第3話 ライザの悩み


僕には最近、小さな悩みがある。

それは、

「今日も推しカプのビジュがいい!!ありがとうございます!」

幼馴染との時間をある令嬢に付け回されていることだ。


_______


ことの始まりは学園に入学してすぐのことだと思う。

友人たちと昼食をとっていた時、普段は貴族御用達のサロンにいるのか食堂では見かけないランマント侯爵令嬢が僕を目掛けて一直線に歩いてきた。


「あなた、ローメル商会のライザ様でよろしかったかしら?」

「は、はい。そうですが…。」


「あなた!どうしてミモたんが!…ミモザさんが!学園にいらっしゃらないの!?」

どこにそんな力があるんだと思うほどに肩をつかまれ、ガクガクと揺さぶられる。

今…なにが起きているんだ…?


「あ、あの、ランマント侯爵令嬢。」

「…はっ!失礼いたしましたわ!ごめんあそばせ!」


逃げるように去っていった。本当になんだったんだろう。

僕自身は家が商会であるため、社会勉強の為、貴族の方とも縁継になれたらと学園に入学したがミモザは読み書きや計算などは家族から教えられている。

それにそもそも、侯爵令嬢ともあろうお方がなぜ僕のことはまだしも一平民であるミモザのことを知っていたんだろう。そんなことを考えながらまた友人との輪にもどった。


それから声をかけられることはなかったが、なんとなく視線を感じる日々だった。



__________



しばらくたったある日、学園が休みなこともあり下町をぶらぶらと歩いていたらミモザがどこか唖然とした顔で立っているのが見えた。


「おーい、ミモザどうしたんだ?そんなところでボーっとして」


話を聞いたところ、お忍びのような恰好をした貴族風の女性に声を掛けられ、なぜ学園にいないのか男爵の隠し子ではなかったのかなどと言われたらしい。

確かにミモザは伯父であるエントーリ男爵とも似ている。が、その”おとめげーむ”?っていうのはよくわからない。僕の家でもそのようなものは取り扱っていないし聞いたこともない。

ただ、話の内容には心当たりがあった。


「ランマント侯爵令嬢かな…。」


学園での出来事を話す。

ミモザもよくわからないが、お貴族様のお遊びだと解釈したようだった。


しかし、それから事あるごとに僕とミモザのデートにランマント侯爵令嬢が現れるようになってしまった。

ある日は下町で買い物をしていたら

「ミモたんの笑顔かわいい…尊い…。」

と聞こえ振り返ればランマント侯爵令嬢。

またある日はカフェでランチを食べていれば


「推しカプと同じ世界線で同じ空気、同じご飯を食べられるほどわたくし、徳を積んだかしら」


と泣きながら僕たちと同じメニューを食べるランマント侯爵令嬢。


今日に至っては本屋で一緒に本を探していたところ

先程の

「今日も推しカプのビジュがいい!!ありがとうございます!」

である。なぜか僕たちもランマント侯爵令嬢と一緒に店を出されてしまった。

いくら僕らは平民で相手は侯爵令嬢とはいえそろそろ怒ってもいいだろうか。

そんなことを考えながらため息をついた。


「はぁ…。」

「ライザ、大丈夫?」

「大丈夫。最近満足に二人で出掛けることができなくてごめんね、ミモザ。」

「いいよ。これはこれで楽しいし。ライザとだったら散歩だろうと特別なことに思えるから。」


そういって笑うミモザは今日も

「かわいい!!」

またなのか…。


「ランマント侯爵令嬢、よろしいでしょうか。」

「はっ!ライザさん。ごきげんよう。こんな場所でお会いするなんて奇遇ですわね。」


気が付いていないとでも思っているのだろうか。


「あのですね、非常に申し上げにくいのですが、毎度毎度僕たちと同じ場所でなにをしているんですか。」

「はっ、なっ、偶然ですわ!学園で二人を拝めないからってつけているわけでも、毎日二人のやり取りを妄想して薄い本なんて書いてませんわ!…はっ!なんでもありませんわごめんあそばせ!」


また走り去ってしまった。


「ランマント侯爵令嬢様って面白い人だね。最初は伯父様の隠し子だとか言われてびっくりしたけど、私たちに何かしてくるわけでもないし、いいんじゃない?」

「今日は店から追い出されたけどね。」

「確かに!それはそうだね!」


そういってけらけらと笑うミモザ。

確かに特別嫌な思いもしていないしミモザが楽しそうだからいいか。

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