第9話 魔法の持つ力
生まれて初めて魔法を使った日の夜。
イブリットは興奮して寝付けなかった。
ベッドで寝ていても、気になるのは机の上に置かれた花瓶。そこには、初めての魔法でふたつに増えた花が生けられている。
手の平に収まるサイズの小さな成果――だが、これまで魔法とは無縁だったイブリットにとっては、大きいな一歩だった。
全身全霊をかけ、これまで培ったすべてを込めた渾身の魔法が思っていた以上の成果をあげられず、最初は落胆したイブリットであったが、ミアンから褒められたことで考えを改めるようになる。
自分が理想とする魔法を習得したいがゆえに、イブリットの目標はかなり高めに設定されていたが、これまでの経緯を考えたらまずは「成果が出た」という部分を喜ばなければいけなかったのだ。
――それでも、やはりまだまだだと思っている。
「早く明日が来ないかな……」
もっともっと勉強して、修行して、効果絶大のレトロ魔法を自由に扱えるようになりたい。
やってみたいことが次から次へと浮かんできてしまい、結局その日の夜はあまり寝られなかった。
◇◇◇
翌朝。
「イブリットお嬢様! 朝ですよ!」
突然聞こえてきたタニアの大声に驚き、イブリットは飛び跳ねながら起床。
「ちょ、ちょっと、声が大きいわよ。ビックリするじゃない……」
「何度呼んでも起きなかったので強硬策に出ました」
「えっ? そ、そうなの?」
「まあ、きっと興奮して寝られなかったのでしょうが」
「うっ……」
図星だった。
イブリットが何も言い返してこないことで、自分の予想が当たっていたと確信したタニアはなぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべ、「朝食ができていますよ」とだけ言い残して部屋をあとにする。
「くっ……腹の立つ顔を……」
とはいうものの、ほとんど彼女の予想通りなのだから何も言い返せない。
気を取り直し、着替えなど諸々の準備を終えて食卓へ。
すると、
「おはよう」
なぜかそこにはレジーヌの姿があった。
「あら、レジーヌ? 今日はやけに早いじゃない」
「昨日はあのままミアンさんの家に泊まっていったから」
「へっ? そうだったの?」
「うん。でも、あの人は昼まで起きないから、こっちで朝食をとろうと思って」
「うちは食堂じゃないんだけど? ……まっ、いいけどね」
呆れたように言いつつ、本心ではにぎやかになりそうでちょっと嬉しいイブリット。
その後、タニアも揃って一緒に食事をするが、その際、
「ちょっといい?」
パンをかじりながら、レジーヌがゆっくりと手を挙げる。
「何?」
「ちょっと提案したいことがある」
「提案?」
レジーヌがそんなことを言うのは初めてだったので、イブリットは関心を持った。
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