第83話 青春体育祭#4
やっとのことでクラス応援席に戻ってきた。
別に誰かに邪魔されたというわけじゃないが、出来事が出来事だっただけに周囲からの目線が飛んでも無かったのだ。
通りすがりの顔も知らぬ誰かがこっちを見ながら、何かを言う始末。
別に言われることに関しちゃ慣れてるんだが、永久先輩が絡んでくると多少メンタルが弱くなるな。
誰かを巻き込むことはもう嫌なんだ。
「ハァ、これはしくじったな......」
ため息を吐く俺に大地とゲンキングがすかざす近づいてきた。
最初に口を開いたのは大地だ。
「お前、随分と大胆な行動をするな。正直、俺でもあれはかなり渋るぞ」
「自分でもそう思うよ。行動力が増えたのは良いことだけど、思考が狭くなったのはいただけなかった」
俺の言葉に大地が首を傾げる。
まぁ、さすがに大地にはわからないだろうな。
なんせこれは俺の個人的な思考回路なんだから。
なんかいっそのことバカみたいに自信満々で行動した方が良かったかも。
中途半端にバカになるから後悔が残るんだよ、俺。
「拓ちゃん、あの先輩を選んだって......そういうことなの?」
「そういうこととは? よくわからないけど、指示書に『恋人と一緒にゴール』ってあったから永久先輩を選んだだけだよ」
「そうなんだ......」
ゲンキングがホッとした顔をしている。
なんで彼女がそんな顔をしているのか疑問を感じていると、空太と隼人が近づいてきた。
空太は相変わらずだが、隼人がどこか元気のない顔をしていた。
「隼人、どうやらお前が教えてくれた方法は対策されてたみたいだ。
手痛いしっぺ返しをくらった気分だよ」
「......そいつは悪かった」
隼人はそれだけ言うと、その場から一人離れていく。
なんだ? トイレか?
俺が隼人の小さいように感じる背中を見つめていると、空太が声をかけてくる。
「そういや、拓海はこのまま午前最後の競技に出るんだろ」
「そうだな。確かこの競技には大地も出るんだろ?」
「そうだな。つーか、俺の場合は部活で全員強制参加って感じだったからの参加だけど。
とはいえ、拓海がここでやるなら白黒ハッキリ勝負をつけられそうだな」
「あぁ、決着つけようぜ」
俺と大地は拳を突き合わせた。
基本的に個人競技はこの午前中に集中していて、午後はリレーなどの盛り上がる団体競技というプログラム構成だ。
故に、この競技の結果次第で俺達の中で勝者が決まる。
「そういや、ちなみに今の順位ってどうなってる?」
集計係をしてくれているゲンキングに聞いてみた。
彼女は「ちょっと待ってて」と言うと、先ほど応援していた場所からメモ帳を取って戻ってきた。
「えーっと、現在の得点率が隼人君が1位、2位、1位の得点数4で、大地君が2位、1位の得点数3、空太君が3位、2位、2位の得点数7、拓ちゃんが2位、3位で得点数5だね」
「げっ、俺と拓海ってこの時点で優勝ねぇじゃん」
「いや、大地はまだ1位タイがあるだろ。俺なんてチャンスすらもらえねぇぞ」
「待て、それよりも俺がビリ確定みたいな方がヤバいだろ」
でもまぁ、空太は普通に好成績の方なんだよな。
身体能力お化けの大地と隼人がいるから劣っているように見えてるけど。
それに次の結果如何では俺の方がビリになるし。
つーか、俺、次の競技で2位取らなきゃビリってマ!?
俺がビリに冷や冷やしていると、隣の大地がすでにやる気を失っていた。
まるで脱力したようにふにゃふにゃだ。
もともと部活のメンバーのノリみたいな参加だったのに、優勝の勝ち目もなけりゃそりゃやる気も出んわな。
「大地、俺と勝負しないか?」
「ん? どうした急に?」
「次の勝者がやっちゃん亭のラーメンを驕る」
「っ!?」
案の定、大地が食いついた。
というのも、そこのラーメンは所謂二郎系、それもデフォで具材盛り盛りなのだ。
そこにさらに甘美なるスパイスを一つまみ。
「なんと今ならサイドメニューも奢ってやろう」
大地の姿勢がみるみる良くなっていく。
「いいのか? 吐いたツバは呑み込めねぇぞ」
「いいぜ。男に二言はねぇ」
俺と大地はバチバチの視線をぶつけ合うと、互いに握手した。
その光景を羨ましそうに見る空太と、男子小学生のように展開に興奮するゲンキングを横に感じながら。
―――数分後
『さて、続きましては午前中最後のプログラム。
男達が己の鍛え上げた筋肉でもって、耐えて耐えて耐えて耐えて一番の我慢男を決める競技!
その名も――力こそパワー!
今宵も己の筋肉を掲げて集った男子達がグラウンドの中央に集まります!』
実行委員会のスタッフに誘導されながら俺と大地は入場していく。
参加者が均等な距離感で配置されれば、目の前にある俵を見た。
『それでは、ルール説明をしていきましょう!
参加者にはこれから重さ20キロの俵を頭上に掲げてもらいます!
この俵に関しては頭を支えの一つに使ってもらって構いません!
ただし、俵は両手で持つことが条件です!
また、この競技は盛り上がりますが、絵面が非常に地味ですので、1分ごとに錘が追加されていきます!
錘は1分経過すれば1キロ、2分経過すると2キロの錘を左右の腕にスタッフがかけていきます!』
鬼かこの競技!?
俵を担いで誰がずっと持ち続けられるかは聞いてたけど、それは聞いてねぇって!
先輩、知ってるはずなのになんでそこ教えてくれなかったの!?
って、あの人この競技全然興味ねぇんだった。そりゃ知らねぇわ。
『つまり、腕に負荷がどんどんかかっていく中でどれだけ耐えれるからこの勝負!
男の意地とプライドと我慢強さが試されます!
今回のこの戦い、ハナさんはどう見ますか?』
『そうですね~、やはり体力がある運動部には有利でしょう。
加えて、柔道やラグビーなどの肉体を伴った激しい接触のあるスポーツの人は尚のこと』
『確かに、運動部が有利というのは考えられますね。
ゲストの久川さんはどう思われますか?』
『そうですね、年末に私もついついSASU〇Eを見てしまうように、やはり男らしいというのは一種のステータスなのでしょうね。
ですから、私はこの勝負(拓海君が活躍する姿を)見届けます』
『素敵な言葉ありがとうございます。世の男子達もやる気が漲ったことでしょう。
白樺さんはどう思われますか?』
『そうね、“耐える”ってのがコンセプトなら、この参加者は全員マゾの適正があるということなのでしょうね』
『四人目に相応しいオチをつけてくれました!
ちなみに、これは一個人の意見ですので、深くお気に留めないように!
それでは、準備ができ次第スタートしますので、今しばらくお待ちください!』
元の調子に戻ったのなら、いいんだけどさ。
*****
―――グラウンド外周
隼人はポケットに手を突っ込みながら歩いていた。
向かっている場所は野外トイレのある場所だが、ぼんやり俯く彼からはとてもこれからそこに向かうような意志は感じられない。
「ハァ~イ、元気してる?」
その時、隼人の前に一人の女性が立った。
体育祭は基本保護者も応援として参加できるが、その中でもそのフワッとしたボブの髪型をした女性はかなり目立つ格好をしていた。
ブランドものであろう黒いブーツに、黒い革製のワンピース、明らかな富裕層を思わせるファー付きの革ジャケットを肩にかけて。
加えて、数人のボディーガードを後ろに控えさせていた。
その声に隼人はピタッと止まる。
目線を下に向けたまま、眉を寄せていった。
顔をゆっくりあげれば、苛ついた声で言った。
「こんな場所になんのようだ――姉貴?」
隼人の目の前の女性――金城成美はかけていたサングラスをグローブのついた手で上げる。
「青春してるかなって思って見に来ちゃった☆」
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