第6話
ボロボロの家にその男は寝ていた。
彼の名前は"小黒将士" 34歳。
義勇兵として各地を点々とし、現在は紛争地帯での仕事だ。
彼は誰かの役に立ちたかった。
日本にいた10代の頃、やさぐれていた彼はことあるごとに人に迷惑をかけていた。
人の気持ちなんて関係ない、自分が楽しいかどうかが彼にとっての行動の指針であった。
そんな彼にも転機が訪れた。
家を追い出されたのだ。
その後路頭に迷い、『ああ、もう死ぬ』そんな風に思っていたときに見ず知らずのおばあちゃんに助けられた。
誰かも知らない若造に飯を食わせ、しばらくの間彼を住まわせた。
「どうして、見ず知らずの俺にここまで?」
「困っている人を見たらどんな人でも助けることは当たり前のことですよ。なーんも不思議なことじゃない」
さも当たり前のように言う彼女に感化され、彼は人の役に立ちたいと思った。
勿論これで過去のことが許されるわけでもないし、義勇兵は敵の命を殺すことだ。決して誉められることではない。
それでもとにかく周りの人の役に立ちたかった。
あのおばあちゃんのようになりたかった。
それが当然のように人助けが出来ない彼なりの精一杯の人助けだった。昨日までは心からそう思っていた。
そう昨日までは……
目を覚ますと見知らぬ場所にいた。
いやと言うより見知らぬ国にいたと言う方が正しい。
彼は辺りを見回し、今の状況を探っていた。
銃をもち、厳戒態勢を敷いていることを確認すると紛争地であることを理解した。
昨日までの人助けをしたかった"小黒"は死に、今の彼は殺人を楽しむ "田中" だった。
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