――――― 欠片<カケラ> ―――――

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 少年は足元に蹲る生き物を見降ろし、悲し気なため息を落とす。

 

 丸みを帯びた体、美しい毛並み、愛らしい口元、意志の強そうな瞳。

 全てにおいて生命力の塊だった。

 なのに、2年も経たぬうちにあの頃の面影はどこかへ消え失せた。


 骨の浮き出た体、バサバサの毛並み、半開きの口元。

 少年を見上げる瞳に、もう光はない。


 この子はもうすぐ死ぬのだろうか……。

 

 少年は手元に食べ物を乗せて、口元に運んでやる。

 ウサギはほんの少し鼻をひくつかせるが、すぐに興味を失ったように瞳を閉じた。


 あれだけ欲しかった真っ白のウサギ。

 その命は目の前でこと切れようとしていた


 何がだめだったのだろう。

 もっと外へ出してやればよかったのだろうか。

 もっと頻繁に餌を与えればよかったのだろうか。

 

 いろいろ考えてみるが、答えは出ない。


 少年の瞳から零れ落ちた涙が、ウサギの瞳にぽたりと落ちる。

 しかし、ウサギは反応を示さない。

 光を失った半開きの瞳は、くすんだビー玉のような色をして虚空を見つめていた。

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