第75話 75

75


鈴木屋宛てに占いサミットへの参加の是非を問うメールが届いた。


「安藤さん占いサミットって何?」


俺は安藤さんへ問う。なんでも安藤さん任せは申し訳ないが。


「ちょっと待って今調べているから…あったよ。毎年開催されている占いを集めたイベントみたいね。出場資格は占い事業をしている事が条件みたいね。午前、午後、一日の3パターンで出場が可能で、参加費は無料となっているわ」


「えっ!?無料なの?」


「無料だけど当然条件があるわ。売り上げに応じて主催者への支払いが義務付けられているわね」


「まあ、当然と言えば当然か。それで場所は東京?」


「ええ、東京のホールで行われるわ。入場料は千円だけど出場者は当然無料で、その日の入場パスが貰えると書いてあるわ」


「なんか面白そうだね。儲かるとかは別として出場してみない?」


「うん、私も賛成。他にどんな占いがあるか見て見たいし、私も占い好きだから占って貰おうかな」


安藤さんも乗り気になったので俺達は占いサミットに参加する事にした。

そして出場は午前に決まった。やはり一番人気は一日で次が午後となっていた。客足から考えると妥当かなと思った。


-


占いサミット当日、俺達は大きなホールへとやってきた。

いろんな所にいろんな占いのブースがあり、占いの形式も様々で見た事のないような占いも多数あった。

俺達は早速受付カウンターに行き、出席確認とブースの位置の確認を行った。

場所はホールの端の方だが俺達は文句を言う事なくブースへと向かった。

この場所は毎年参加していると段々と中央に寄って行く物らしい。俺達は初めてなので一番端って事だ。

中央だからと言って客足が伸びるとは限らないが、場所が有利に働く事は確かだ。


俺達は自分達のブースに着き備品を確認する。

今回頼んだのは机が2つと椅子が4脚のみだ。この備品も一定数は無料だが、それ以外は有料となる為最低限とした。

そして会場が開き占いサミットが開幕した。


扉が開くと大勢の客がなだれ込んで来た。

俺達はホールに来た時に外にたくさんのお客さんが並んでいたのを知っていたのでそこまで驚きはしなかったが、占いはそこまで人気がある出し物なのかと少し不思議に思った。どうも中央の舞台でイベントが行われるのでそれ目当ての客も多い事が分かった。俺も店が終わった午後にでも遊びに行こうと思った。


そんな事を考えていると俺達の店にも客が入り始めた。

当然だが俺達はホームページで占いサミットに参加する事は告知してある。

通常のショッピングモールの様に来るのに只ではないが、病気を占って欲しい人は来るだろうとの考えだ。

そして俺の想定通りに客が並び始めた。

少し客がさばけた所で俺は見た事ある人物が来店した。


『ブラッキー慎吾』とか言うお笑い?芸人だ。俺達は一度東京のショッピングモールでこの人を占い、一緒に写真を撮った覚えがある人だ。彼は特に俺に声を掛ける事なく占いが終わると直ぐに店を後にした。

確か以前は虫垂炎か何かだった記憶があるが今回は健康だった。

そんな出来事もあったが他に特筆すべき出来事はなく午前のノルマは終了したのだった。


俺達は受付カウンターに行き、売り上げを報告すると同時にブース代金の支払いをした。

ちなみにブース代金は売り上げの15パーセントだった。時間的にも大した売り上げではなかったからだ。


そして俺達は早速他の占いブースへと足を運んだ。

本当に様々な占いがあり、その中で俺達はダーツ占いが珍しくやってみる事にした。


このダーツ占いはダーツがボードに当たった位置やダーツの強さなどをコンピューターが判断して数字を決めるのだ。

そして人がその数字のカードをお客に渡す仕組みらしい。

俺は占いと言うよりゲームじゃないのか?と思ったが、占い自体がゲームのような物なので文句は言わずに楽しむ事にした。


一人料金2千円を支払い俺がダーツを投げる。

当たった場所は左下の外れのような場所で、ダーツ占いのお兄さんがカードを持って来た。

俺はそのカードを見て顔を引きつらせた。

なぜなら、カードには『女性に注意されたし、女難』と記載されていたからだ。

俺は城島じょうじまさんの言葉を思い出してしまいガックリと肩を落としたのだった。


次にチャレンジしたのは安藤さんだ。

安藤さんのダーツは的の中央辺りにダーツが当たり、お兄さんがカードを安藤さんに手渡した。

俺は気になり安藤さんのカードを覗いてみると、人が人を縄で縛ってある絵だった。

そして文字は『逃がさぬ様に注意されたし、運命』と記載してあった。

何故だろうか俺はそのカードを見た瞬間に身震いがしてしまった。


それから俺達は舞台へと足を運んだ。

舞台では司会の人と知らない女優のような綺麗な人がトークショーをして場を盛り上げていた。

俺達は椅子に座りしばらく見ていると、あまり見たくないお笑い芸人が登場した。


「どうもぉ~七転ななころ六起ろくおき ころんだままやんけデス!よろしく~」


俺はこの二人はお笑いのセンスないだろうと思いながらも一応見る事にした。


「実は最近地方営業にハマっていて、いろんな所に出向いているんだ」


体形の丸い太っている方がボケる。


「それハマっているとは言わないだろ?」


続いて体形の細い方が突っ込む。


「そして地方に行くと必ず言われる事があるんだ」


「どんな事?」


「あんた誰?って」


「まあ、売れていないからしょうがないよな」


「だから俺も言い返すんだ、お前こそ誰じゃボケっ!て」


「客に向かってそれは駄目じゃないのか?」


「そしたら客がお前達三流の受け答えだなって、バカにしてくるんだよ」


「まあ、合っているような気がするが」


「それで俺はムカついたからキレ芸で対応した訳よ」


「まさか…あれをやったのか!?」


「ああ、やってやったぞ。息が続く限りの意味不明な言葉の嵐を、名付けて『高速戦隊 舌レンジャー攻撃』」


「…エロ」


「ちょっと待て!何処にそう言う要素があるんだ?まっまさかお前、俺をそう言う目で見ていたのか」


俺は俺自身の体を手で隠す。


「ちっ違うぞ、何か勘違いしていないか?」


「どう違うんだよ!俺のこの丸い体が目当てなんだろ!俺のオール100超えのナイスバディが目的だろ!」


「どう見ればオール100超えがナイスバディなんだよ」


「バディだけじゃない俺の魅力を伝えてやるよ。春なのに全身からしたたる汗、脇から蒸しあがるかぐわしい匂い、薄くなった頭皮から上がる湯気、喋る度に吐き出されるツンとする強烈な匂い、そして極めつけが…」


「やめろ!はっ吐き気が…」


-


「安藤さん、つまらないし下品だから他行こうか」


俺は安藤さんに声を掛けた。


「ええ、そうしましょう、時間の無駄ね」


俺達は席を立ち会場を少し歩いた所で安藤さんがトイレに行った。

女性トイレは数が少ないのか長蛇の列が出来ていたので、暇つぶしも兼ねて俺は近くで一番空いているおばあさん?がやっているタロット占いへとやってきた。

客は誰もいないので直ぐに席に着いて2千円を支払った。


「いらっしゃい、何を占うかね?」


声もしゃがれていて本当の老婆のようだ。


「そうだな、今とこれからの人生かな」


俺は自分で人生なんて言って、ちょっとカッコイイなと自画自賛した。


老婆は手慣れた手つきでテーブルの上にカードを並べて行く。

そして中央に並べられたカードを裏から表に返すとそこには鎖につながれた骸骨の姿の絵が出ていた。

それを見た老婆は口を開いた。


「あんた様の人生は縛られていると出ているね」


俺は直ぐに聞き返した。


「女性と言う事ですか?」


「いや、違うよ、人生が縛られていると出ている」


「回避する方法は?」


「逃げればその間だけは縛られないと思うけど…」


歯切れの悪い言い方だと思ったが、所詮は占いだ。

俺はこの言葉を残して店を後にした。


「自分の人生は自分で切り開くよ」


俺が占い店より戻ると丁度安藤さんがトイレから出て来る所だったので合流した。


「何処行ってたの?」


「人生占いをして来たんだ」


「それで鈴木君の人生はどうだったの?」


「ん~自分で切り開く事にしたよ」


安藤さんは俺の答えにご不満なのか、ため息をついて答えた。


「はいはい、それじゃあ、もう帰りましょうか。楽しんだでしょ?」


「ああ、又来ようね」


そして俺達は会場を後にしたのだった。


それから数か月は平穏な日々が続いたが、俺達の元へとんでもない所から依頼が来た。


『内閣情報調査室 

 依頼についてお話がしたくメールしました。

 新田にった 和人かずと

電話  000-7199-1616-04510-864

mail  kazuto_niita@nihon_naikaku_jyouhou 』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る