イケオジの組んでいた長い脚が、テーブルを高く蹴り上げた。

 舞い上がるテーブルと料理、どよめく周囲の客、そのさなかイケオジは巻き尺をムチのように振るい、コイチローを襲う。

 コイチローはアイリを優しく押して遠ざけると、華麗にポーズを決め、迫る巻き尺を、よける、よける、よける!

 ツッコはそれを見て分析!


「あ、あれは! コイチローはよけているわけじゃねぇ、『ただかっこいいポーズをしているだけ』だ!

 そのポーズのかっこよさにアイリが興奮! 目がハートになって鼻からは鼻血が放出!

 そのハートビームと鼻血水流がコイチローを押して推進力となり、結果として回避行動になっている!

 その回避のかっこよさにアイリはますます興奮し、ハートビームと鼻血がさらに出血大サービス! 回避はさらに加速し華麗さが上昇してさらに興奮! 永久加速を続けるラブラブ無限回避コンボが発生している!」


「解説ありがとうツッコ! そして!」


 桃色のオーラをほとばしらせたコイチローが、イケオジに向けて加速! かっこいいポーズタックルをしかける!

 イケオジは背後に巻き尺を巻きつけ、巻き取りボタンを押し回避! カフェの入り口そば!

 カフェから出てきて状況をつかめないウェイターからサラダを受け取ると、蹴り上げたテーブルがすぐそばに落下してきて、イケオジはそこに座り、サラダに岩塩とオリーブオイルをかけた。


「名乗りが遅れましたな。わたくしは神業測定士、ハカリマ・クルゾと申します。

 大義ある目的を持って活動する、自由恋愛絶対禁止暗黒幹部の一人でございます」


 そしてイケオジことハカリマは、冷たい目を向けた。


「そちらのお名前もうかがっても、よろしいですかな?」


 視線の先、コイチローは静かにたたずみ。

 アイリから浴びせられた鼻血が、ぽたりぽたりと指先から落ちていた。

 やがてその指先を持ち上げ、ぺろりと舌でなめ取って、言った。


「コイチロー。バカップルの彼氏の方。

 そして彼女はアイリ、バカップルの彼女の方だよ」


 冷ややかな視線を、ハカリマに返し。


「ちょっとした頼まれごとで、きみたちの野望を食らい潰さんとする者だ」


 アイリがまた、鼻血を噴いた。


――――――


・ラブバカ豆知識


アイシテルノサ大陸に住む種族のひとつセクシー族は、恵まれた美しい肉体が特徴。

一例を挙げると、バカップルたちが最初に戦ったマッチョマジシャンのマッチョーネ・キンニクールがセクシー族である。

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